信じたくない事実
夏が終わる頃俺は沖縄から地元に帰って来た。おじいちゃんが亡くなった時、地元に戻って家族と過ごしたいと思ったからだ。夢から逃げ出したと言われても仕方がないが自分で決めたことに悔いはない。りんたろうと沙理奈にもメールでおじいちゃんのこと、地元に帰ることを報告した。二人とも俺の気持ちを尊重してくれて嬉しかった。家に帰って来てのんびりしているとりんたろうから電話がかかって来た。普段はメールでやり取りしているので珍しいと思った。
冷「もしもし、りんたろう?久しぶりだな。元気だったか?料理の修行は順調か?」
伊「俺のことはいい、お前沙理奈が日本に帰って来てるって知ってるか?」
冷「いや、俺も地元に帰って来たばっかりだから」
伊「やっぱり知らないんだな」
冷「帰って来るには少し早いんじゃないか?何かあったの?」
伊「冷志落ち着いて聞けよ」
冷「え……オーストラリアで倒れて日本の専門的医療を受けるために帰国した………?」
沙理奈が入院したと知り俺は沙理奈がいる渚病院へと急いで向かった。受付で部屋の番号を聞き駆け足で会いに行った。
冷「沙理奈、大丈夫か?」
森「あぁ冷志、久しぶり」
そこには笑顔で元気そうな沙理奈がいた。心配していたが、重い病気ではなさそうだった。
冷「なんだよ、入院のために帰国したって聞いたからよっぽど重い病気だと思ったのに元気そうじゃん」
森「心配して来てくれたの?ありがとう」
冷「その様子じゃ直ぐに退院できそうだな」
その言葉を聞いて沙理奈は静かに首を横に振った。
冷「入院長引きそうなのか?いつ頃完治するんだ?」
沙理奈は微笑みながら首を横に振った。
森「残念だけど余命宣告をされちゃった。私の病気はもう治らないんだって」
俺は言葉を失った。俺の中で流れる時間が止まったような気がした。
冷「え……だって顔色もよさそうだし、こうして普通に喋れてるじゃん。下手な冗談はよせよ。嘘だよな?」
森「癌が体中に転移してて手の施しようがないんだって。後は延命治療をするしかないって」
冷「そんな…なんでお前はそんな平気そうな顔をしてるんだよ。もっと泣くとか、叫ぶとかしろよ。なんでそんな冷静なんだよ」
俺は泣きながら怒鳴り声で沙理奈に語りかけた。しかし沙理奈はそれでも微笑んでいた。
森「私はもう十分生きたと思うんだ。ずっとやりたかった海外留学が出来て、英語が喋れるようになって、泣いてくれる仲間が出来て、私はそれで十分幸せ」
こんな人生の終わりかたでいいのか、こんなお別れの仕方でいいのか、何より俺は沙理奈に迷惑をかけてばっかりで何もしてやれてないぞ。こんなことでいいはずがない。俺は沙理奈に今してやれることを必死で考えた。
冷「余命はどれくらいって言われた?」
森「何もしなければ半年、延命治療を施したら一年、でもいつ何があってもおかしくないって」
冷「それまでにやりたいこと、会いたい人、食べたいもの何かないか?俺が絶対に叶えてやる」
森「そんなの特には…」
ないと言おうとしたが、なぜかその時りんたろうと二人で英語の授業をしたことを思い出した。りんたろうはフランスに留学中、会えるはずがない。だけど、死ぬ前にもう一度だけ顔を見たいと思った。
森「あえて言うなら、りんたろうにもう一度会いたいかな」
その一言で俺は全て理解した。沙理奈が隣にいてほしいと思っていたのは俺じゃなくてりんたろうだったんだと。沙理奈自信も気づいてないようだが、沙理奈にとってりんたろうは大切な存在だったんだ。俺はその願いを絶対に叶えてやりたいと思った。それが好きな人にしてあげられる唯一で最後のことだから。
冷「分かったよ沙理奈。俺がりんたろうを連れ戻して必ずお前に会わせてやる」
森「無理だよ。りんたろうは今フランスへ留学中なんだから。修行が終わるまで帰って来ないって言ってたし。それに私のせいで修行の邪魔はしたくないし」
冷「大丈夫、引きずってでも連れてくる。だからそれまで死ぬんじゃねーぞ」
俺はそう言って病室を走って出ていった。
森「ちょっと、冷志。いっちゃった」
待ってろよ沙理奈。お前の願い、必ず叶えてやるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます