第十六章 断鉄剣

神鋼モドキの武器を作る——それは、これまでの鍛造とは全く異なる挑戦だった。


「通常の鋼とは、打ち方が違う」


リーゼが、金床の上で槌を振りながら呟いた。


「硬い。普通の鉄なら、この力で十分形が変わるのに——」


「神鋼モドキは、結晶構造が緻密すぎて、通常の鍛造では形を変えにくいんです」


鉄平が説明した。


「もっと高い温度で軟化させるか、魔法的に結晶を緩める必要があります」


「でも、高温にしすぎると、せっかくの結晶構造が壊れるんでしょ?」


「そうなんです。だから、ギリギリの温度を見極めて——」


「それって、私の勘に頼るしかないってこと?」


リーゼは苦笑した。


「結局、職人の腕次第なのね」


「職人と技術者の、両方が必要なんです。俺が理論を提供して、リーゼが実際に形にする。その組み合わせでしか、この武器は作れない」


「……なんか、照れくさいわね。そういう言い方されると」


リーゼは槌を振り下ろした。


カーン、カーン、カーン——


金属の音が、工房に響く。


「この音、好きなの」


リーゼが、ふと言った。


「どんな音?」


「鉄を打つ音。父さんがいた頃、毎日聞いていた。あの音を聞くと、安心するの」


「そうか」


「父さんは、いつも言ってた。『鉄と話をしろ』って。鉄が何を望んでいるか、耳を澄ませろって」


リーゼは手を止め、熱せられた金属を見つめた。


「今、この神鋼モドキが何を望んでいるか——」


彼女は目を閉じ、意識を集中した。共鳴。金属との対話。


「——わかった」


リーゼの目が開いた。


「この金属は、叩いてほしいんじゃない。導いてほしいの」


「導く?」


「強い力で無理やり形を変えるんじゃなくて、優しく方向を示してあげる。そうすれば、自分から形を変える」


リーゼは槌を持ち直した。今度は力任せではなく、繊細に、リズミカルに打ち始めた。


カン、カン、カン——


軽やかな音。しかし確実に、金属は形を変えていった。


「すごい……」


鉄平は、その光景に見とれた。


リーゼの槌が、まるで踊っているかのように動く。そして、金属はそれに応えるように、美しい曲線を描いていく。


数時間後——


一振りの剣が、完成した。


「これが——」


鉄平は、完成した剣を手に取った。


青みがかった銀色の刃。滑らかな曲線。そして、手に持った瞬間に感じる、異様なまでの軽さと、しかし確かな重心。


「断鉄剣」


リーゼが名付けた。


「どんな鉄も断ち切る剣。この世界で最も強い武器」


「いい名前だ」


鉄平は剣を構えてみた。完璧なバランス。まるで、自分の腕の延長のように感じる。


「でも、一振りだけでは足りない」


「わかってるわ。もっと作る。でも——」


リーゼは疲れた表情を見せた。


「一日一振りが限界。それ以上は、集中力が持たない」


「十分だ。精鋭部隊に配備できるだけの数を揃えよう」


その日から、断鉄剣の量産が始まった。


リーゼは毎日、全力で一振りずつを打ち上げた。鉄平は、その作業を補佐しながら、次の素材を準備した。


一日、二日、三日——


十振りの断鉄剣が完成した時、前線から緊急の知らせが届いた。


「鉄喰らいの王が、防衛線に迫っています!」

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