第3話 初報酬で買ったものは

 報酬を貰って、袋にお金を入れたシンシャは、何を買うか思索していた。

 ウキウキと買い物を考えながら、中央広場に足を延ばし、シンシャは市場の入り口に立っていた。

 しかし、何か変だ。あの依頼を請け終わった後から何か自分に違和感がある。

 なんだろうと、そっとほおをさすってみると、白粉が無くなっていた。

 ぎょっとなって、すぐ目深に赤いとんがり帽子を被り直す。

 ゲームの様に叩き潰して遊んでいたものだから、シンシャはすっかり自分の顔が濡れている事に気づけなかった。

 まさか、ずっと顔をこのままで歩いていた??

 もし、自分がこの町で顔の一部がダークエルフだと分かってしまったら、宿で生活することは絶対できないだろう。折角手に入れた冒険者証もなくなってしまう。

 焦りに焦ったシンシャは、サッと市場の中のお土産屋に入り込んだ。


 子供向けの木剣や、猫目のマークがついたバックが並ぶお土産屋は、壺などの陶器なども売ってあった。少し湿気を感じる古臭い室内は、薄暗く気味悪いくらい静かだった。商品に置いてある、真面目な顔の兵隊の人形が、今にも薄笑いしそうだ。

 そっと片目で上を見れば、竜のお面が吊るしてあるのが見えた。シンシャは今にも欲しくてたまらない。アレで隠せたら、絶対に見えない。

 ススっと帽子で顔を隠しながら、カウンターの主人へお面を指さして欲しいとジェスチャーする。

「すまない、上に飾っているお面が欲しいのだが」

「こ、これって。アンタ、本当にこれが欲しいのかい?」

 老人の声がした。シンシャの目線からは長いひげしか見えないが、声色で大分驚いている事が分かる。

「いいけどさ。コレ、伝承で出てくる竜のお面だよ? 本当に買うのかい?」

 素早くコクコクと頷いて、シンシャはせかす様にカウンターにお金の袋を置いた。

 老人は、はぁ。と、息を付き。ちょっと待っててくれよ、とシンシャを止めておくと、上にあった竜のお面を外してくれた。

「このお面の本物は、もう片方の半分がどっかにあるらしいけどね。まあ、買ってくれるなら何でもいいけれどね?」

 そう前置きをして、金を受け取る。そして、シンシャにお釣りとお面を渡してくれた。シンシャは片方の顔を隠せるドラゴンマスクをつけると、颯爽とお土産屋を後にした。

「顔につけて行っちゃったよ。大した品じゃないんだがなあ」

 ひげの長い老人は、あきれた様子でシンシャの背を見送っていた。


 ドラゴンマスクを買ったシンシャは、スキップをしながら市場を通り抜ける。

 白粉と共に、もう一つ顔を隠せるグッズを買うことが出来た。ビバ☆お金!と思いながら。宙を舞い、くるくると体を回転させる。

 周りの視線を気にしないまま。


「シンシャァアアーー!!!!」

 怒声が響いたのは、宿の主人の声だった。

「ほぼ全部ドラゴンマスクに使い切っただと!? お前は馬鹿かーー!!!!」

 カウンター越しに怒鳴らられていたのは、体を縦にぎゅぅっと伸ばして、背筋を張ったシンシャだった。

「か、かっこいいと思って」

 主人の前でシンシャは必死で言い訳を思いついては、弁明する。

「これは、馬小屋で寝てもらわんといかんな」

 その一言に、シンシャはあたふたと手で否定のジェスチャーをするが、宿の主人は

ニヤリと笑って、表情でシンシャを追い詰める。

「嫌か? これが、ツケを払えない冒険者の末路だ」

 デッドエンド。馬小屋生活が始まると思うと、シンシャは情けなくなって涙をこぼしながら、袖でぬぐっていた。

「すまない、マスター。自分が悪い。つい、買い物をしたくて」

 はぁ、と宿の主人は泣きだしたシンシャにため息をつくと、肩を鳴らして、直ぐすくめた。

「流石に俺も、馬小屋で知らん男と寝かすわけにはいかん。まったく、自分の体の事を考えて行動しろ。初回だからな」

