第十二章 鉄と魔の激突
夜明け前、作戦が開始された。
精鋭部隊——「鉄狼隊」と呼ばれる三十人の兵士たち——が、銀鋼の武器を手に陣地を出発した。彼らは王国軍の中でも最も優秀な戦士たちで、鉄喰らいとの戦闘経験も豊富だった。
「目標は、東の丘に出現した上位個体だ」
隊長のシルヴァ中尉が、作戦を説明した。三十代前半の女性将校で、短く刈り込んだ黒髪と鋭い目つきが印象的だった。
「通常の鉄喰らいを排除しながら接近し、上位個体を倒す。これまで何度も挑戦して失敗してきた目標だが——」
シルヴァはリーゼに視線を向けた。
「今回は、新しい武器がある。期待していいんだな?」
「効きます」
リーゼは自信を持って答えた。
「保証するわ」
部隊は荒野を進んだ。鉄平とリーゼは、護衛に囲まれながら後方についていく。メルティアもまた、魔法的な支援を行うために同行していた。
やがて、前方に黒い影が見えてきた。
鉄喰らいの群れだ。
数は五十を超えている。小型から中型まで様々なサイズの個体が、こちらに向かってきていた。
「戦闘準備!」
シルヴァの号令で、兵士たちが陣形を組んだ。
「銀鋼、構え!」
銀色に輝く剣が、朝日を受けて煌めいた。
「突撃!」
鉄狼隊が一斉に走り出した。
鉄喰らいとの距離が詰まる。五十メートル、三十メートル、十メートル——
「斬れ!」
最初の一撃。
銀鋼の剣が、鉄喰らいの体を切り裂いた。
通常の鉄なら、触れた瞬間に腐食して折れるはずだった。しかし銀鋼は、その形を保ったまま、敵の体を貫いた。
「効く! 本当に効くぞ!」
兵士から歓声が上がった。
次々と鉄喰らいが倒されていく。銀鋼の武器は、通常の剣と同じように機能した。いや、それ以上だった。魔法的に強化された結晶構造は、通常の鋼より硬く、鋭い切れ味を持っていた。
「すごい……」
鉄平は、その光景に目を見張った。
自分が作った武器が、確かに役立っている。人々を守るために。
「前進! 上位個体を目指せ!」
シルヴァの指揮の下、部隊は丘を登っていった。
鉄喰らいの群れを突破し、頂上に近づく。そこに、異形の存在が待ち構えていた。
上位個体。
体長は三メートルを超える。通常の鉄喰らいとは明らかに異なる、禍々しい威圧感を放っていた。黒い体表は金属のように光り、その中に赤い光の筋が走っている。
何より異なっていたのは、その目だった。
知性の光が宿っている。こちらを見据える視線には、明確な敵意と——どこか、悲しみのような感情が見えた。
「鉄狼隊、包囲!」
兵士たちが上位個体を取り囲んだ。
しかし、上位個体は動かなかった。ただ、じっと鉄平の方を見つめていた。
——お前は。
鉄平の頭の中に、声が響いた。
心話だ。鉄喰らいが、心話で語りかけてきている。
——お前は、鉄を知る者か。
「……何だと」
——この匂い。千年ぶりに嗅ぐ。懐かしい、鉄の匂い。
上位個体の声は、敵意に満ちているはずなのに、どこか寂しげだった。
——お前たちが作った武器。それは、かつて我々を滅ぼした者たちが使っていたものと同じだ。
「我々を滅ぼした? 何を言っている」
——知らぬのか。我々は、かつて人間だった。
鉄平は息を呑んだ。
「人間……だと?」
——古代の製鉄者たち。完璧な金属を求め、禁忌に手を出した者たち。その成れの果てが、我々だ。
「そんな——」
——だから我々は、金属を憎む。我々を怪物に変えた、呪われた技術を憎む。全ての金属文明を滅ぼし、この過ちを二度と繰り返させないために——
上位個体が、動いた。
「散開!」
シルヴァの叫びと同時に、上位個体から黒い波動が放たれた。
通常の腐食能力とは比較にならない、強力な攻撃。銀鋼の武器を持った兵士たちでさえ、直撃を受ければ致命傷を負う。
「避けろ!」
兵士たちが散り散りになる。何人かが波動の余波を受け、倒れた。
「リーゼ、共鳴を!」
メルティアが叫んだ。
リーゼは地面に手をつき、意識を集中した。彼女の魔力が、銀鋼の武器全てに流れ込む。
共鳴。
武器が輝きを増した。魔法的な強化が、さらに高まる。
「今だ!」
シルヴァが銀鋼の剣を構え、上位個体に斬りかかった。
他の兵士たちも続く。四方から、銀の刃が鉄喰らいの王に迫る。
上位個体は必死に抵抗した。黒い腕で剣を払い、腐食の波動を放つ。しかし、銀鋼はその攻撃に耐え、確実にダメージを与えていった。
「効いている!」
「押せ、押し込め!」
戦いは熾烈を極めた。何人もの兵士が傷つき、倒れていく。しかし、その都度、仲間がカバーに入り、攻撃を続けた。
やがて——
シルヴァの剣が、上位個体の胸を貫いた。
——お前たちは、同じ過ちを犯す。
倒れていく上位個体が、最後の言葉を発した。
——力は、いずれ制御を失う。お前たちも、我々と同じ道を辿るだろう——
その言葉を残して、上位個体は動かなくなった。
戦場に、静寂が訪れた。
「……勝った、のか」
シルヴァが、血まみれの剣を下ろしながら呟いた。
「勝ちました。上位個体を、倒しました」
兵士たちから、疲れ切った歓声が上がった。
しかし鉄平は、喜びよりも、上位個体の最後の言葉が頭から離れなかった。
——同じ過ちを犯す。
——我々と同じ道を辿る。
その警告の意味を、彼はまだ完全には理解していなかった。
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