さぁ会いにいくよ
フランスに修行に来てもうすぐ二年が経つ。しかし、まだまだ厨房で料理を作ることをやらせてはもらえない。一年目は皿洗いや接客をやり、二年目ではそれに加え仕込みや発注をやらなければならない。最近になって料理長から手解きを受けれるようにはなったが、お店が終わってからなのであまり長い時間教わることは出来ない。今やれることは料理長から教わったこと、厨房で見たことを自分の家で練習することだった。何年かかるか分からないが、今できることを地道にやっていけば必ず料理長のような腕前になれると信じてる。だから、沙理奈には悪いが帰るわけにはいかない。少しでも早く腕を磨きたいから。俺がオープンに向けて仕込みをやっていると先輩が俺を呼び出した。
先輩「りんたろう、お前に会いたいと言ってる人がきてるぞ」
フランスに俺の知り合いはいない。誰だろうとレストランの入り口を出るとそこには冷志がいた。
伊「冷志、お前なんでフランスにいるんだ?」
冷「もちろんお前を日本に連れて帰るためだ。大変だったんだぞ、強盗に襲われて荷物を盗まれて」
伊「電話でも言っただろう。俺は一人前になるまで日本には帰らないって。沙理奈にもそう伝えてくれって」
冷「あいつの最後の願いがお前の顔を見たいってことなんだ。俺はその願いを叶えてあいつを笑顔にしてやりたいんだ」
伊「だったらお前がそばにいてやれ。そしてお前があいつを笑わせてやれ」
冷「俺じゃないんだ…」
伊「え?」
冷「あいつが隣にいて欲しいと思っているのは俺じゃなくてお前なんだ。お前じゃないとあいつは笑ってくれないんだ。だから頼む日本に帰って来てくれ」そう言って冷志は深々と俺に頭を下げた。沙理奈がそんな気持ちを抱いていたなんて知らなかった。英語の勉強に付き合ったりはしたが、そんな素振り見たこともなかった。少しだけ俺の気持ちがぐらついた。だが、一度決めたことを曲げるわけにはいかなかった。
伊「それでも俺は、日本には帰らない」
そう言って俺は店の中に戻った。
冷「りんたろう、待って」
後ろから冷志の声が聞こえたが、振り向くことなく立ち去った。お店の窓から肩を落として帰る冷志の後ろ姿が見えた。
料理長「りんたろう」
伊「料理長、すいませんでした。すぐ仕込みに戻ります」
料理長「友達を落ち込ませたまま日本に帰らせていいんですか?」
伊「一人前になるまでは帰らない。例えなにがあっても。自分で決めたことです。友達には悪いですが、ここで帰るわけにはいきません」
料理長「このお店の名前は何ですか?」
伊「え?スリールです」
料理長「私はお店に来た人を笑顔にしたくてこのお店にスリール(笑顔)という名前をつけました。今りんたろうの友達を日本に帰したら私の理念に反します」
伊「料理長…」
料理長「あなたに命令します。あなたに今日から一週間の休みを与えます。友達と一緒に日本に帰りなさい」
翌日、まりさんの車で空港まで連れて行ってもらった。最後の最後までお世話になってしまった。
角「あなたに会えて良かったわ。私は凄く楽しかった。友達のことは残念だったけどフランスに来たことは無駄じゃない。きっと友達にも想いは届いたと思うわ」
冷「何から何までありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
角「それじゃあ、また何処かで」
冷「ありがとうございました。さようなら」
まりさんは車で行ってしまった。まりさんに会わなければりんたろうに会うことも出来なかっただろう。本当にいい人だった。色々あったが、結局りんたろうを連れ戻すことが出来なかった。沙理奈になんて謝ったらいいんだと考えていると後ろから声が聞こえた。
伊「一人で日本に帰る気か?」
後ろを振り返るとそこにはりんたろうがいた。
冷「りんたろう?なんで…」
伊「さぁ、沙理奈に会いにいくぞ」
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