EP03 世界が終わるまであと何分?
首都機能のマヒした大都市圏から200km離れたとある地方都市。そこが僕、波多野六郎太の住む街だ。
「────波多野君は世界の終わりって信じる?」
そんな思春期染みた問いかけを投げるセーラー服の女生徒は僕の幼馴染にして同級生の四条みゆきだ。
隕石衝突の翌日、世界大混乱の中でなぜか僕らはいつものように学校へ来ていた。
「もしもこの世の終わりが存在するなら、きっと今みたいな状況の事をいうんだろうね」
僕は先ほどの四条さんの問いかけに答える。静寂に満ちた教室内に僕らの声だけが寂しく響き渡る。
おそらく時刻は夕方。・・・というのも赤い霧により日の光は遮られ正常な時間の感覚はない。教室備え付けの時計だけがまるでいつもと同じように時を刻む。まもなく4時ちょうど、世界の終わりなど知る由もない単純なチャイムが本日の終わりを機械的に告げる。
スマホの電波は圏外。外部から情報を得ることも、外部に助けを求める事も不可能。唯一の情報手段と言えば街のコミニティFMがときおり入るぐらい。そのラジオもほとんど砂嵐ばかりでたまに聞こえたかと思えば一世代前に流行った曲か、現在の街の惨状を伝える悲壮きわまるニュースばかり。
かくして思春期真っ盛りの僕らはいま目の前すべてを覆い隠す白い霧を眺めながら、こうして終末ムードに思いを馳せるのだった。
「昨日の夜入ったラジオで言ってた。昨日落ちた隕石の影響でオゾン層に穴が開いちゃったんだって」
「へえ、そうなんだ。それは大変だね」
僕らはとりわけ終末論者でもなければ、オカルトが好きというわけでもない。でもいま人と話せば隕石だの世界の終わりだのそういった話題しか出てこない。
皆分かっているのだ、世界があと少しで終わるという事を・・・。
「隕石が落ちてきたらもっと一瞬で死ぬものだと思っていたわ」
「ホントそれね」
「ニュースで他の国の戦争が流れてもさ、ぜんぜん現実感がないのに。いまは隕石が落ちたっていう、そっちの方が全然現実味がないのに、今はみんなそれを信じてる。なんだか可笑しいね」
「ホントそれね」
不謹慎極まりのない会話だが、実際に世界の終わりを目の前にすると人は案外冷静なモノだ。
「隕石はニュージーランド沖に落ちたんだってね」
「噂で聞いたけどそれって本当なの?」
隕石衝突から霧が世界を覆うまで、あらゆる情報が錯綜していた。こんな地方都市にあっても混乱の状況は凄まじかった。
────まず起こったのは地の底から突き上げるような巨大な地震。体感で震度6以上はあったと思う。その時僕らはいつものように学校で授業を受けており地震が起きた瞬間みな一様に机の下へと身を隠した。
最初の初期微動…というにはあまりにも大きな縦揺れ、その後に来る主要動に供えてその後数分は机の下に隠れていたと思う。しかし主要動は来なかった、なぜなら地面を揺らしたそれは僕らが考える意味での地震ではなかったのだから。
街中の電気はすべて止まり、電車はストップ。車は動けたものみな大災害かと思い車道の中央を開けて規則正しく路肩に車を停めた。幸いにして建物にはほとんど被害がなく、人々は震度のわりに被害が少なかったことに安堵した。
そして地震から数分遅れてやってきたのは衝撃波だ。生まれてはじめて体験するその現象に誰もが驚いた。強烈な大気の振動は体を殴りつけ、窓は粉々に砕け散り、道路にいた車は横転。衝撃波は砂埃を巻き上げ、真昼間だというのに街中を暗闇に染めた。
衝撃波というものになじみのない僕らは最初こそこれが主要動だと勘違いしたが、地震の被害とあまりにも違うその破壊力と現象を前に、人生ではじめて死を直感した。
状況を確認しようと僕らは手に持ったスマホの画面を見るも電波は圏外。それが衝撃波だったと最初に伝えたのはラジオだった。
学校の校内放送から大音量で先ほどの災害の状況を伝えるラジオの音声が流れだす。衝撃波という馴染みのないワードに学校にいた生徒はみな大混乱。ちなみにあとで知った話だが、この時すでにテレビは映らなくなり固定電話も不通、携帯などは言うに及ばず。学校は備え付けの非常電源でなんとか機能を保てていたらしい。
