会いたかった

冷志が病院に来てから四カ月が経ち、気がつけば二月になっていた。あれから何も音沙汰がない。やっぱりりんたろうを連れ戻すのは無理だったのだ。冷志は私に会わせる顔がないから来ないのだ。でも、冷志とりんたろうを恨むつもりはまったく無い。冷志は優しいから全力でりんたろうに会わせようとしてくれただろうし、りんたろうもフランスで修行を頑張っている。帰ってこれないのは仕方がない。薬が良く効いているのか体に痛みもほとんど無い。このまま静かに眠りたいと思った。そう思っていると廊下の方から足音が聞こえてきた。こっちに近づいて来ている。

 冷「沙理奈、久しぶり。ずいぶん待たせちゃったね。」

 森「冷志、久しぶり。やっぱりりんたろうは帰って来なかったんだ」

 冷「おい、なに隠れてるんだよ。久しぶりの再会だろ」

そう言うと冷志はりんたろうを引っ張り出した。

 伊「や…やぁ、沙理奈。久しぶり」

私は目を疑った。そこにはりんたろうがいた。フランスで修行中のりんたろうが私の目の前に。絶対に帰って来ないだろうと思っていたのに。

 森「うそ…わざわざ帰って来たの?」

 伊「仕方ないだろ。冷志がフランスまで呼びに来たんだから。帰らないわけにはいかないだろ。それに料理長からも行ってこいって言われちゃったし」

 冷「沙理奈の願い、しっかり叶えさせて頂きました。それじゃあ後は二人でお話して下さい」

冷志は病室の外へ行こうとした。私は冷志にお礼を言った。

 森「冷志、ありがとう。私のお願い叶えてくれて」

冷志は振り向かず、軽く手をあげてそのまま病室を出ていった。二人きりになってりんたろうは椅子に座った。

伊「少し痩せたんじゃないか?やっぱり延命治療は辛いのか?」

 森「全然、痛みもほとんど無いよ。だけど、やっぱり日に日に体は弱まってきてるかな」

 伊「もし辛いならすぐ帰るけど?」

 森「大丈夫。薬がしっかり効いてるみたい。それにもう少し話したいな」

それから暫く沈黙が続いた。りんたろうも病気の私を目の前にして何を話せばいいか分からないなようだった。無理もない。よく知っている人が余命残り僅かと思ったら言葉も詰まるだろう。このままでは行けないと思い今度は私から切り出した。

 森「後で冷志にちゃんとお礼を言わなくちゃ。フランスまで行って約束を叶えてくれたんだから」

 伊「あいつの行動力は見習いたい所だな」

 森「そうだね」

 伊「なぁ、どうして俺に会いたいって言ってくれたんだ?」

りんたろうの言葉で私は黙ってしまった。そしてりんたろうとの思い出が甦ってきた。私はりんたろうに想いを伝えた。

 森「りんたろうと一緒に過ごしたことが甦ってきたんだ。高校の英語部、一緒に英語の勉強をしたこと、フランスへの旅立ちを見送ったこと、私はきっと自分でも気づかない内にりんたろうのことが気になってたんだ。だから最後の願いでりんたろうに会いたいって言ったんだと思う。余命がなくなる前にまたこうしてあなたと会えて、あなたと話せて本当に良かった」

気づいたら私の目から涙が流れていた。こんなこと初めてだった。想いを伝えるのがこんなに切なくて苦しいものだとは知らなかった。

 伊「沙理奈、ありがとう。でもごめんね。俺はもう恋愛はしないって決めてるんだ。だからその想いは受け取れない」

 森「知っているし、分かってるよ。でも、この想いはどうしても伝えたかった」

私は泣きながらりんたろうと抱き合った。最後に想いを伝えることが出来て本当に良かった。

 渚病院を出て俺は最寄り駅に向かって歩いていた。好きな人の為とは言え、恋敵を会わせるなんて似合わないことはするもんじゃないなと思った。外は春一番が吹いていて風が強かった。風に向かって歩くのは大変だった。赤信号の交差点で止まっていると向かいから母親と女の子の親子が歩いてきた。今年の春から小学生になるからかランドセルを買ってもらって嬉しそうだった。微笑ましく見ていると女の子が被っている帽子が風で飛ばされ横断歩道に落ちてしまった。丁度青信号に変わったので俺は帽子を取るため横断歩道へと駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る