第2話: 鈴の音
目の前に立ちはだかる扉は、まるでこの世のものではないかのような存在感を放っていた。
奇妙な模様が絡み合い、見る者を引き込むような不思議な力を持っている。俺はその扉をじっと見つめ、思わず手を伸ばした。
「開くのか...?」
恐る恐る扉に触れると、冷たい金属の感触が指先に伝わってくる。
ひんやりとしたその感触は、まるで俺の心を見透かしているかのようで、少しだけ背筋がぞくりとした。力を込めて押してみるが、びくともしない。引いてみても同じだった。
扉の表面には、どこか古代文字のようなものが刻まれているが、俺にはそれが何を意味するのか全く分からない。模様は複雑に絡み合い、まるで生きているかのように見える。
「うんともすんとも言わないな...そうか!」
俺は突然理解した。理解してしまった。念のため辺りを見回す。誰もいない。念のためもう1回だけ慎重に周りを見回す。誰もいない。
「うおおおお!目覚めろ!俺に宿りし伝説の力!」
...。俺の魂の咆哮の後は、静寂が空間を支配した。
目を瞑り20秒ほど数える。俺はため息をつき、扉の前で立ち尽くした。そして念のために周りを恐る恐る見回す。誰もいない。本当に良かった...。
「さて、どうしたものか、なんとか壊せるかなぁ」
臍の下ににぐっと力を込めて、そんなことを考えたその時だった。おそらく扉の奥から、かすかな鈴の音が聞こえてきた。
チリン……という澄んだ音色が、静寂の中に響く。体の中からふわっと力が抜ける。その音は、どこか寂しさを感じさせるような、不思議な響きだった。
「えっ……?」
驚いて周囲を見回すが、誰もいない。再び扉に目を向けると、鈴の音に呼応するかのように、扉がゆっくりと自動で開き始めた。
中からは、なぜか明るい光が漏れている。その光は、まるで誘うかのように柔らかく、暖かさすら感じさせた。空気はひんやりとしており、どこか湿り気を帯びている。
「さすがに伝説の力じゃないよな...?」
俺は戸惑いながらも、好奇心に駆られて一歩を踏み出した。扉の向こう側に足を踏み入れると、そこには広い空間が広がっていた。
壁には古びた模様が刻まれ、天井からは淡い光が降り注いでいる。しかし、進むにつれてその光は徐々に弱まり、室内は次第に暗くなっていく。
暗く沈む室内で、俺の足音だけが響く。部屋の中央には幻想的な光を放つ何かが置かれていた。慎重に足を進めながら、奥へと向かう。
「さすがに伝説の力じゃないよな...?」
それは小さく、指で摘まめるくらいの大きさだ。その周囲には、微かな光の薄い雲が渦巻いているように感じられた。
「これは……鈴?」
俺はおずおずと手を伸ばし、鈴を手に取った。その瞬間、鈴の光が一瞬強くなり、部屋全体が明るく照らされた。そして、ふっと明るさを失ってしまった。
一連の不思議な光景に呆然としていた俺は、ふいに後ろからの視線を感じる。警戒心を最大化して ばっと振りかえると、2つの光る眼が じっと俺を捉えていた。
「シロ、お前、こんなところにいたのか!」
シロは嬉しそうに鳴きながら、俺の足元にじゃれついてきた。ふっと力を抜いて、俺は苦笑しながら片手でシロを抱き上げた。
「お前、こんなところまで来るなんて、ほんと自由だな。とりあえず暗いからこの部屋から出るか」
入ってきた扉の先から僅かに漏れる光を頼りに部屋を出る。薄暗くても光が届くところまで戻ってきて、心なしか気持ちも落ち着いてきた。
なんだかよくわからないが、今日は一旦帰ろう。たぶん俺が考えたり調べたりしても無駄だ。これはねえさんの領域だ。ねえさんに話してどうするか考えてもらおう。
そんなことを考えてながらシロに目をやると、シロは俺のもう一つ手にある鈴をじっと見つめていた。
そして、突然鈴に向かって前足を伸ばし、まるで「それをちょうだい」と言わんばかりの仕草を見せた。
「お、これが欲しいのか?」
俺が鈴をシロに近づけると、シロは満足そうに鳴き、鈴を首輪につけるようにせがんできた。気が抜けたのか、ちょっとしたイタズラ心が芽生える。
「あげてもいいけど、これは首輪用の鈴だから、首輪をつけることになるぞ?」
得意顔でシロに迫る俺。ここで奇跡が起きた。どや顔でシロが首を伸ばしてきたのだ。え?いいの?
あっけにとられつつ、俺はポケットに入っていた首輪に鈴をつけて、シロの首に巻いてみた。
「これでいいか?」
鈴はほとんど音が鳴らなかった。俺は首をかしげながら鈴を軽く突ついてみたが、やはり音は出ない。なんだこれ?錆びているのか?詫び錆びか?
シロはそんな俺の疑問をよそに、満足そうに喉を鳴らしていた。その姿に、俺は思わず笑みを浮かべた。
「なるほどね。鈴の替わりに喉が鳴るのか。まあ、お前が気に入ったならいいや」
鈴をつけたシロと一緒に俺は再び研究所を見渡した。この鈴には、何か特別な力があるのだろうか――そんな疑問が頭をよぎる。この研究所もまだ生きているのかも。
しかし、本音で言えば、既に考えることは放棄していた。これはねえさんの領域だ。間違いなく俺が考えたり調べたりしても無駄だ。
「とりあえず家に帰って飯だな。飯の時にねえさんに話してみよう。たぶん嬉々として探検セットの準備を始めるんじゃないかな」
俺はそんなことをシロに言いながら研究所を後にした。ちょっと暗くなってきたので急ぎ足で来た道を戻る。
チリーン。再び小さな鈴の音が鳴った。そして、2つの光る眼が、じっと俺を背中を捉えていた。
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