エピソード 2

「う~ん」


 やや、遠い所で、私の足が止まってしまった。入りにくい。


 作家の卵さんたちのカフェと書かれた、看板の下。大きく、書かれていた。


 物を書く人、大歓迎。


 本を読む人、大々歓迎。


 冷やかす人、お断り。


「本気で、紙の本を出版したい人を、応援します、か」


 私は独りごちる。ここで、回れ右しては。バス代と電車代がもったいない。意を決して、店に入った。


「こんにちは!」


 目を引いたのは、正面の壁。一面の壁に、複数の小説の雑誌。表紙を面に出した形で並ぶ。透明のフィルムに包まれて、購入しなければ、読めない。私は、会員になったので、後日、自宅に届くはずだ。


 どれも、書店では、お目にかかれないタイトル。先に、カフェに来た人たちが、グループを作って出版した。私の目標でもある。


 棚の手前。店内の真ん中に、大きなテーブル。上に、簡単に綴じられた、小冊子が隙間なく並ぶ。文庫本の大きさで、薄い。簡易的な台の上に乗る小冊子は、スタッフさんのお薦めらしい。


 周りに、四人掛けのテーブルが並ぶ。壁に向かって、横一列の席と共に、埋まっていた。誰もが、小冊子のページをめくる。


「いらっしゃいませ!」


「あのう。申し込んだ……」


 奥からスタッフさんが来て、明るく挨拶する。私は名乗って、目的を伝えた。


「楠本 ナオ(くすもと なお)さんのペンネームで書かれている方ですね。十万文字以上の三作品、すべて完結済みなのは確認させていただきました。手続きに進めます。いかがなさいますか?」


「はい。お願いします」


「身分証明書の提示をお願いします。入会金と年会費の支払いをお願いします」


「はい」


 スタッフさんが用意した、書類。説明を聴いた後。身分証明書での確認。私はペンで書類に記入する。少し、お高い金額を支払う。冷やかす人たちを防ぐためも、会費がいると記されていた。


「どの作品を校閲してもらいますか?」


「改稿版の神々の盤上遊戯(かみがみのばんじょうゆうぎ)のプロローグをお願いします」


 スタッフさんから、尋ねられる。私は作品と範囲を指定した。長くても、一万文字以内と決まっている。


「神々の盤上遊戯?」


「はい?」


「失礼しました」


 スタッフさんから、まじまじと見返される。私は首をかしげて、見つめた。


 我に返った、スタッフさんが謝る。私は印刷してもらった、紙を受け取った。案内された、部屋へ。


「こんにちは。早速ですが、あなたの作品を」


「こんにちは。はい。よろしくお願いいたします」


 元校閲の仕事に就いていた人による、チェック。漢字や送り仮名の間違い、読んで判りにくい所を赤ペンで、記していく。


 訊かれたことに、私は答える。話し合う。直して、再び、チェック。印刷に回された。


 もっと、チェックしてもらうには、別料金が掛かる。


「ありがとうございました!」


「どういたしまして」


 私は部屋を出る。次に来た人が、入った。


 印刷された小冊子の表紙は、タイトルとペンネームのみのシンプルなもの。スタッフさんが大きなテーブルの空いている箇所に置いてくれた。


 私は不思議な気持ちで、眺める。あまりにも、大きくて、重い扉がすんなりと開いてしまった。作家の卵を応援するという、チャンスが巡ってきただけで。

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次の更新予定

2026年1月3日 18:40

作家の卵さんたちのカフェ 奈音こと楠本ナオ(くすもと なお) @hitoeyamabuki

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