第十七章 決戦前夜

北方戦線の司令部は、緊張に包まれていた。


「状況を説明しろ」


ヴェルナー将軍が、参謀たちに向かって言った。


「鉄喰らいの大群——推定一万体——が、北から南下してきています。その先頭に、王と思われる巨大個体が確認されました」


「王の能力は」


「まだ詳細は不明です。ただし、通常の上位個体とは比較にならない腐食力を持っていると予想されます」


将軍は地図を睨みつけた。


「現在の防衛線で、何日持つ」


「銀鋼の武器を持つ精鋭部隊が前線にいますが……三日、もって一週間でしょう」


「一週間か……」


将軍は鉄平を見た。


「断鉄剣は、どれだけ揃っている」


「十振りです。もう少し時間があれば——」


「時間はない」


将軍は断言した。


「十振りで、やるしかない」


「作戦は」


「精鋭十人で突撃部隊を編成。通常の部隊が鉄喰らいの大群を足止めしている間に、突撃部隊が王に向かう。断鉄剣で王を討ち取れば、残りの鉄喰らいも統制を失うはずだ」


「危険すぎる」


シルヴァ中尉が反論した。


「十人で王に挑むなど、自殺行為です」


「他に方法があるか」


沈黙が流れた。


「ないだろう。だから、これでやる」


将軍は立ち上がった。


「突撃部隊は、志願制だ。死ぬ可能性が高いことを理解した上で、参加する者だけが加わる」


その夜——


鉄平は、陣地の外れで一人、空を見上げていた。


明日、決戦が始まる。自分が作った武器が、人々の命を守れるかどうかが、試される。


「眠れない?」


振り返ると、リーゼが立っていた。


「ああ。少し、考え事をしていた」


「私も」


リーゼは、鉄平の隣に立った。


「ねえ、鉄平」


「何だ」


「私も、突撃部隊に参加するわ」


「何だと?」


「断鉄剣の調整には、私の共鳴が必要でしょ。戦闘中に問題が起きたら、その場で対応できるのは私だけよ」


「危険すぎる」


「わかってる。でも——」


リーゼは鉄平を見つめた。


「私、後ろで待ってるだけなんて、もう嫌なの。父さんが死んだ時も、私は何もできなかった。今度こそ、自分の力で戦いたい」


「リーゼ……」


「止めないで。私、決めたから」


その目には、強い意志が宿っていた。


鉄平は、しばらく黙っていた。


やがて、深く息を吐いた。


「……わかった。一緒に行こう」


「え?」


「俺も、参加する」


「あんたが? でも、戦闘訓練なんて——」


「戦えなくてもいい。断鉄剣が予想外の動きをした時、対処できるのは俺だけだ。それに——」


鉄平はリーゼを見つめた。


「お前を、一人で行かせたくない」


リーゼの目が、大きく見開かれた。


「……馬鹿。そんなこと言うから、変な期待しちゃうじゃない」


「期待?」


「う、うるさい! 何でもないわよ!」


リーゼは顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。


鉄平は、思わず笑った。


「何よ、笑って」


「いや、リーゼは相変わらずだな、と思って」


「相変わらずって、何よ」


「かわいい、ってことだ」


リーゼは絶句した。


「な、何を——」


「冗談だ。怒るなよ」


「怒ってないわよ! ていうか、今、すごく重要なこと言った気がするんだけど!」


「そうか? 覚えてないな」


「覚えてなさいよ!」


二人は、夜空の下で言い合いを続けた。


明日の決戦を前にして、不思議と、心は軽かった。


翌朝——


突撃部隊の編成が発表された。


シルヴァ中尉を隊長とする十人の精鋭。そして、技術支援として鉄平とリーゼが同行することが認められた。


「全員、覚悟はいいな」


シルヴァが、隊員たちを見回した。


「これが、最後の戦いになるかもしれない。だが、我々が王を倒せば、この戦争は終わる。数万の命を救うことができる」


「了解」


隊員たちが、声を揃えて答えた。


「断鉄剣、受け取れ」


一人一人に、青銀色に輝く剣が手渡された。


鉄平とリーゼは、武器を持たない代わりに、予備の断鉄剣と修復用の道具を背負っていた。


「出発」


シルヴァの号令で、部隊は陣地を後にした。


戦場へ——


鉄喰らいの王が待つ、死地へと向かって。

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