EP05 僕はなぜ?
地球に隕石が落下してから3日目
天からお告げのように聞こえる少女の声は、なおカウントダウンを告げる。
────選択者が9999人まで絞り込まれました。
非日常も続けば日常になるとは誰が言ったのか。
この日常を僕らは受け入れ今日も学校の教室へ来ていた。
「────それで、昨日の宿題の答えは分かった?」
昨日の別れ際、四条さんは僕に宿題を課していた。
それは「なぜ、隕石の少女はわざわざ僕らに選択権を委ねたか」という事。
SF的に考えてみよう。
例えば圧倒的な科学力を持つ異星人が地球にやって来たのであれば、わざわざ下等種族の地球人なんかに選択権を委ねるなんてはずがない。強引にその圧倒的な科学力で奪えばいいのだ。
しかし隕石の少女はそれをしない。何故か?
「────何故か?」
・・・と四条さんは昨日の質問を繰り返す。
「たぶん、それをする力はあるけど出来ないんじゃないかな?」
じゃあなぜ出来ないのか?
「それはきっと彼らなりの倫理的な問題か?それとも選択をする事が出来ない状況にある」
「・・・面白い答えだね。80点」
今日の四条さんは厳しめ判定らしい。
「でもじゃあなぜそれが出来ないんだと思う?」
僕もそこが気になっていた。
「例えば自分の種族の命運を他種族に売り渡す軽薄な種族かテストしているとか?」
「SF映画でありがちなやつだね。裏切者はあっけなく殺されるパターンのやつ」
やっぱり今日の四条さんは厳しめだ。
っていうかSF映画でそんなのあるんだ。というかやっぱり四条さんSF大好きなんだな。
「ありがちだけど。たぶんそうだと思うよ。だって選択者の人数が刻々と減っているでしょ?きっとあれは軽薄に人類の命を渡しちゃう人を除外しているんじゃないかな?」
「ほほう?」
「きっと全人類の命を差し出す人間・・・、選択者にも何か基準や条件が合ってそれを確かめてテストしているんだと思う」
「面白い推理だね90点」
さっきよりも点数が上がった。
やっぱり今日の四条さんは厳しい。
「でも仮にそうだとすると異星人ちゃんはずいぶんまどろっこしい手を使うよね。だって人類の生命を糧に自分の力は欲しい。けどその選択する人選はやたら厳しい」
「しかもそれを地球が滅亡するまでにやらないといけない」
「・・・そうだよね」
「だから隕石の少女は焦っている。」
もし仮にこの会話を他人に聞かれたら、僕らは間違いなくどうかしていると思われるだろう。
国家反逆罪?地球反逆罪?不敬罪?何かしらかの重罰に処されることは固くないはずだ。
でもこれはただのしがない学生の雑談だ。
そう、地球が滅亡するまでの他愛もない暇つぶしだ。
「相手の状況を多少なりとも理解推察出来たとして、改めて問うけど────」
かしこまって四条さんは仰々しく言葉を発す。
「全地球の人類の生命と引き換えに当機に力を下さい」
「・・・やっぱり、あげないんじゃないかな。」
「・・・」
「・・・」
しばしの間
「やっぱり、そうだよね」
「そうだよ、あげるなんて答えるのはどうかしているよ」
「そうだよね、アハハハハ」
終末ムードの中、はじめて四条さんと笑いあった気がする。
初恋の人と楽しく笑えるってすごく幸せだな。こんなのが世界の終わりならむしろ大歓迎だ。
「じゃあ仮に、」
「・・・?」
四条さんは再度あらたまって問いかける
「────全地球の人類の生命じゃなくて、私の生命と引き換えに異星人に力をあげるなのならどうかな?」
「え…、え?」
「分かりやすく言おうか?私四条みゆきは今死にかけています。その命を異星人さんが奪って異星人さんの糧とする・・・そういう条件ならどうだい?」
「え…いやそれはどうかな」
全地球人類じゃなくて、たった一人。人数だけの問題なら天秤はずいぶんフェアに傾く。
しかしそれは初恋の相手の命だ。いやこの場合質問の意図に初恋かどうかは含まれないと思う。
でも四条さんの命の生殺与奪権を僕が握る?身近な人の命となれば一気に実感が強まる。他人事よりも自分事。事態が日常と乖離しすぎていて考えたこともなかった。
見ず知らずの全人類の命では現実味に乏しいが、それが初恋の四条さんの命となれば。というか四条さんの命も全人類の命に含まれるのか。・・・と言う事はもちろん僕の命も・・・。
「・・・それはどういう事」
「言葉通りの意味だよ。いままさに私は死にかけている。その生命が無駄になるか、誰かの糧になるか・・・といういう事だよ」
死に行くものの命が誰かの役に立つと言えば聞こえは美しい。しかし今僕らが直面している問題はそうではない。
