再び燃えあがる想い

沖縄に渡り社会人の生活がスタートした。最初から魚を捕まえる仕事をさせてもらえる訳ではない。最初は出荷作業や出荷箱の作成、会社に保管されている魚たちの水換えが主な仕事だ。社会人一年目ということもあり、全ての仕事でミスをしてしまう。その度に上司に怒られた。自分では良かれと思ってやったことが逆に良くない方向に向かってしまうこともあった。報告、連絡、相談の重要さが身に染みて分かった。それと同時に沙理奈が言っていた自分の事で精一杯という気持ちがようやく分かることが出来た。仕事で上司から怒られ、生活をするのも全て自分一人でやらなければならない。自分の事で頭がいっぱいになるのも仕方がないと思った。仕事を始めて一週間たった日の夜、俺は沙理奈にメールで謝った。

 冷「沖縄にきて一週間たったけど、沙理奈が言っていた自分の事で精一杯の意味が分かった気がする。仕事で失敗して上司に叱られて大変だよね。あの時は自分の事ばかり押し付けてごめんね」

 森「大丈夫だよ、頑張れ」

沙理奈は優しく励ましてくれた。一人暮らしをしていて寂しい今、沙理奈の言葉は何よりも励みになった。

 沖縄に来て一ヶ月ほどたった頃、初めて海へ採取に行く仕事に出た。ずっとやりたかった仕事だった為俺はとても張り切っていた。だが、その張り切りは空回りに終わってしまうことになる。魚が全く捕まえられなかった。小さな魚を10匹取るだけだったのだが、自由のきかない水中では思うように体を動かせず魚の方が圧倒的に素早かった。結局目的の数は取れなかった。

 社長「これは慣れもあるけどセンスなんだよね。君にはちょっと厳しかったかな」

社長の言葉に自信を打ち砕かれた。それ以降俺が海に出る日は月に一度あるかないか位だった。だが、落ち込んでばかりもいられない。俺は与えられた仕事をしっかりやっていこうと気持ちを切り替えた。

 8月の終盤、俺は一週間ほど休みをもらい地元に帰って来た。りんたろうがフランスへ出発すると聞き見送りに行くためだ。出発まで時間があった為、空港内のレストランで待ち合わせして食事をした。

 伊「やっぱり沖縄にいるからか焼けたな」

 冷「そうだな、南の島だから。しばらく会えなくなるのか。寂しくなるな」

 伊「一人前になるまでは戻って来ないつもりだからな」

 冷「なんていうお店に修行にいくんだ?」

 伊「スリールってお店。フランス語で笑顔って意味だ」

 冷「いい名前のお店だ」

そんなことを話していると見覚えのある女性が近づいて来た。

 森「冷志久しぶり、元気だった?」

高校卒業して以来の久しぶりの再開だった。元々綺麗だった容姿はさらに磨きがかかって垢抜けていた。

 冷「あ…あぁ、久しぶり」

あまりに大人っぽくさらに美人になっていたので俺は言葉が出てこなかった。

 伊「俺が呼んだんだ。せっかく冷志が帰って来たんだから会わせたいと思って」

 森「冷志とも再会出来たし、りんたろうの見送りも出来るし、一石二鳥だね」

 その後は三人で暫く話したが、正直記憶があまり無い。沙理奈が来るとは思わなかったのでパニックになっていたんだと思う。りんたろうの出発時刻が迫って来たのでゲートまで見送りに行った。

 伊「それじゃ、行ってきます」

 森「気をつけてね。帰ってきたら美味しい料理を食べさせてね」

 冷「これ、俺からの選別だ。受け取ってくれ」

そういって俺はりんたろうに万年筆をあげた。

 伊「ありがとう、大事に使わせてもらうよ。じゃあ、元気でな」

りんたろうは空港の奥へと歩いていった。一度も振り替えることもなく。

 森「じゃあ冷志、私も帰るね。またね」

沙理奈は俺に背を向け歩き出した。その時俺の中の思いが溢れ出したのか体が勝手に動き俺は沙理奈を追いかけ右手を掴んだ。

 冷「待って沙理奈。沙理奈に伝えたいことがあるんだ。俺、沙理奈とまたメールするようになってからまた沙理奈のこと好きになってたんだ。高校卒業してから今まであってなかったけど沖縄にいてなかなか会えないけど俺で良かったら付き合って下さい」

周りの目を気にすることもなく、高校の頃とは対照的に想いがすらすら言えた。我に帰った俺は沙理奈の右手を離した。

 森「ごめん、ちょっと考えさせてもらってもいい?」

沙理奈は微笑んでいるような、悲しんでいるような、複雑な表情になりながら俺に返答した。

 冷「いいよ、待ってるから」

俺は沙理奈にそう答えるしかなかった。歩き出した沙理奈の背中を俺は見えなくなるまでずっと見ていた。それから数日たった俺が沖縄に帰る日、沙理奈から返事のメールが届いた。

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