第3話 味方の条件

私に一番よく話しかけてくるのは、山岸だった。

山本さんを露骨に睨んでいた、あのおじさんだ。


「ここ、ややこしいからさ」

そう前置きして、内部の事情を教えてくれる。

誰が面倒で、誰に逆らわないほうがいいか。

私はそれを“親切”だと思っていた。


「君は空気読めるから、大丈夫やと思うよ」


褒め言葉のようで、条件付きの安全宣言。

私はうなずいた。

余計なことを言わなければ、ここにいられる。

そう信じたかった。

ある日、共有ミスが起きた。

原因は明らかだったけれど、誰も触れなかった。

沈黙が続き、視線が集まる。


「私、そこ確認してませんでした」


正直に言っただけだった。

責任を押しつけるつもりも、誰かを責めるつもりもない。


「まあまあ、今回はいいやん」


山岸が笑って場を締めた。

助け舟に見えた。


でも、そのあと小さく続いた言葉を、私は聞き逃さなかった。


「真面目すぎると、浮くで」


その日から、私の“正確さ”は評価されなくなった。

丁寧は遅いに変わり、確認は融通がきかないに変わる。

雑談の輪に入ると、話題がすっと切り替わる。

味方だと思っていた人は、

味方でいる条件を、最初から決めていただけだった。


ここでは、

正しさは守ってもらえない。

守られるのは、空気だけだ。


私はまだ、この場所で生き残れると思っている。

その考えが、

いちばん危険だということに、気づかないふりをして。

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