岩国啓一郎③

「岩国さんは、昔から霊感が強かったんですか?」

 真由美がピザを頬張りながら聞いた。

「そうだね。物心ついたころから、人には視えないものが視えていたね」

 そう答えると、岩国は二切れ目のピザに手を伸ばした。痩せの大食いなのか、細身なのに食欲旺盛だ。

 三人でデリバリーしたLサイズのピザを囲んでいた。円卓の上にはピザの他にコーラのボトルが置かれ、部屋にはトマトソースの香りが漂っている。

「怖くなかったんですか?」

 再び真由美が聞く。

「全然。だって、他の人にも視えてると思ってたから」

「あ、それよく言いますよね。みんな視えてると思ってたって」

 奈央はここで、少し恐縮しながら割って入った。

「岩国さん、本当に謝礼とかいいんですか?」

「いいって。ピザで充分だよ。それに、こういうのは趣味みたいなもんだし」

「でも、家にまで来てもらったのに……」

「どうせヒマだったし、気にしなくていいよ」

 奈央が恐縮している中、真由美が再び岩国に聞く。

「岩国さん、なんか面白い体験談とかないですか?」

「体験談?」

「うん」

「そうだなぁ……。体験談とは少し違うけど、人の死期がわかることはあるかな」

「ええっ!? それ、怖いけどすごい!」

 真由美が大げさに驚いて見せる。

 岩国は笑みを浮かべながら淡々と続ける。

「この人、そろそろかなって感じると、だいたい一か月か二か月のうちに亡くなるね」

「おお、怖っ!」

 真由美は本気で怖がっている様子だ。

 コーラを一口飲んでから今度は奈央が聞く。

「ちなみに、どんな死に方なんですか?」

「高齢者は、ほとんど病死だね。若い人は事故死が多いかな」

 真由美が心配そうにたずねた。

「あの……、わたしたちは、だいじょぶですよね?」

「ああ、だいじょうぶだよ。安心して」

「よかったぁ」

 真由美は心底ほっとしたように胸をなで下ろす。

 奈央は少し躊躇しながら、ずっと気になっていたことをたずねた。

「……あの、今日って結界を張ってもらいましたよね? これで心霊現象って止まるんですか?」

 岩国はピザを頬張りながら答える。

「しばらくは収まると思うよ。でも、さっきも言ったけど、結界の効力は有限だから、効果が弱まればまた始まると思う」

「そうですか……」

 奈央は肩を落として大きなため息をついた。

「でも、自慢じゃないけど、おれの作った結界はかなり強力だから、少なくとも数か月はもつと思うよ」

「そうなんですね……」

「ただ、結界はあくまでも応急処置に過ぎない。根本的に解決するには、怨みの元を見つけないと。そうすれば結界よりも効果的な手段を使える」

「効果的な手段って?」

「霊を成仏させるんだ。つまり、除霊ってやつさ」

「じゃあ、除霊ができれば、もう変な現象に悩まされなくて済むんですね」

「そうだね。でも、除霊の対象がわからないとどうにもならない。だから、今は結界でごまかすしかない」

 ここで真由美が口を挟んできた。

「奈央、本当に心当たりないの?」

「うん……」

 奈央は罪悪感を覚えながら答えた。だが、真実を話すわけにはいかない。それを口にすれば、軽蔑されるのは目に見えていたからだ。

 岩国が新しいピザを手に取りながら、落ち着いた声で続けた。

「かなり遠くから来てる怨念だから、前に視てもらった霊能者が言ってたように、君の地元にいた人物で間違いないと思う。だから、学生時代のことをもう一度よく思い出してみて。急がなくていいから」

「わかりました……」

 奈央は力なく答えた。

「ねえ奈央、逆恨みの可能性もあるんだから、それも考慮に入れるんだよ」

「うん、そうだね」

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