 そのことを聞いて、別の好奇心が湧いてしまうのがシンシャという女だった。

「人が、寝ているのか? 馬小屋に?」

 その言葉を言い出すか迷いながら、目目線を合わせずにマスターは言った。

「イセカイテンセイシャとかのたまう、変な少年が一人……な。お前も反省のために良いしつけになるかもしれん」

 カウンターから宿の主人が立つ。

 そして、外へ来るように手招きし、シンシャと共に馬小屋へと向かった。


 夕焼けが地平線沈んで行ったばかりの時刻。

 ランタンを下げて、薄暗い仲を宿の主人と赤いとんがり帽子のシンシャが一緒に馬小屋の前まで来ていた。

「ここだ。馬小屋から出て行こうとしねえ」

 目を真ん丸にしてシンシャは言う。

「馬小屋に、人が……?」

 シンシャは馬小屋の方を見た。

 馬小屋は宿屋から少し切り離されたところに置いてあり、宿屋の規模が大きいせいか沢山の馬を収容できそうだった。

 外側には動物臭が漂い、いわゆる馬糞の腐ったような香りがする。

 とてもじゃないが、住めそうにはない。シンシャはこんな糞の異臭が立ち込めるところに人がいるとは思えなかった。

 宿の主人はどんどんどんと小屋と扉を叩いた。

「おい! おい! 何日、金を払わず馬小屋に住み込んでいるんだ! でてこい!」

 ギイイっと馬小屋のドアが開き、黒髪の少年が出て来た。

「相変わらずだな? その糞にまみれた変な衣服も捨てろ! 臭いぞ!」

「ジャージだよ! ジャージ! 見て分かんないの!?」

 青色のジャージと呼ばれる服を手で引っ張って主張しているのは、イセカイテンセイシャといっている人らしいが、どう見ても人間にしか見えなかった。

「俺ってばさー。最近流行の異世界転移者だかんさ」

 変な言葉を使い、糞の匂いがする14歳くらいの少年はシンシャの胸のあたりまでの身長だった。シンシャがエルフとして背が高いとみても、成長途中の少年らしい背丈だ。

 黒髪に黒目。短く切りそろえたツーブロックの髪型は、ところどころに馬小屋の干し草が絡んでいる。

「そろそろ引き払ってくれねえと、俺たちも馬の世話があるんでな」

 宿の主人は頑とした声で少年に詰め寄る。

「なに? オッサン。俺が厩に引きこもっちゃってるのに文句つけてるの?」

「オッサンではない!」

 一回、二人の様子を交互に見た後、シンシャはお目目をキラキラさせながらその少年を見つめる。

「マスター。私が引き取る」

 シンシャの突如の告白。

「「えっ!?」」

 二人の男達が同時にシンシャの方を見た。

「同室でいい」

 そして、その言葉に更に驚く。

「「はぁ!?」」

 手で静止をかけながら、宿の主人が大きく拒否を示した。

「まてまて。お前さん達、会ったばかりだろ」

 いやらしい発想を抱いたのか、少し顔を赤くさせつマスターが言った。

「シンシャ、一緒に働いてくれる同朋欲しかった。自分が面倒を見る」

 どんっと胸を叩いて、シンシャは自信ありげに胸を張った。

「シンシャ……ってねえ?」

 少年が腕を組んで、何やら思案顔をしていた。

 そして、何かいやらしそうなニヒヒっとした笑みを見せると。

「よう、よろしく。シンシャ。俺、『源十』。日本人だ」

「私はシンシャ。エルフをやっている」

 奇妙な波長が合ったのか、二人は握手をした。

「俺はまだ認めてないぞーー!?」

 その展開について行けないのは、宿のマスターだけだった。

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2026年1月3日 00:00

赤いとんがり帽子のシンシャ 春野 一輝 @harukazu

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