第20章 決着と排水処理
目が覚めると、私は病院のベッド……ではなく、ソフィアの膝の上にいた。 見上げると、彼女の美しい顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「……あ、目が開いた! アルカス! アルカス!」 「……重いよ、ソフィア」
体を起こそうとして、激痛が走る。 全身がミイラのように包帯で巻かれていた。 もちろん、私が開発した最高級の抗菌包帯だ。
「状況は?」 「……見て」
ソフィアが指差した先。 テントの外には、どこまでも広がる青空があった。 あの紫色の空は消えていた。 そして、目の前に広がっていた黒い荒野には、白い雪のようなものが積もっていた。 浄化された魔王の残骸――無害な結晶体だ。
「魔王は消滅したわ。いえ、還元されたの。大気中の魔力濃度は正常値に戻った。……私たちが勝ったのよ」
「……そうか」
私は安堵のため息をつき、そしてすぐに顔をしかめた。
「で、あの結晶体は誰が片付けているんだ?」
「え? 兵士たちが、お祝いムードで……」
「馬鹿者! あれは高純度の魔力結晶だぞ! 放置したら自然発火する危険があるし、資源としても超一級品だ! すぐに回収班を編成しろ! 分類して倉庫へ運べ!」
私は包帯姿のまま立ち上がり、テントの外へ飛び出した。 そこには、勝利の美酒に酔う兵士たちと、エルフとドワーフが肩を組んで踊る姿があった。 平和な光景だ。 だが、工場のラインは止めてはいけない。
「おい、そこのお前! 結晶を踏むな! 袋詰めしろ!」 「ガレイン団長! 防壁の解体スケジュールはどうなってる! 資材は再利用するんだぞ!」
私の怒鳴り声が響き渡ると、兵士たちは一瞬驚き、そして爆笑した。 「また工場長が始まったぞ!」 「戦争終わったのに、休ませてくれよ!」
彼らは笑いながらも、テキパキと動き出した。 その動きには、以前のような無秩序さはなく、洗練されたチームワークがあった。 私が育てた組織だ。
ソフィアが背後から、優しくショールを掛けてくれた。 あの赤色の、色落ちしないショールだ。
「少しは休みなさいよ、英雄さん」
「英雄じゃない。工場長だ」
私はショールの温もりを感じながら、青空を見上げた。 世界は救われた。 だが、服は破れるし、流行は変わる。 人が生きている限り、繊維の仕事はなくならない。 この異世界で、私の「終わりなき残業」は、まだまだ続きそうだ。
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