そして混乱に拍車をかけて第三の災害が起こる。衝撃波からさらに遅れて数分ほど経ったころ、急に風がそよいだかと思ったら、衝撃波が来た方向と同じ方角から例の赤い霧がまるで虫の大群がごとく蠢きながらやって来たのだ。
地震、衝撃波に続いて襲いかかる第三の異常事態、この赤い霧は一瞬にして街を覆い尽くし。学校にいた僕らは急遽家へと帰された。
家に帰る時に見た街の惨状は凄惨たるものだった。横転した車、飛び散る割れた窓ガラス、街路樹が根元からボキっと倒れ、街は霧と砂ぼこりで覆われる。もし何も知らずにこの事態だけを目撃したのなら台風被害だと考えるだろうか、しかし台風にしては雨でぬれた痕跡などはどこにもなく。戦争…そう戦争被害を受けた街、そんな印象がピッタリの惨状だ。といっても建物の倒壊はほぼゼロで地震による被害ではなく、その後の衝撃波による損壊がほとんどだ。
街のスーパーやコンビニには買い占めの一般人が詰めかけ、商品棚はほとんど空。普段人の入っていない個人商店でさえ売り物が尽きているのには、子供ながらに災害時の集団心理の恐ろしさを感じたほどだ。
────そんないつもと違う下校途中でたびたび街の人が“これは隕石の衝突だ”と話すのを聞いた。
情報が錯綜…そもそも情報を得る手段も限られるが、情報が錯綜したほぼすべての一般人にとってこの大災害の原因が隕石であることなど想像すらできないし知りようもないのだ。
しかしこんな通信もままならない状況下にあって人の噂の拡散力というものは凄まじいもので。僕、波多野六郎太もこの下校の時はじめてこの惨状が隕石の仕業であると知る事になるのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「────隕石はニュージーランド沖に落ちたんだってね」
隕石衝突から二日目の夕方。一面赤色の霧に染まる町を見ながら僕らは話す。
「噂で聞いたけどそれって本当なの?人によってはインドに落ちたっていう人もいるみたいだけど?」
「うふふ、どうなんだろうね。」
「正確な情報を得る手立てなんかどこにもないから」
「波多野くんはまるで他人事みたいだね」
けして他人事などではなく僕も間違いなく被害の当事者である。それは1枚残らず割れた学校の窓ガラスが物語っている。昨日の被害で学校は本日休校、生徒はみな自宅での待機を指示されている。
それでもいつものように学校に来てしまうのは、それが習慣でありそれ以外にやる事も特にない体。自分たちの状況を客観的にみるとどこか面白く可笑しく感じられ笑えてしまう。
「いちおう渦中の当事者なんだけどね。でも復旧も始まらないし救助も来ない。せめて気晴らしになるのならこんなタラレバのオカルト話も暇つぶしにはなるよ」
そう、被害から1日たっても救助が来る様子はない。ましてや情報が寸断されている状況だ。これがこの街だけの出来事なのか、この国全体がこうなっているのか、はたまた全世界的な出来事なのかそれすら知りようがないのだ。
状況に混乱しているのは子供だけでなく大人も一緒だ。それはいまだに片づけ始められていないこの割れた窓ガラスが如実に物語っている。
「波多野くんは隕石が落ちたって言う話、信じてるの?」
四条みゆきは悪戯っ子のように、そんなそもそもの質問を投げかける。
「どうだろう、そう噂をしている人が多いから一応信じているけど。でも流石に現実感がなさすぎる。もし本当に隕石が衝突したならそれこそ四条さんの言うように人類なんか一瞬で滅亡するんじゃないか?」
「そうだねえ~、不思議だねえ」
からかうような四条さんの態度。
「だけどね、普通じゃあない事態が起きているのもまた事実。この被害は明らかに地震じゃない、それにあの衝撃波。それにこの霧、どれもが異常!異常すぎるよ、だからきっとこれは隕石が落ちたに決まっている」
別に僕たちはただの学生で、地震や災害の専門家なんかじゃない。だけどこれだけは分かる。
「隕石が落ちてこんな霧が発生すると思う?それに隕石がどこに落ちたにせよ、影響が日本にまで波及しているんだ。それにしては被害も小さすぎるんじゃないかな?」
「────波多野くんは冷静だね」