「・・・もしそれが命を奪われる人の意志ならそれも良いと思う。でも・・・」
「でも?」
「その生殺与奪権を他人が持つのはおかしいと思う」
「でも、私の生命は受け継がれて、誰かの中で永遠に生き続けるんだよ?」
「確かにそうかもしれないけど・・・でも本人の希望でないのなら・・・、命は生き続けても意思は生き続けないんじゃない?」
「面白い着眼点だね。はなまるをあげよう。」
四条さんはパチパチパチとわざとらしく拍手をする。
だけど嬉しいのかどうかなんて分からない。
「たぶん、だけど」
「・・・たぶん?」
僕はずっと思っていた事を、意を決して口にする。
「異星人は僕らの、地球人の区別がついていないんだ」
「へえ・・・」
「だからこんな取引をするんだ。価値観が違うから生殺与奪権も関係ない、その判断を正しく出来る人を探しているだけなんだ。正しい判断が出来る人を探しているだけなんだ」
「それに・・・」
これはきっと言ってはいけない。言ったらこの幸せな日常が本当に壊れてしまう。
「────四条さんは、もういないんだろう?」
────選択者が1人まで絞り込まれました。
そういう声が、目の前から聞こえた。
視線を上げて目の前の人物を見ると、そこにいたのは四条さんではなく。
真っ白なワンピースを纏った隕石の少女だった。
この少女を僕は知っている。
少女は以前“僕の夢”に現れた人物。隕石の少女その人だ。
突如目の前に現れた隕石の少女はまるでSFマンガに出てくる様な近未来的なボディスーツ・・・ではなく真っ白で純白のワンピースを身にまとう年端もいかぬ少女だ。
ぱっと見はただの少女だが髪の毛は青白い光を放ちフワフワと宙に舞い、その体も地面から数cm浮いている。現実味の無いその恰好を見れば誰だってこの少女が普通でない事は一目瞭然である。
「どうして分かったのですか?」
隕石の少女は答え合わせを求めるように流暢な日本語で問いかける。
「どこか心の奥で分かっていたんだ、きっとこれは現実じゃないんだって。」
だってすごく楽しかったから。
「そういう事ですか」
続く言葉を聞かずとも心が読めるのか隕石の少女は得心する。
「昨日家に帰ったら自分の家じゃないみたいに落ち着かなくてさ。家族がまるで家族じゃないみたいに感じて、おかしいだろ?自分の両親のはずなのに、一緒に暮らした記憶はあるのにまるで他人みたいな感じで全然親近感がない。」
「そういう事ですか」
言葉にせずとも目の前の少女は全てを理解してくれる。
しかし言葉にしないと僕自身が納得できない。
「家で本棚を見たんだ。そこに星空の図鑑があって、子供の頃にたくさん読んだのを思い出したんだ。子供の頃僕は星空や宇宙が好きでずっとその本ばかり読んでいたんだ。その記憶はたくさん思い出せた。」
「そういう事ですか」
「────でも、好きって言う感情は思い出せなかったんだ。」
昔好きだった星空の本を久しぶりに読んでみて、当時の思い出や星空の知識が濁流のようにたくさんの情報が思い出された。
家族でプラネタリウムへ行った記憶、天体望遠鏡を買ってもらった思い出。星座の名前だって天体の名前だってたくさん思い出した。
そして四条さんと同じ星座のキーホルダーを買った思い出。たくさんの思い出を思い出した。
でも、そこに星空が好きと言う感情は伴わなかった。
「どんなに思い出そうとしてもダメなんだ。記憶や思い出はいくらでも鮮明に思い出せるのに、その時何を考えて感じたかっていう思い出が全然出てこない」
「そして確信したのが今日だ。大好きだった四条さんと話していても、好きだったっていう思い出はいくらでも出てくるのに、好きって言う感情が出てこないんだ!」
「世界はどうなってるの?僕は何者なの?キミは知っているんでしょ?頼むから答えてよ!」
捲し立てる様に一方的に投げかける僕の言葉を、目の前にいる隕石の少女は静かに受け止める。
言葉なんか聞かなくたって全部分かっているはずなのに────
隕石の少女の唇はゆっくりと語り始める。
「あなたは人間ですよ。ただしあなたが生まれたのは70時間前ですが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
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【Tips】
波多野六郎太
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