葬儀
『故 新庄連太郎 儀 葬儀式場』
見上げれば、灰色の雲が低く垂れ込め、まるで故人を
喪服に身を包んだ麗子は、父の遺影をじっと見つめていた。父の死後、さんざん泣きはらしたせいで、流れる涙はもう一滴も残っていなかった。
「パパ……」
心を許せる家族はもういない。母を早くに亡くし、祖父母もすでに他界している。だからこそ、父とは誰よりも深い絆で結ばれていた。ゆえに、父の死は、とても耐えがたいものだった。
唯一の救いは、事前に余命を知らされていたことだ。そのおかげで、心の準備をする時間を与えられた。もし、何の前触れもなく父を失っていたなら、ショックは計り知れなかっただろう。
告別式が一段落し、敷地内の喫煙所の前を通りかかったとき、麗子はふと足を止めた。自分の噂話が聞こえてきたからだ。
煙草の煙が立ち込める中、麗子は黒い傘の下で耳を澄ませた。
「確か、一人娘よね?」
「ええ、そう。まだ独身らしいわ」
「お年は?」
「まだ二十代じゃなかったかしら?」
「ということは、四十代のときにできたお子さんね」
「孫の顔も見れずに残念ね」
「それにしても、すごい額の遺産を相続するそうよ。何十億っていう」
「そんな大金、何に使うのかしら?」
「世間知らずのお嬢様らしいから、悪い男にだまされたりして」
「ありえそうね」
「もしくは、怪しい投資に手を出したりとか」
「それもありえそう」
「で、結局、遺産を食い潰すのよ」
中年女性たちの意地悪く笑い合う声が喫煙所に響き渡る。麗子は胸を痛めながらその場をそっと立ち去った。
人気のない場所にたどり着くと、肩を大きく震わせた。
「パパ、ごめんね、親不孝な娘で……。でもどうして? どうして、もっと長生きしてくれなかったの? ひどいよ、わたしを一人にするなんて……」
麗子は灰色の空を見上げた。枯れたはずの涙が頬を伝っていった。
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