第24章(エピローグ) 織りなす未来

それから、数百年という時が流れた。


王都の中央広場には、一人の男の銅像が立っている。 彼は剣を持たず、杖も持たず、首から「メジャー(巻尺)」を下げ、片手には「ストップウォッチ」を持っていた。


通りがかった吟遊詩人が、旅の子供たちにその像の説明をしている。


「あれこそが、伝説の『機織りの賢者』アルカス様だ。彼は魔法の布で魔王を封じ、世界を寒さと病から救ったと言われている」 「ねえ、あに持ってる時計みたいなのは何? 魔導具?」 「ああ、あれは『時を操る魔道具』だそうだ。アルカス様はあれを使って、一日の時間を延ばし、常人の百倍の速さで仕事をしたと言われている」


銅像の足元には、花束と共に、色とりどりの布切れが供えられている。 それは、職人たちが自分の技術向上を祈って捧げたものだ。


その銅像を、遠くから眺める老人がいた。 身なりは質素だが、着ている服の生地は、見る人が見れば驚愕するほどの超絶技巧で織られたものだった。


「……時を操る魔道具、か。ただの残業管理ツールなんだがな」


老人は苦笑し、ポケットから古びたストップウォッチを取り出した。 針はもう動かない。 だが、その金属の冷たさは、かつての熱い日々を思い出させる。


彼は知っていた。 世界は救われたが、それで終わりではないことを。 今もどこかの工場で、糸が切れ、機械が止まり、誰かが頭を抱えていることを。 そして、そのトラブルを乗り越えるたびに、少しずつ技術が進歩していくことを。


「さて、行くか」


老人は背伸びをした。 彼の魂は、何度転生しても変わらない。 そこにあるのは、「より良いものを作りたい」という、単純で、業の深い職人魂だ。


風が吹いた。 彼の着ているコートがはためく。 その裏地には、金色の糸で小さな刺繍が施されていた。


『Quality is First.(品質第一)』


織りなす者は、世界を繋ぐ。 縦糸に歴史を、横糸に人々の想いを乗せて。 その布がいつか擦り切れる日が来ても、また誰かが新しい糸を紡ぎ出すだろう。 かつて、一人の工場長がそうしたように。


老人は雑踏の中へと歩き出した。 その背中は、どこにでもいる隠居老人に見えたが、その歩調は正確無比なリズム(タクトタイム)を刻んでいた。


物語は終わらない。 ただ、次の工程(プロセス)へ進むだけだ。


(完)

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繊維メーカー異世界転生_織りなす者は世界を繋ぐ ~ブラック工場長、異世界で産業革命を起こして伝説の賢者となる~ もしもノベリスト @moshimo_novelist

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