トリコロールのはためく街で
不思議なことは、意図していないときに起きるものだ。
彼女と街なかでばったり会った。
「あなた、最近変わったね。前はあどけなかったのに、おとなになったね。そして、前より優しいまなざしで、世界を見ている」
「好きな人ができたから」とは、言わなかった。
「あなたが好きだから」とは、もっと言えなかった。
「フランスに、行ってみることにしたよ」
私はそう言った。
「もっと、広い世界が見たいから。そこで新しい自分に出会いたいから」
全くの思いつきで口走ったことだった。
あの授業をきっかけに、フランスに興味を持ったのは事実だけれど、フランスに行こうとまでは思っていなかった。
フランスは同性婚を認めている。
面白いな、と思った。
私は自分のことも、この国のことも、世界のことも、無知だ。そこがどんな国なのか、想像もできない。ただ、見てみたい。私がすこしだけ、より自由になれる姿を。
親は「自分の力で生きていけるなら、なにをしても良い」と応援してくれた。
大学は卒業しなさいと言われたので、真面目に行って、学位記をもらった。
とにかく、行ってみたい。
そんな半ば軽率な思いで、ワーホリビザをとった。
大卒後すぐ就職するみんなを見ながら、それとは違う道を選んだ。
すぐ帰るかもしれない。
親に泣きついてしまうかもしれない。
この国が恋しくなるかもしれない。
それでも、私は決めた。
自分の目で、世界を見ることを。
エールフランスを予約した。
機内ではフランス語がきこえるのだろうか。
フランスの食事は、治安は、雰囲気は、どうなのだろう。
スーツケースひとつだけを持って、私は今、地中海からの風が吹く街にいる。
私は、自由だ。
私は、ようやく私の人生を、私だけの人生を、私の手のなかに入れた。
まず買い物をしなきゃな。
フライパンに、オリーブオイルに、ムール貝に、パスタに、それからもっとたくさんのものを。
ユーロを手に、私は歩き出した。
後悔しても良いから、私のままで生きたい。
そしていつか彼女にもし会えたら、出会えてよかったと、ありったけのありがとうを伝えたい。
神様、私は間違えてしまったのでしょうか Pokój @pokoj
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