赤い風船

また、沙理奈に振られてしまった。でも以前と違うのはしっかり付き合って欲しいと伝えられたことだろう。俺の気持ちは沙理奈に届いた。だから後悔なんてない。むしろ俺は感謝している。今まで生きてきた中で森沙理奈という素晴らしい女性に出会えたこと、俺の人生に彩りを与えてくれたこと、しっかり気持ちを受け取ってくたこと、だから伝えられて良かったと思う。沖縄に戻って来てからまた、いつもの日常が戻った。出荷作業、事務仕事、タンクに貯める海水運び、たまに海に出て採取活動、そんな毎日があっという間に過ぎ気がつけば年末になっていた。

 俺はまた一週間休みをもらい地元に帰って来た。今度は家でゆっくり過ごそうと思う。以前帰って来た時と違うのはじいちゃんが寝たきりになっていたこと。夏に俺が沖縄に戻ってから急に体力が弱くなってしまったらしい。

 冷「おじいちゃん、帰って来ましたよ」

 祖父「おぉ、お帰り。ゆっくりして行きな」

おじいちゃんの返答はとても弱々しかった。医者からは家で介護することは最悪の事態も覚悟して欲しいと言われたそうだ。母親とおばあちゃんの手伝いはしっかりしてあげようと思った。ずっと家にいるのも退屈なのでショッピングセンターに出掛けた。年末なので人が沢山いた。母親とおばあちゃんの疲れが少しでもなくなるようにケーキを買った。帰ろうとした時声をかけられた。

?「ちょっとそこのお兄さん。占いやっていかない?」

そこにいたのはピンクの髪、ピンクのサングラス、ヒョウ柄のコートを着た怪しい女性だった。

 ?「今年末価格で千円で占ってるの。時間はとらせないわ」

いかにも胡散臭かったが、占いには多少興味があるのでやってみることにした

 占い師「初めまして。クジラ姉さんと申します。宜しく。お名前と生年月日を教えてちょうだい」

 冷「縦山冷志、6月11日生まれです」

 占い師「手相を拝見いたします」

俺は両手の手をクジラ姉さんに見せた。するとクジラ姉さんは飄々とした態度から真剣な顔になった。

 占い師「冷志さん、あなた好きな人に振られてしまったのね。振られた今でもその子が好き。でもその想いはもう届かない」

手相を見ただけで何でそこまでわかるのかと思った。もしかしてこの人はとんでもない人かもしれない。

占い師「はっきりとはわからないんだけど、あなたにはまだ大きな試練が待っている。あなたはとても悩むわ。でもそんな時こそ自分の意志を信じてちょうだいね」

クジラ姉さんの顔に嘘はないようだった。俺は未来が少し怖くなりクジラ姉さんに質問した。

 冷「俺はその試練、乗り越えられますか?」

 占い師「わからない。あなたの心次第ね。こんな大きな試練が待つ人なかなかいないわ。特別にサービスしてあげる」

そう言ってクジラ姉さんはドックタグに俺の名前を掘り出した。

 占い師「これがきっとあなたのお守りになるわ。肌身離さずつけていてね」

俺はその場でドックタグをつけ、クジラ姉さんに別れを告げた。帰り道の途中携帯がなった。母親からの着信だった。

 冷「もしもし、どうしたの?何で涙声なの?え…おじいちゃんが…なくなった?」

 俺が家に帰って来てすぐ天国へ旅立つなんて運命を感じずにはいられなかった。俺が帰って来て顔を見て安心したのか安らかに眠ってしまった。身の回りの片付けや葬儀の準備をしていると、おばあちゃんが赤い風船を膨らませていた。

 冷「おばあちゃん、何してるの?」

 祖母「私のふるさとではね、亡くなった人に伝えられなかったこと、感謝の気持ちなんかを手紙に書いて赤い風船につけて飛ばす風習があったんだ。」

 冷「何で赤い風船につけて飛ばすの?」

 祖母「赤い色なら天国からも見つけやすいだろう。棺に入れるよりこっちの方がいいと思ってね」

手紙をくくりつけた赤い風船は天高くどこまでも昇っていった。

 おじいちゃんの葬儀が終わり俺は沖縄に帰って来た。一週間の休みはバタバタしたものになってしまったが、最後におじいちゃんに会えて本当に良かったと思う。沖縄に帰ってくる前に俺はある決心をした。会社の上司と社長に話を切り出した。

 冷「今年の夏一杯で退職し、地元に帰らせていただきます。雇って頂いてありがとうございました。あと半年精一杯やらせて頂きます」

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