第19章 最終工程:整理加工
暴風の中、私は壁の頂上に立った。 眼下では、黒い渦が壁を食い破ろうと蠢いている。 恐怖で足がすくむ。 私の体は、英雄のような強靭な肉体ではない。ただの子供の体だ。 だが、私の目は「解(こたえ)」を見ていた。
繊維の破断点。 そこを繋ぎ止めるには、物理的な強度だけでは足りない。 「概念」を織り込む必要がある。
「エルドレッド! 聞こえるか! 僕を『針』にしてくれ!」
通信機越しに叫ぶ。
『何を言っている! そんなことをすれば、貴様の体は魔力分解されるぞ!』
「構わない! この糸を、壁と魔王ごと縫い合わせるんだ!」
私は手にした糸を放り投げた。 それは風に舞い、光の帯となった。 エルドレッドが意図を理解し、涙声で呪文を詠唱する。 私の体が光に包まれ、巨大な魔力の針となって、糸を先導する。
ザシュッ!
私は空を駆け、破れかけた壁と、魔王の核を貫いた。 縫合(Suture)。 傷口を塞ぐように、天と地を縫い合わせる。
意識が飛びそうになる。 魔王の汚染思念が、直接脳内に流れ込んでくる。 『痛い、苦しい、憎い、捨てないで……』 それは、捨てられたモノたちの怨嗟の声だった。
「……捨てたりしないさ」
私は薄れゆく意識の中で、その黒い塊を抱きしめるように意識を広げた。
「お前も、元は役に立ちたかったエネルギーなんだろ? 使い方が悪かっただけだ。俺がリサイクルしてやる。新しい形に、生まれ変わらせてやる」
繊維屋の矜持。 ボロ布でも、クズ糸でも、手を加えれば商品になる。 この世に、無価値なものなどない。
私の体から、金色の光が溢れ出した。 それは「アルカス規格」の検品合格の印。 私が触れた黒い泥が、次々と白い光の粒子へと変わっていく。 縫い目が広がり、壁全体が光り輝く巨大な魔法陣へと変貌した。
「仕上げ(フィニッシング)だ……! 熱セット、完了!」
閃光が世界を包んだ。 私はその光の中で、懐かしい工場の機械音を聞いた気がした。 ガシャン、ガシャンと、世界を織り直す音を。
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