第5話 神の使い?
あれから何時間経っただろうか。
体感では5時間くらいは経っててもおかしくはないとは思うが、たいていこういう場合の体感は当てにならないんだよな。
俺が目を覚ました荒れ地から森にたどり着くまではすぐだったのだが、そこから先が大変だった。
というのも……。
「こんなのもはやジャングルだろ」
遠くから見てた時は自然豊かな森だなーくらいにしか思ってなかったのだが、実際に近づいてみると森だなんて生易しいものではなかった。いや、森も人間の手が入ってないガチの自然のやつはそりゃあもうすごいんだろうけど、ここの森? ジャングル? もそんな感じだ。
10~20メートルを超えるような背の高い木もあれば、俺が手を伸ばせばてっぺんに届くくらいの低い木もあり、異様にでかい葉をつけた植物や木にわしわしと絡みつくシダっぽい植物などその種は多彩。
とにかく自然の密度が高いのだが、1種類の背の高い木が森を占有してるわけではなく、色んな高さや大きさの植物が密集してるので意外と光が下の方まで届き、そのおかげか下草もがっつり生えている。
これは植物魔法なしでは立ち入ることすら無理だっただろう。
植物魔法を使って下草や木を除けて人ひとりが歩けるくらいの道を作ることで、なんとか森の奥へ進めている。
にしてもこの植物魔法、今のところマナやMPみたいなリソースが足りなくなるような感じもしないし、植物相手であれば頭に描いたイメージをそのまま魔法として行使してくれるのですごく便利だ。
さすがあの神様っぽい老人がくれた能力なだけはある。
それにこれだけ歩き回ったのに体があまり疲れていない。日本にいた頃の俺の体力から考えるとありえないので、異世界に転移する時に肉体の性能が向上したのかもしれない。
これは老人と会ったあの真っ黒い空間での出来事をあまり覚えてないから憶測でしかないけどな。異世界転移について色々と説明があったような気もするし、全然なかったような気もする。
あの老人、他に大切なこと言ってなかっただろうな。まぁ重要なことがあれば俺の記憶に残るようにしてるか。人にチート能力を付与できるくらいなんだからそれくらい朝飯前だろう。
なんにせよ、あの老人のおかげでこうやって異世界にこれたんだから感謝しかない。
静かにしているスライムたちを支えてるのとは逆の手で、空に向かって片合掌。数秒目を瞑り、あの老人に謝の念を送る。
そこまでやってからふと「この世界に仏教はないよな」と思い至る。
いや、宗教は別に好きなものを信奉していればいいと思うので気にするほどのことではないのだが、今俺がいるこの深い森と、宗教という人間の文化に接点が見られない。つまり、この森からは人間の生活圏にいる気配が全く感じられないということだ。
いずれこの世界の人類と接触しなければならない俺からすればこれは大きな問題だ。思った以上にサバイバル生活が長くなることを覚悟しなければいけないかもしれない。
植物魔法で木や下草を動かしたことによってほぐれた土を、ぐっと踏みしめながら進んでいく。
靴は家にあった運動靴だし下もスウェットなのでまぁいいのだが……上がTシャツ1枚なのはこの森でサバイバルするにはかなり心もとない。怪我もそうだが、変な病気を持った虫に刺されたりしないか不安だ。異世界まで来て早々病に倒れるなんてちょっと笑えない。
とはいっても裸足で放り出されるよりはだいぶマシだけどな。
「ふぅ、ひとりで黙々と歩いてるとどうしても考えがマイナスに寄っちゃうな」
後ろを振り返ると、森を穿つように開いた小さなトンネルがまっすぐと続いており、俺がこの森に入った時の入り口はもう小さな光の点でしか見えない。それはかなりの時間をこの森で過ごしたということの証だった。
それに、今のところ魔法を使うのにリソースが必要な感じはしないとはいえ、集中力はそれなりに使う。そういったことが重なり、肉体的な疲労は少なくても精神的な疲労は少しずつ積もっていっていた。
「ん?」
そんなことを考えながら森を切り開き進んでいると、ポツポツと、頭上から小さいものが葉を打つ音が聞こえてきた。それはすぐに激しい連続音となり、バケツをひっくり返したかのような大雨となる。
……自然相手ってのは中々大変なもんなんだな。
こうやってがっつり雨に打たれるのも久しぶりだ。俺は雨に濡れるのをそこまで気にするタイプでもないが、体ひとつで異世界に放り出された身としては自然に対する無力感を覚えずにはいられない。
風も出てきたのか、高い木々が揺れてさわさわと葉を鳴らす。なんかちょっと不気味だ。
てか、俺この服以外持ってないや。
当然着替えもないし、乾かす方法も干すしかない。その間俺はこの森の中で裸で過ごすのか。
……ワイルドだな。
内政チートで領を近代化、なんてものとはかけ離れている。
この世界を舞台にした異世界転移モノはハード寄りだな。ただ最初から何でも揃っているよりはこうやって1から始めていく方が俺は好きだ。
「うし!」
ともう一度気合を入れなおし、どしゃぶりの中を進んでいく。
この雨がスライムにとって恵みの雨にならないかと、顔を下げて腕のスライムたちの様子を伺う。気持ち肌? 体表? に艶が出てきたような気もするが、元気になった様子はまだ見られない。
「おまえら、雨好きか?」
歩きながらそう尋ねると、スライムたちを支える腕に小さく振動が伝わってきた。
「そうかそうか」
スライムの気持ちはまだよくわからないが、こうやって何かと会話するのは俺のメンタルにとても良かった。どこか圧迫感のあるこの密度の高い森も、ひとりではなく他の存在と一緒にいると思えば幾分か気が楽だ。
もしかして異世界に来てすぐにスライムと出会ったのは神の思し召しってやつなんじゃないのか? 俺はあの老人のことを神的な存在だと思ってるので、やろうと思えばそれくらいのことはできると睨んでいる。実際このスライムたちは俺に対して全くの無害で、それどころかメンタルケアの役立っている。
「じゃあ……こいつらって神の使いなのか?」
はっとしてまた顔を下げる。そこには薄い赤、黄、緑の3匹のスライムが、雨水をはじきながら相変わらずお行儀よく俺の腕をソファにして鎮座している。
「……にしては死にかけすぎるだろ」
こんな本調子じゃなさそうな神の使いがいるもんか。
まぁ考えすぎだな。いうてスライム、そんな上等なものじゃないだろう。
俺は雨で重くなった服を体に貼り付かせ、川を求めてまた森の奥へと進むのだった。
スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする 新北部 @shinkitabu
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