第十四章 新たな脅威
前線での勝利から一週間後、鉄平たちは王都に戻った。
銀鋼の量産計画を本格的に進めるためだった。鍛冶師ギルドの全工房が稼働し、新しい炉の建設も急ピッチで進められていた。
「現状では、一日に剣が五本、槍の穂先が二十個程度しか作れない」
カタリナが、進捗報告を行った。
「炉の数を増やせば生産量は上がるが、リーゼの共鳴能力に限界がある」
「私だけじゃなくて、他の人も共鳴できるようにならないかしら」
リーゼが言った。
「フォルジア家の血を引く者なら、適性がある可能性がある」
メルティアが答えた。
「この王都に、他にフォルジアの血縁者はいないのか?」
カタリナは首を横に振った。
「私とリーゼ以外には、知らない。弟のアルドは子供を一人しか残さなかったし、私は結婚しなかった」
「では、私が試してみよう」
カタリナは、炉の紋様に手を当てた。目を閉じ、意識を集中する。
しかし、何も起こらなかった。
「……やはり、ダメか」
カタリナは落胆した様子で手を下ろした。
「叔母さんには、適性がないの?」
「あるいは、加齢で失われたのかもしれん。若い頃に試していれば、違ったかもしれないが」
「訓練で伸ばすことは?」
「限界がある」
メルティアが言った。
「金属共鳴は、生まれ持った才能に大きく依存する。訓練で多少は伸ばせるが、適性のない者が習得するのは極めて困難だ」
鉄平は考え込んだ。
「別のアプローチはないでしょうか。共鳴能力に頼らない製造法とか」
「理論的には、魔力を機械的に注入する方法が考えられる。だが、それには高度な魔法装置が必要になる。開発には時間がかかる」
「どのくらい?」
「半年から一年、あるいはそれ以上」
「そんなに……」
時間がない。鉄喰らいの侵攻は続いている。半年も待っていたら、防衛線が崩壊するかもしれない。
「とにかく、今できることを最大限やるしかない」
鉄平は決断した。
「リーゼ、無理をさせて申し訳ないが、しばらくは毎日共鳴をお願いできるか?」
「もちろん。私にできることは、何でもするわ」
「ありがとう。その間に、俺は効率化の方法を考える。少しでも、一回の共鳴で作れる量を増やせるように」
こうして、銀鋼の増産に向けた努力が続けられた。
しかし、その最中に、不穏な知らせが届いた。
「緊急報告です!」
伝令が、工房に駆け込んできた。
「北方戦線で、異変が起きています!」
「何だと」
エルヴィンが、伝令から報告書を受け取った。その内容を読んで、顔色が変わった。
「どうしたんですか」
「鉄喰らいの行動パターンが、変化している」
エルヴィンは報告書を読み上げた。
「これまでは無秩序に見えた攻撃が、組織的になり始めている。まるで、誰かが指揮を執っているかのように——」
「指揮……上位個体が残っているのか?」
「それだけではない。報告によれば——」
エルヴィンは息を呑んだ。
「北の山脈の向こうから、新たな大群が南下してきている。その先頭に、これまでに見たことのない巨大な個体がいるという」
「巨大な個体?」
「報告では、『体長十メートルを超える、黒い山のような存在』と記されている」
部屋の空気が凍りついた。
「それは——」
メルティアの声が震えていた。
「もしかすると、王……鉄喰らいの王が、動き始めたのかもしれない」
「王……」
「古代の文献に記録がある。鉄喰らいを統べる最上位の存在。それが本当に存在するなら——」
メルティアは目を閉じた。
「銀鋼でも、太刀打ちできないかもしれない」
「そんな……」
リーゼが絶望的な声を上げた。
「じゃあ、どうすればいいの!」
沈黙が流れた。
やがて、鉄平が口を開いた。
「もっと強い合金を、作るしかない」
「もっと強い?」
「銀鋼は、通常の鉄喰らいには有効だった。でも、王クラスの相手には足りないかもしれない。なら——」
鉄平はメルティアを見た。
「古代の文献に、神鋼の製法は記されていないんですか」
「断片的なものはある。だが——」
メルティアの表情が曇った。
「それは、禁忌とされている。神鋼の研究こそが、鉄喰らいを生み出した原因だからだ」
「でも、他に方法がないなら——」
「同じ過ちを繰り返すことになる」
「繰り返さないようにする。前の研究者たちがどこで間違えたのか、それを避けて進めばいい」
鉄平の目には、強い決意が宿っていた。
「俺は、技術を独占しない。全てをオープンにする。皆で監視し合いながら、慎重に進める。それでも危険だと判断したら、そこで止める」
「……お前は、自分が何を言っているかわかっているのか」
「わかっています。でも——」
鉄平は窓の外を見た。遠くに、王都の街並みが広がっている。
「あの人たちを守るために、できることは全てやりたいんです」
メルティアはしばらく黙っていた。
やがて、深いため息をついた。
「……いいだろう。神鋼の研究記録を、お前に見せよう」
「ありがとうございます」
「ただし、約束しろ。危険の兆候が見えたら、即座に中止すると」
「約束します」
こうして、禁断の研究——神鋼の再現への挑戦が、始まることになった。
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