EP02 地球の終わり

 はじめてその兆候をとらえたのはNASAの天文台だった。

 地球に向け極超光速で飛来する2つの隕石。


 その距離ははるか太陽系の外。はじめのうちは地球に直接的な危機はないと考えられていた。二つの隕石は互いに引き合うように螺旋軌道を描きながら、しかし時として不規則に軌道を変え、有機生命を思わせるような変則的で機敏な軌道を描いていた。

 あきらかに機械的な軌道計算を逸脱した動きは議論を呼んだ。それは地球外生命体か?それとも我々地球人の計算の及ばない未知の宇宙的現象か?


 通常、我々が観測している宇宙ははるか遠くはるか過去の出来事ばかりである。光学的に観測する星々の瞬きは光が届くその速さと距離のぶんだけ過去の出来事という事になる。


 しかし今まさに目撃している隕石の軌道はたった数分ほどの誤差で目視できる距離にあるのだ。それも有機的な可変軌道を描く隕石・・・意志を持った物体か、或いは未知の有機生命体との遭遇か?人類史を塗り替える現象との遭遇に世界中の科学者たちは浮足立った。


 しかし観測からわずか数時間でその淡い期待は裏切られることとなる。

 当初は太陽系のはるか遠くをかすめると予測されていた隕石が、突如として地球へ向けてその軌道を変えたのだ。それは軌道計算の範疇を超え、あきらかに意志を感じさせるほど有機的な軌道だったという。


 自国民に緊急警報を出す間もなく、一般人への情報封鎖を敷く間すらなく、その判断を国のトップに仰ぐ余裕すらなく、飛来する隕石の存在をまもなく全世界が知る事となる。形容しがたいほどの物理的な痛みをともなって……。



 2対の隕石はなおも速度を緩めず地球へと接近。太陽系外からわずか数分で地球圏へとたどりついたその極々超光速の物体は軌道変化によりほんの僅かにその速度を緩めたものの、依然速度は極超高速。

 幸いだったのはそれらが地球にぶつかる瞬間わずかにブレーキをかけ速度を緩めた事だろう。



 ────そしてそれはごくごく自然に、毎日同じように繰り返し朝日が昇るかのように、ごくごく自然に平穏な日常を奪い去った。


 隕石が落下したのは南太平洋イースター島の真上だった。ほぼ垂直に落下してきた隕石は直径10kmの孤島に消し飛ばし、太平洋に直径200kmの大穴を穿った。隕石の勢いが衰えることはなく、そのままほぼ垂直にプレートとマントルを貫通。地球のど真ん中を突き抜けた隕石はそのまま地球の裏側へ・・・即ちインドバングラディッシュ国境付近まで大穴を穿ち貫通。


 爆心地を中心としておよそ2,000kmの大穴をあけた衝撃はすさまじく。文字通り地球の大地を大きく揺らした。世界中の人々がドーンと地中から響くような未だかつて聞いた事もない地鳴りと衝撃を感じ、その数分後には激しい衝撃波が全世界を襲った。

 そして数刻を待たず地盤の乱れからマグニチュード8クラスの地震が頻発、それと同時に世界中で火山も連鎖的に噴火を開始。なかには休火山扱いされていた火山までもが数千年ぶりの噴火を起こした。噴煙は太陽を多い隠し地球中が鈍色をした薄暗い火山の灰で覆われた。


 この異常災害に世界中は大混乱。交通網は麻痺し社会インフラはダウン、人類の経済活動は完全にストップした。

 一部の終末論者たちは終わりの日、審判の日の到来に絶望し、己の罪を嘆く者や世界の終わりを歓喜する者、家族や愛する人の元へ奔走する者、まさにディストピア映画のような光景が現実のものとなっていた。


 ────しかしどうだろう。直径2,000kmもの大穴が地球に空いたというのに、これだけの被害で収まったのは些か不可解だ。


 あくまで隕石は地球を穿っただけ。“多少の地震と衝撃波”は起こしたものの、衝撃は地球を砕くに至らず、そして衝撃波は建物を揺らしはしたものの、その衝撃を受けた一切を壊さず。衝撃波が直接的に殺した人々はほぼゼロ。その被害は地軸のゆがみで起きた地震や火山噴火による、“あくまで二次的な災害”によるものだけだ。


 まるで被害を最小限にとどめるように、・・・そう計算されていたかのような出来すぎた災害だ。


 もし仮に、今この瞬間にこの全ての事象を観測している学者がいたとすればすぐにこの異常事態に気付くことが出来ただろう。

 しかし人類の文明水準はもはやそのレベルに無かった。


 かくして人類の社会活動と文明は復旧の余地その一切の可能性を残さずして一瞬にして崩壊したのだ。





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 ────そしてこの異常すぎるこの世の終わりにさらに拍車をかけたのが、隕石衝突後に突如として世界中を包んだ“謎の赤い霧”である。


 隕石貫通による衝撃波からまもなくして、瞬く間に世界中を覆った赤い霧はあらゆる電波を遮断し、現代通信網の悉くを使用不能にしてしまった。


 霧の発生源はほぼ間違いなくあの隕石である。あくまで推測の域を出ないが一部の学者は隕石衝突で蒸発した海水が霧の主成分で、そこに隕石に付着した微生物が溶け込んだのでは?と考えた。

 また別の学者は赤い霧は隕石に乗ってやってきた宇宙人にこの惑星の大気組成を順化させるための大気組成変換ナノマシンの一種だと考えた。しかしいずれの説もこの未曾有の世界的大災害の切迫した状況を前にしては証明・反証など出来る状況にはなく、あらぬ推測は現状への認識への混乱に大いに拍車をかけた。


 そして混乱に拍車をかけ地球終焉を彩る赤い霧にはさらに特異だった点がある。それは赤い霧がまるで意志を持っている様に生き物のような蠢きを見せた点だ。


 霧は蠕動運動や粘菌の集団運動のように脈動しながら町を蠢き、霧はわずかな隙間からも建物へ侵入。空調管理システムでさえも排除不能で、さらに霧に触れたあらゆる機械はその活動を停止。

 霧に触れたものは無機物有機物を問わず腐食し徐々に溶かされていくといった報告も一部ではあったが、情報の混乱しきった現在においてその確実性を問うすべは存在しない。





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【Tips】

  地球に空いた大穴


 南太平洋イースター島に直撃した隕石はマントルを突き破り地球のコアを貫通。地球にキレイな大穴を開ける。

 隕石衝突により消失した部分の大地や地殻部分、それに値する質量の消息は不明。


 落下した隕石の正体は計算機<カリキュレーター>ララ→ララ


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