冷静も何も、僕だって混乱しているんだ。この状況がいつまで続くのか分からないという、それだけの事実がこんなに不安を駆り立てるなんて想像したこともなかった。
「それに政府の対応も謎だ。隕石が落ちたのならもっと全国的にサイレントか何かで周知があるってもいいんじゃない?」
「通信障害が影響しているんじゃないの?人工衛星も全部落ちたとか?そう・・・例えば太陽フレアの影響とか、オゾン層に穴が開いてさ♪」
四条さんの方こそいやに冷静だ。さすがにSF映画の見過ぎだ。そういえばSF映画と言えばこうやって街が一面の霧に包まれるパニック映画があたっけ?もちろん僕は見た事無いが…
「仮にもしこのまま助けが来ずに地球が終わるとしたら、四条さんはどうする?」
「そうだね…」
四条みゆきは数舜思案して答える。
「私は、最後の瞬間まで私らしく生きたい」
「なにそれ?」
「聞いたのは波多野君だよ?」
最後の瞬間まで自分らしく生きたい。それはとてもありふれて普通で、しかし他に選択肢などないのだとしたら当然なのかもしれない。
いまこの瞬間にあって現状を打破する選択肢など誰一人持ち合わせていないのだから…
「じゃあさ、波多野くんはどうするの?」
「俺は…」
さすがに同じ答えを言うのは気が引けるし、何よりダサいなと気恥ずかしさを感じてしまう。
「俺は…」
「波多野くんが自分の事“オレ”って言うのはじめて聞いた♪」
「…!!!!」
「うふふ、赤くなった♪」
「俺…僕だって自分のこと俺ぐらい言うよ!」
とっさに照れ隠しをしてしまった。
世界が終焉を迎えるかもしれないこの瞬間、幼馴染とのこの一瞬がとても他愛無くそして愛おしく思えてしまう。
じつは僕波多野六郎太にとって四条さんは僕の初恋の相手だ。
あいにく告白をする勇気は僕にはなかったが、無人の教室で好きな異性と他愛無い話で現を抜かす・・・それがこんなに楽しいなんて。
終末の世界を包む赤い霧もどこかロマンチックに思えてきてしまう。世界が終わるまであとどれぐらいなんだろう?
願わくばこんな愛おしい瞬間、愛おしい終末の世界が永遠に続くようにと心の中で願ってしまう。
────地球人類の皆さん、いまあなた方全員に直接語り掛けています。
「!?!?!?!・・・波多野くん聞こえた?」
「聞こえた!・・・これって?」
突如として少女の声が頭の中に響く。周囲を見回すが周りには誰もいない。声の主は全人類に直接語り掛けているといった。そんなことがあるのか?隕石衝突以降おかしなことばかりが続く。
────私は30時間前にこの惑星に落下した、あなた方の言葉でいう隕石です。そして情報を正確にお伝えすると、私はこの惑星に落下したのではなく、この惑星を貫通しました。
貫通と言ったのか?落下じゃなく貫通?クレーターが出来るんじゃなくて貫通?
穴が…地球に穴が開いたっていう事か?突如伝えられるあまりの情報に言葉が出ない。
────地球は残り42時間ほどで壊滅します。ですからどうかその前に…
少女の言葉はなおも現実離れした現実を突きつける
────ですからどうかその前に、全地球の人類の生命と引き換えに当機に力を下さい
「どういう事?ねえ波多野君、ほんとに地球は滅亡しちゃうの?」
「分からないよ!」
「噓でしょ?それにこの声なんなの?」
突如として突きつけられた破壊者本人からの理不尽な要求。隕石がしゃべっている?女の子?当機?これは未知の宇宙文明の侵略か?地球を貫通?地球に穴が?地球が滅亡?
もし仮にこの言葉が真実だとするなら、この声は世界中に聞こえているという事になる。
尚も隕石の少女は言葉を繰り返す。
──地球が壊滅するその前に、全地球の人類の生命と引き換えに当機に力を下さい。
その選択をするのは、アナタです。
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【Tips】
赤い霧
大穴が穿たれた地球の終焉を彩る赤い霧。
世界のすべてを覆い尽くす霧は太陽を遮り昼夜の時間間隔を忘れさせ、生き残った地球人類を否応なく絶望と向き合わせる。
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