ずれた感性の公爵夫人は、笑顔ひとつで危機を乗り越える~公爵に溺愛されるようになりましたが、きっかけは「お肉」でした~

久遠れん

ずれた感性の公爵夫人は、笑顔ひとつで危機を乗り越える~公爵に溺愛されるようになりましたが、きっかけは「お肉」でした~

 現在のセント王国は二つの派閥が争いを繰り広げていた。


 片方は第一王子派閥、主に貴族派が彼を王太子に、と推している。

 もう片方が第二王子派閥、主に軍部派が彼こそが王太子に相応しい、と熱弁を振るう。


 王子が二人いれば、対立は免れないのはどの国でも同じだ。

 そして、王子同士の仲が悪いならば、なおのこと。


 第一王子は側室の子で、第二王子が正妃の子であることも、争いに拍車をかけていた。


 血筋を重んじるはずの貴族派が第一王子を担いでいるのは、彼が操り人形として最適だからだ。

 一方で、力を重んじる軍部派が第二王子を祭り上げたのは、彼こそが実力主義を押し出しているからだった。


 あべこべな力関係は、国王の崩御によって崩れた。王子たちの対立は、血で血を争う内乱に発展しかけたのだ。


 語るのも一苦労ないざこざを経て、最終的に玉座を勝ち取ったのは第二王子アルヘムだった。

 彼を支持していた軍部派は多大な発言力を得た。その筆頭がパトリック公爵だ。


 貴族ではあるが、それ以上に軍人として秀でた才覚を持つ、パトリック・アズナヴール公爵は、和解の証に貴族派の筆頭であったチェカルディ侯爵家に娘を差し出すように要求した。


 その娘、というのがヴァレリー公爵夫人である。

 彼女は国の平和のために、人質のような形でアズナヴール家に嫁入りしたのだ。


 とはいえ、彼女が自身の境遇を嘆き、泣き暮らしているのかと言えば、全くもってそうではない。


 貴族派の娘だというのに、昔から馬に乗り草原を駆け、剣を振るって騎士ごっこをするのが大好きだったヴァレリーは、アズナヴール家でも凛と背筋を伸ばし続けている。






(今日も部屋から出てはいけないのね)


 はあ、と窓際でため息を吐く。

 人質同然に嫁いできたから仕方ないのだが、ヴァレリーは部屋から出ることを許されていない。軟禁状態だった。


 室内でできることならば制限をかけられていないし、広い部屋には彼女の退屈を紛らわせるため、ピアノや本、刺繍道具なども置いてある。貴族の令嬢であれば、十分に時間を潰せるだろう。


 だが、ヴァレリーは室内で静かに過ごすよりも、庭を駆けまわる方が好きな質で、正直今の生活は窮屈でしかなかった。


 そんな生活をすでに一か月は送っている。

 体がなまって仕方ないが、我儘を言えば家の立場がさらに悪くなる。これ以上悪くなりようがない、と言われればそれまでではあるのだが。


(そもそもお父様もお父様なのよね。負け馬に乗るなんてらしくないわ)


 不満は内心で零すだけに留める。口に出して万一聞かれては目も当てられない。


 窓の外から見える景色は、とてものどかで平穏だ。青い空に白い雲。よく手入れされた庭。

 色とりどりの季節の花が咲き乱される庭園は目を楽しませてくれて、少しだけ心を慰めてくれる。


「ふあ」


 欠伸をかみ殺す。最近、暇をつぶすためによく昼寝をするから、眠気が襲ってきたのだ。

 ぐいっと背伸びをして眠気を散らし、再び窓の外へ視線を向けた。


 窓を開けることは許されていない。身投げされては困ると思われているらしかった。

 窓に掛けられている強固な鍵封じの魔法に指先で触れる。


 それなりに魔法が得意な自覚があるが、そんな彼女をもってして、解けない魔法だと分かってしまう強固なものだ。


「暇ねぇ……」


 ヴァレリーが暇をしているということは、それだけ平和ということなのでよいことではあるのだが。

 それはそれとして、体を動かしたいなぁと窓の外の広い庭園を眺めるのだった。






「ヴァレリー、迎えに来た」

「?」


 ノックされることもなく、すべらかに開かれた扉。

 そこに佇んでいたのは、いかにも几帳面そうな青年だった。


 少し青白い顔が気にかかるが、貧弱な印象は受けない。

 それなりに鍛えているらしいことは、身に着けている上等な洋服の上からでも伺えた。


 だが、良質な軍人に比べれば全然ひょろいと評せる体だ。


「どなたかしら?」


 迎えに来た、と言われても心当たりがない。

 首を傾げたヴァレリーの前に、かつかつと足音を鳴らしながら青年が近づいてくる。

 

