第5話

王都への道。

本来なら馬車で十日はかかる距離だ。


だが、俺にそんな悠長な時間は必要ない。

「効率」こそがこの二周目の絶対正義だ。


「リーゼ、行ってくる。一週間……いや、三日以内には一度戻るよ」


「ええっ、王都まで往復するのに!? ……まあ、今のカイルくんなら本当にやっちゃいそうだけど」


村の入り口で、リーゼが呆れ半分、心配半分といった顔で見送ってくれる。

俺は彼女に、予備の「防壁の首飾り(神話級)」を渡しておいた。

魔力自動供給機能付きで、国家規模の爆撃を受けても傷一つ付かない代物だ。


「じゃあな。……最短ルートで行く」


俺は軽く地面を蹴った。

次の瞬間、俺の身体は音を置き去りにして、空へと舞い上がった。


スキル「天駆」と「空位転移」の連続発動。

高度三千メートル。

雲を突き抜け、眼下に広がる大陸の地図を脳内の記憶と照らし合わせる。


(ターゲット捕捉。霧の渓谷、街道沿い)


前世の記憶。

今日、この場所で一人の少女の運命が壊れる。


聖女エルザ。

類い稀なる癒しの魔力を持ちながら、教会内部の腐敗した派閥争いに巻き込まれ、「偽聖女」の汚名を着せられた少女。

この場所で彼女は教会の刺客に襲われ、絶望の中で魔女へと堕ちる。

それが後に、人類を苦しめる「災厄の魔女」の誕生だった。


(……救済コストは最小、リターンは最大だ)


彼女の持つ「聖属性魔法」の適性は、魔王軍の幹部を効率的に狩るために不可欠。

そして、彼女を魔女にしないことは、将来の敵の戦力を一気に削ることに繋がる。


「到着。……予定より三秒早いな」


霧が立ち込める渓谷。

馬車の車輪が外れ、護衛の騎士たちが次々と倒されていく光景。

そこには、白い法衣を血で汚した金髪の少女――エルザが、震えながら立ち尽くしていた。


「……どうして。私は、ただ、人々を救いたかっただけなのに」


彼女を囲むのは、黒いマントを羽織った「異端審問官」の集団。

そのレベルは三十五から四十。

この時代の人間としては精鋭だが、俺からすれば道端の石ころだ。


「死ね、偽聖女。貴様の命が、次代の教皇様への供物だ」


審問官が、毒を塗られた短剣を振り上げる。

エルザが、諦めたように目を閉じた。


ドォォォォォォォォォォン!


落雷、ではない。

俺が空から垂直に、審問官のリーダーの「真上」に降下した着地音だ。


「な……が、は……っ!?」


リーダーだった男は、何が起きたか理解する暇もなく、俺の踵に踏み潰されて大地の裂け目へと消えた。

土煙が舞い、審問官たちが凍りつく。


「……何者だ、貴様ッ!」


「通りすがりの効率主義者だ。お前ら、掃除の時間だぞ」


俺はアイテムボックスから、使い古された「練習用の木刀」を取り出した。

だが、俺の魔力を通したそれは、既に神話級の武器を凌駕する熱量を発している。


「殺せ! そのガキを殺せ!」


審問官たちが一斉に飛びかかってくる。

俺は一歩も動かない。

ただ、手首を軽く返した。


「神速・横一文字」


閃光。

それだけだった。


三十人いた審問官たちの胴体が、一瞬ですべて両断される。

切断された瞬間に魔力で焼き切ったため、血の一滴すら流れない。

彼らは何が起きたのかすら気づかず、魂だけが先に消滅していった。


戦闘時間、0.1秒。


「……さて」


俺は木刀をアイテムボックスに戻し、へたり込んでいるエルザに向き合った。

彼女の大きな瞳は、恐怖と困惑で揺れている。


「あ……あ……」


「怪我はないか。……ないな。精神的なショックはあるだろうが、それは後でいい」


「あ、貴方は……? どうして、私を……」


「お前が必要だからだ、エルザ。お前をこのまま腐敗した教会に殺させるのは、世界の損失、ひいては俺のスピードランの邪魔になる」


「スピード、ラン……?」


俺は彼女に手を差し出した。

子供の姿をした俺に、圧倒的な神の如き威圧感。

エルザはその異様な光景に、思わずその手を取っていた。


「エルザ。お前に選択肢をやる。ここで死ぬか、あるいは俺の『道具』……いや、仲間になって、理不尽な運命をすべて書き換えるか」


「……私に、何ができるというのですか。私はもう、すべてを失って……」


「癒せばいい。お前が癒したいと思うものを、思う存分。邪魔なゴミは俺がすべて片付けてやる」


俺の言葉は、慈悲深い聖者のものではない。

だが、その絶対的な自信に満ちた響きは、絶望の底にいた彼女にとって、神の託宣よりも強く響いたようだった。


「……もし、本当にやり直せるなら。私の力が、誰かの役に立つのなら」


「決まりだ。契約成立だな」


俺は彼女を軽く抱え上げると、再び空へと向かって跳んだ。

目標、王都。


「ひゃっ!? な、飛んで、ええええええ!?」


彼女の悲鳴をBGMに、俺は加速する。

王都に到着するまでの間に、彼女の「レベル」を効率的に引き上げる訓練を済ませる必要がある。


王都を襲う疫病の予兆。

暗躍する密偵。

そして、前世で俺を裏切った腐敗貴族たち。


「待ってろよ、王都。……大掃除の時間だ」


空を裂く青い光。

レベル9999の少年と、その手に救われた聖女。

二人の影は、夕闇に染まる王都の城壁を越え、その中心部へと真っ直ぐに突き進んでいった。


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2026年1月2日 08:00
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強くてニューゲーム:リスタート・インフィニティ ~Lv.9999のステータスと全アイテムを持って「全滅したあの日」に巻き戻った俺、今度は幼馴染も村も、世界ごと一人も死なせず救い抜く~ kuni @trainweek005050

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