作家の卵さんたちのカフェ

奈音こと楠本ナオ(くすもと なお)

エピソード 1

「あ~! しまった~~!! 今日だったんだ~~~!!!」


 天高く、私の嘆く声がこだまする。


 とある町に、作家の卵さんたちのカフェがあるという。


 私が知ったのは、自身が小説を投稿しているサイトの広告だった。


 いち早く、知ったのに。開店当日のテレビの放送を家で見て、思い出した。


「間に合わなかったんだ。仕方ない」


 例によって、例の如く。期日までに、条件を満たせなかったのだ。


 ハハハッ。力無く、笑う。


 笑い事じゃない。期日が締め切り日なら、大問題だ。信用がガタ落ち。しばらく、本が出せなくなるだろう。


 アナウンサーの問いに、閲覧数は上位をキープしているが紙の本を出版するまでには至らない人たちが答えていた。


 テレビで、自分の作品を紹介できるのは。かなり、大きな利益と思う。紙の本に慣れ親しんだ、上の世代に知ってもらえる。


 作品よりも、自分が目立ってしまえば。本末転倒だとも思った。


「やっと、終わった~~~!!!」


 カフェが落ち着いたと思われる頃。私は条件を満たせた。その日のうちに、ネットで申し込む。店がある、町のホテルに予約した。往復できなくないが。時間が掛かることが、予想されたからだ。


「何か、眠れなかった」


 翌朝。リュックサックの中を覗き、忘れ物がないか確認した後。最寄りのバス停から、私はバスに乗り込む。最寄りの近代的な外観の駅に着く。県内の主要な駅のひとつだという。電車に乗る。空いている席に、座った。


 夕べは興奮状態で、眠りが浅かった。肩掛けカバンを抱え直して、まぶたを閉じる。すぐに、眠ってしまった。


 電車内のざわめき。車内放送。都内の主要駅のひとつに止まっていた。終点だ。


 すべての乗客が降りなければならないが。私は待つ。要領が悪いので、他人とぶつかる恐れがあった。車内の人の数が減ったところで、降りる。人の流れに乗って歩いた。


「いよいよだ」


 私は御手洗いに寄り、化粧直しもする。鏡の中。緊張する自分に会った。それも、また、良し。思い直して、出る。


 都内は、いつも、人が多い。いつも、工事やっている。方向感覚を狂わされる。


 電光掲示板と案内板を頼りに、乗り換える。二、三駅進んで、更に、別の列車に乗り換えた。都内から、遠ざかる。


 趣のある、こぢんまりした駅。私は降りた。目的のカフェがある。御手洗いに寄った。深い呼吸を繰り返す。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて、過度の緊張を解いた。


 私は考えてしまう。始まってしまえば、問題ないのに。始まる前は、何だって、こんなに緊張してしまうのだ?


 答えが出ないまま、駅を出る。駅前広場にある、地図を確認。少しばかり、距離がある。散歩がてら、歩き出した。


「すみません。道をお尋ねしたいのですが。よろしいですか?」


「作家の卵さんたちのカフェに、行きたいのでしょう? よく、訊かれるのよねえ」


 私は、商店街にある店で、道を訊く。店員さんとおしゃべりした後。道を戻る。教えてもらった通り。小さな看板を見つけた。


「こんな所も、道なんだ」


 すれ違うのが難しい、狭い路地に入る。更に、奥まった所。目的のカフェを見つける。居抜きの物件と聞いた。

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