 警戒心が内心をよぎったけれど、表に出すことはなく彼女はにこにこと微笑み続ける。

 笑みこそが貴族令嬢の最大の武器だ。


 いつだって笑っていなさい、というのは亡き母の教えの一つでもあった。


「こちらへ、ヴァレリー」

「どこのどなたかわからない方についていけないわ」


 ヴァレリーがこの部屋に大人しく留まっているから保たれている平和がある。

 自覚があるからこそ、下手には動けない。たとえ現状に不満があるとしても。


「ついてきてもらう」


 目の前まで伸ばされた手に、内心で眉を潜める。

 人さらいだと理解したときには、目の前は暗転していて。


(これって……だれの責任になるのかしら……)


 そんなことを思いながら、意識を手放した。






 緩やかに意識が浮上する。すぐに目は開けなかった。指先も動かさない。

 意識がなかった時と呼吸を変えないように意識して、ゆっくりと息を吐く。


 二度、三度。呼吸を繰り返して、五感をフル稼働させる。

 貴族の令嬢らしくない行動は、これまた母の教えだった。


 病弱な母は、その美しさから何度も誘拐された経験があり、見知らぬ場所で意識が目覚めた場合の対処法をヴァレリーに教えてくれていた。


(腕も足もしばられてはいないわね。服も脱がされてない)


 右腕、左腕、右足、左足。少しずつ意識をうつして肌に触れる感覚を確かめる。

 どこにも違和感がないことを確認し、そっと息を吸った。


 埃っぽい空気が喉に触れる。倉庫かどこかだろうかとあたりをつけた。

 耳を澄ませても、人の声は聞こえない。人の気配も感じなかった。


 そうっと本当に薄く目をあけたヴァレリーは、けれど目の前にぼんやりと洋服をを見てとって、内心で眉を潜める。

 気配を消して、誰かがいる。


「狸寝入りが得意とは知らなかった。スパイとして通用するレベルだ」

「……」

「起きているだろう。無駄だ。俺は欺けん」

「…………」


 浅く息を吐く。バレているなら仕方ない。

 いくら母に教えてもらったとはいえ、実践する機会などなかったのだ。


 夜、ベッドの上でひっそりと練習したことはあるけれど、その程度の訓練で、他人を欺くのは難しいということだ。


 ヴァレリーはゆっくりと目をあけた。

 同時に、寝転がされていた粗末なベッドに手をついて体を起こす。


 彼女を冷ややかに見つめていたのは『迎えに来た』と言ったのとは別の人物だった。

 鋭利な雰囲気を纏った青年が、凍てついた眼差しでヴァレリーを見ている。


「どなたかしら?」

「それを聞いてどうする」

「今後の予想が立てられますわ」

「ふん」


 鼻を鳴らして黙り込んだ青年の前で、ベッドから立ち上がったヴァレリーは、彼を無視して扉に向かった。

 止められる気配はない。ドアノブを回すと、鍵がかけられていない扉は簡単に開いた。


「止めないのですね」

「ここを出れば、お前が死ぬ。それだけだ」


 その言葉に怯まなかったわけではない。だが、このままここに留まるわけにもいかなかった。


(とはいえ、無防備に外に出るのも嫌ね)


 廊下と部屋を隔てる扉は簡単に開いたが、魔法が張られている気配がする。

 部屋に転がっていたよくわからない瓶をとって、扉に投げると瓶は粉々に砕け散った。


「あら、悪趣味」


 思わず笑ってしまう。何も知らずにこの境界を跨ごうとすれば、ヴァレリーの体が砕けたのだろう。

 この系統の魔法は内からは解けない。外から解くか、魔法をかけた本人が解くしかない。


 くるりと体を反転させ、ベッドに戻る。

 埃っぽいベッドに腰を下ろしたヴァレリーは、笑みを浮かべて謎の青年に問いかける。


「貴方の名前は?」

「……」

「ここはどこしら?」

「……」

「わたくしを攫って何が目的なの?」

「……」


 青年は黙り込むばかりで返答は一切してくれない。

 つまらないわね、と内心でぼやいて、ヴァレリーは天井を見上げた。


 見慣れない天井には削りだされた木独特の染みがあって、人の顔のように見える。

 普通の令嬢なら怖がるだろうが、ヴァレリーは欠片も怖くない。


「ねえ、天井のあの染み。人の顔のようよ」

「……よく喋る」

「だって暇だもの」


 生来お喋りは大好きだ。

 アズナヴールのお屋敷では、メイド相手にも気軽に話しかけるのは憚られたので、ここぞとばかりに口を開いてしまう。


 さらに話しかけようと口を開いたヴァレリーの耳に、硬質な足音が響く。

 「あら」と視線を天井から扉に移した彼女は、開きっぱなしの扉の向こうに先ほどの青年を見た。


「扉が開いている……?! おい! 何をしていた!」

「見ていろ、と言われたから、見ていただけだ」

「無能が! 魔法を張っておいて正解だったな!!」


 命令を額面通りに受け取ったと告げる青年に、もう一人の青年が怒鳴りつける。

 内輪のもめ事には興味がない。


 ヴァレリーはにこにこと笑いながら、新しい青年に問いかける。


「わたくしは何のために連れてこられたのかしら?」


 笑みを浮かべて質問を口にすると、境界線の向こうで青年が眉を潜める。

 気味が悪い、と如実に伝える表情だ。


「この状況で笑う気狂いか。パトリックに似合いの妻だな」

「……、ああ! その嫌味な喋り方! 第一王子のアベル様かしら? お顔が違うけれど」


 髪の色も目の色も、ヴァレリーの記憶している姿とは違う。

 けれど、確信があった。常に人を見下した嫌な話し方は、アベルの常だった。


「ふん、人を見る目はあるらしい」

「魔法で姿を変えてらっしゃるの? ――そうよね、アベル様は『死んだはず』だもの」


 勢力争いに負けて、臣下に下る屈辱に耐えかねて服毒自殺をした、とされている。

 しかし、ここに姿は違えど本人がいるということは、王城で見つかった死体は偽物だったのだろう。


 もしかしたら、目の前の姿形をしている青年と取り換えたのかもしれない。


「それで、死人がわたくしになんの用かしら?」

「裏切り者の娘に制裁を下す。ついでにパトリックへの嫌がらせになれば一石二鳥だ」

「裏切ってなどいなくてよ?」

「お前の父が私を裏切った!」


 ヒステリックに叫ぶアベルにヴァレリーは首を傾げてしまう。

 父は最後までアベルの味方をしていたように記憶しているのだが。


「私が劣勢に立たされ、臣下に下れなどと屈辱を味わったとき、服毒自殺の死体を入れ替える提案をしたのはお前の父だ。そのくせ、状況が変わればパトリックにおもねいて娘を差し出して和解した。許せぬ!!」


 感情を丸出しで叫ぶアベルが、ようやく境界線を越える。

 するりと入ってきた彼の姿に、外から中に入る分には制限がないのだと察せられた。


「お前をズタズタにして侯爵家に送り付けてやる。さぞや嘆くだろうなぁ。愛おしい娘の無残な姿は!」


 楽しげに笑うアベルにもヴァレリーは眉ひとつ動かさない。

 それどころか笑みを深めてにこりと微笑んだ。


「まあ、そうだったらどれほどよかったでしょう!」

「なに?」

「父がその程度で涙にくれるような殊勝な方だとお思いで? 貴族派の筆頭ですよ? 冷酷で残忍、自身の地位を守るためなら、娘を喜んで差し出すような人でなし!」


 高らかに歌うように、ヴァレリーは自身の認識を語る。

 父の非人道的な所業を並べるなら、三日三晩は語れるがさすがにそれは止めておく。


「父は確かにはたからみれば子煩悩に見えるでしょう。だってそう見えたほうが有利ですもの! わたくしの結婚で家の名声を高めることも、自身の地位を揺らぎないものにすることも! 娘に冷徹な父親より、甘くて優しい仮面の方が、とっても都合がいいのですわ!」


 事実を並べただけなのに、アベルはぎょっと顔を歪ませ、傍にいる名乗らない青年もわずかに眉を潜めた。

 ことんとヴァレリーは首を傾げて、「だから」と語る。


「わたくしに何をしたとしても、父の心は揺らぎません。確かに表面上は嘆き悲しむでしょうけれど、そんな演技を見て何が楽しいのです?」


 彼女にとって、それは事実であり本音だった。だからこそ、アベルの逆鱗に触れる。


「黙れ黙れ黙れ!! お前が口にしているのは命惜しさの嘘八百だ!!」


 伸びてきたアベルの両手がヴァレリーの首を掴む。

 ギリギリと力を籠められて、息が苦しい。それでも、彼女は笑みを崩さない。


「ふふ、嘘かどうかは、ぜひ確かめてみてくださいませ」

「貴様……っ!」

「ああ、最後にお腹いっぱいお肉をはさんだバゲットが食べたかったわ」


 肉汁が溢れる肉をはさんだバゲットはヴァレリーの大の好物なのだが、令嬢の好物らしからぬ、と言われて滅多に実家では食べられなかった。

 その上、嫁ぎ先のアズナヴール家では猫を被っていたから、食べる機会は皆無だったのだ。


 最後にじゅわあと口の中に広がるお肉と、肉汁を吸い込んで少し柔らかくなったバゲットのハーモニーを味わいたかった。


 そう思いながらも、ヴァレリーは微笑み続ける。

 今の状況で笑うのは、不気味だと誰もが彼女を表するだろう。


 けれど、ヴァレリーにとってこれが通常運転。

 冷酷無慈悲な父の娘は、どこかネジが外れている。


「そこまでだ」


 いままでじっと、粗末の木のイスに座って黙っていきを見ていた謎の青年が立ち上がった。

 アベルの手首を掴んだ彼の行動にヴァレリーは内心で驚いてしまう。


「なんのつもりだ! ……放せ! 痛い!!」

「面白い余興だった」

「なに?!」


 ギリギリとアベルの手首を強く握っているらしい青年が、うっそりと笑う。

 その笑みに、彼女は見覚えがあった。自由になって、一歩後ろに下がったヴァレリーは、「あっ」と声を上げる。


「旦那様、どうしてこんなところに?」

「なっ?!」


 こてん、と首を傾げたヴァレリーの言葉にアベルがぎょっと目を見開く。

 名乗らなかった青年は、アベルの手を掴んでいる右手とは逆の左手で、軽く顔に触れる。

 途端、見知らぬ青年は、何度か顔を合わせたヴァレリーの旦那様――パトリックの顔に変化した。


「姿を入れ替える秘術は、門外不出だと……!」

「ヴァレリーを嫁にもらったときに、門外ではなくなったからな」

「あの狸ジジイが!」


 パトリックを振り払ったアベルが、よろけるように後ろに下がる。

 酷い眼差しで睨みつけるアベルの視線にさらされても、パトリックが揺らぐ様子はない。


「どうやってもぐりこんだ!」

「人非人な狸ジジイのお誘いさ」


 肩をすくめたパトリックの言葉を理解して、アベルが顔を真っ赤に染める。

 裏切られた、と彼は口にしたが、事実裏切られていたのだ。


 恐らく、ヴァレリーの父が伝手を使ってパトリックをアベルの元に送り込んだ。

 アベルがなんらかの行動を起こすと予期してのことだろう。


「お前は私が城を出た時から傍にいたではないか! その間、公爵をやっていたのは……!」

「俺の副官だ」

「チッ! では私が屋敷にもぐりこめたのは……!」

「俺の手引きだな」


 さらりと答えたパトクリックが、ヴァレリーを守るようにアベルとの間に立つ。

 その行動に、ヴァレリーは首を傾げた。言葉通りなら、パトリックは一度ヴァレリーを売っているはずだが。


「旦那様、守ってくださいますの?」

「気が変わったし、君は俺の妻だからな」


 浅く笑ったパトリックの言葉に、そういうものか、とヴァレリーは納得した。

