第2話 戦場を支配する男

戦場は、朝の霧が晴れるとともに静寂を取り戻していた。

兵たちは汗と息を整え、倒れた敵兵の間を慎重に進む。だが、将兵の目は自然と丘の向こう、アルトゥールの姿に向かう。


「閣下、戦況は完全に掌握されています」

副官が淡々と報告する。


隊列の最前線に立つ兵士の一人、青年のルカは目を丸くした。

「……あの人、一体何なんだ?」

周囲の兵も小声で囁く。


彼らが見たのは、戦場中央で静かに歩を進める男。霧を背にしたその姿は、戦闘で荒れ狂う兵士たちの間にあっても、揺るぎなく立っていた。


突如、遠方の丘陵に敵加護持ち指揮官が再編された部隊を率いて現れる。

兵士たちは未来を読むかのように陣形を整え、突撃の準備をする。だが、直感的に異変を感じた。


アルトゥールは手をかざす。

霧の中から、氷の結晶がゆっくりと空気を流れ、敵の前線を覆い始める。

氷柱が連鎖的に生成され、敵兵の足元や武器を絡め取り、前進を阻む。


「……なんだ、これ……」

加護持ち指揮官は未来視を働かせるが、氷が形成される順序も、どの兵士が倒れるかも、読めない。

部下たちは混乱し、指揮官自身は動揺する。次に何が起きるか予測できない――未来は、成立しないのだ。


ルカは目を見開く。

「閣下、氷の……操作、してる……?」

副官は無言でアルトゥールの動きを確認する。いつものことだ。アルトゥールの力が何であれ、兵士たちはただ信頼して従うしかない。


氷の壁と柱が連鎖するたび、敵陣は混乱し、突撃は遅れ、陣形は崩れ始めた。王国軍はその隙を突き、丘を駆け上がる。氷結の応用は、単なる攻撃ではなく、戦場そのものを管理するかのように働いた。


「すごい……動きが止まる」ルカは息をつく。

だがアルトゥールの瞳には一切の喜びの色はなく、冷徹に戦場を見渡している。

兵士たちの勝利への期待など、戦局のほんの一部に過ぎない――それを理解しているのは彼だけだった。


敵加護持ちは焦り、指揮官としての威厳も崩れ、後退命令を出すしかなかった。だがアルトゥールはすでに、その次の戦略を見据えている。

氷結による一撃は戦線を崩すだけでなく、敵の心理すらも支配していた。


丘陵地帯に王国軍の旗が立ち、兵士たちは歓声を上げる。

ルカはアルトゥールを見上げ、思わず呟いた。

「……俺たち、本当に勝てるんだな……」


副官は静かにアルトゥールに目を向ける。

「閣下、次の展開をどう見ますか?」


アルトゥールは霧の向こうを見据え、淡々と答える。


「戦局は、まだ終わっていない」

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