 夫婦のいちゃらぶを見せつけられたアベルはたまったものではない。


「ここで殺してやる!」


 腰に差していた剣を抜いたアベルの言葉に、おや、とパトリックがわざとらしく驚いてみせた。


「俺に勝てるとお思いか?」


 肩をすくめるパトリックの言葉に、アベルが「黙れ!!」と叫ぶ。

 そのまま切りかかってきたアベルを、腰に差した剣を抜くことなく、パトリックは足を引っかけて転ばせた。


 職業軍人と、貴族の習い事の差がでた。アベルがとり落した剣を拾いあげ、そして。


「扉の魔法は解呪できない。術者をお前が殺したからだ。だが、もう一つ解呪の方法がある」

「まて! まってくれ!!」


 転んだアベルの首根っこをパトリックが掴む。

 真っ青になって抵抗するアベルに、どうしたのかしら、とヴァレリーは首を傾げて見守ってしまう。


「一人、死ぬことだ」

「うわああああああ!!」


 そのままポイ、と。本当にゴミか何かを捨てるように。パトリックはアベルを境界線に投げ捨てて。

 そのまま、じゅわり、と。アベルの身体は解けて消えた。


「まあ、すごい!」


 ぱちぱちと思わず拍手をしたヴァレリーに、パトリックはなぜか恥ずかしそうに笑っていたのだった。






 アベルについていた残党をパトリックが卓越した剣と魔法を駆使して、一人残らず倒した後。

 アベルの隠れ家を魔法で燃やしながら、パトリックはヴァレリーにこれまでの経緯を語って聞かせた。


「君の父は、貴族派だと見せかけて、俺の手足となって働いてくれていた」

「そうなのですね」

「ああ。第一王子アベルを劣勢に追い込み、死を偽装して城から追い出せたのも、彼の功績だ。報いる意味を込めて、君を娶った」

「まぁ」


 燃え盛る家を背景に口元を上品に抑える。

 場の雰囲気に似合わぬヴァレリーの振る舞いにも、突っ込むものは誰もいない。


 パトリックもまた、場にそぐわない、どこか照れたような笑みを浮かべて、彼女を熱心に見つめている。


「度胸のある娘だという話は聞いていた。だが、今日の振る舞いを見て確信した。君こそ俺の伴侶に相応しい」


 そっとパトリックの手がヴァレリーの頬に伸びる。

 慈しむように触れられて、少しくすぐったかった。

 肩をすくめたヴァレリーを、パトリックが抱きしめる。


「不便を強いるが、これからも俺の傍にいてほしい。殺されそうになりながらも、強気を保った君の心の強さに惚れてしまった」

「あらまぁ」


 強気を保った、というより、本心を口にしていただけなのだが。

 さすがにそれはそっと胸に閉まって、ヴァレリーはパトリックの背中に手を回した。


 ぎゅう、と痛いほどに抱きしめられる。

 家が燃える勢いと相まって、体が熱い。


「肉をはさんだバゲットを毎食用意しよう!」

「週に三回で結構ですわ」


 毎食はさすがに飽きる気がする。

 控えめに訂正したヴァレリーに、パトリックは盛大に笑った。


「はは! そうか! では週に三回、俺と食べよう!」

「はい」


 お肉が口説き文句になる令嬢は少ない気がするが、殺されそうになりながらも食べたいなぁと思ったのは事実だ。


 一つ頷いたヴァレリーをパトリックが抱き上げる。

 アベルの鍛えてはいたがどこかひょろかった腕と違い、がっしりと安定感のある素晴らしい筋肉を纏った腕だ。


「さあ、帰ろう。そろそろ俺の副官が腹痛で倒れてしまう」

「それはいけないですわね」


 どこかずれた二人は、にこにことそのまま語り合いながら徒歩で帰宅して。

 心配して探し回っていた副官を卒倒させるのだった。


◤ ̄ ̄ ̄ ̄◥

 あとがき

◣____◢



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