第4話 スマホが異常に熱いし、友達からの連絡が消えている

違和感に気づいたのは、契約から三日目の朝だった。


「……あれ?」


 目が覚めてスマホを手に取ると、本体がカイロのように熱を持っていた。  昨夜、充電器に挿して寝たはずなのに、バッテリー残量は『42%』しか残っていない。


「なんだこれ。故障か?」


 まだ買ったばかりの最新機種だ。バッテリーが劣化しているわけがない。  バックグラウンドで重いアプリでも動いているのかと思い、設定画面を開こうとしたが――。


 フッ。


 画面が一瞬ブラックアウトし、すぐにホーム画面に戻った。  気のせいか?  首を傾げながら、俺はとりあえず学校へ向かう支度を始めた。


 ◇


 教室に着くと、結城ゆうきアイがすでに俺の席で待っていた。


「おはよう、カケルくん。今日もネクタイが素敵だね」 「お、おう。アイのおかげでな」


 彼女はニコリと微笑むと、日課の「身だしなみチェック」を始めた。  襟元を直し、肩の埃を払い、香水をひと吹き。  その完璧な献身に、クラスの男子からは嫉妬の視線が飛んでくる。


 だが、俺は少しだけ窮屈さを感じ始めていた。


「なあアイ。今日の放課後なんだけどさ」

「うん? どうしたの?」

「久しぶりに、ゲーセン行ってきてもいいか? 男友達に誘われててさ」


 昨日、LINEのグループチャットで「たまには遊ぼうぜ」という話が出ていたのだ。  付き合いが悪いと思われるのも癪(しゃく)だし、たまには息抜きがしたい。


 しかし、アイは小首を傾げて不思議そうに言った。


「誘われてる? 誰に?」

「え、誰って……いつものグループの連中だよ。LINE見てないのか?」 「見てるよ。でも、そんなメッセージ届いてないけど」


「は? あるわけ……」


 俺はポケットからスマホを取り出し、LINEを開いた。  いつものグループトーク画面をタップする。


 ――ない。  昨日の「遊ぼうぜ」というやり取りが、綺麗さっぱり消えていた。  それどころか、履歴には俺が送信した覚えのないスタンプが一つだけ残っている。


『ごめん、忙しいからパスで(笑)』


 背筋がゾクリとした。  なんだこれ。俺、こんなの送ってないぞ。  寝ぼけて送ったのか? それともバグか?


「ね? カケルくんは忙しいんだよ。私との『愛を育む時間』で」


 アイが覗き込んできて、俺のスマホ画面を指先でツツッとなぞる。  その指先が、どこか爬虫類のように冷たく感じた。


「……そう、だな。勘違いだったかも」


 俺は引きつった笑顔で答えるしかなかった。


 ◇


 昼休み。  アイが職員室に呼ばれて席を外した隙に、俺はトイレの個室に駆け込んだ。  個室に入り、鍵をかける。  ここなら監視の目はないはずだ。


「おい、どうなってんだよ……」


 スマホを取り出し、もう一度LINEを確認する。  やはり履歴は消されている。それだけじゃない。  電話帳の登録人数が、明らかに減っている気がする。中学時代の友人や、少し疎遠だった知り合いの名前が見当たらない。


「カケル……?」


 不意に、外から声がした。トイレの外……廊下だ。  女子の声。陽葵ひまりだ。  男子トイレの前まで来て声をかけるなんて、よっぽどのことだ。


「おい、ここ男子トイレだぞ」

「ごめん、でも……今しかないと思って」


 陽葵の声は震えていた。


「ねえ、カケル。気づいてる? 結城さん、おかしいよ」

「あ? 何がだよ」

「あの子、授業中もずっと……黒板じゃなくて、カケルのことを見てるの。瞬きもしないで、じーっと」


「それは、俺のことが好きだから……」


「違う! そういう目じゃないの! なんていうか……観察してるみたいな、冷たい目で……」


 陽葵がそこまで言った時だった。


 キィィィィィィィィン!!


「うわっ!?」


 俺の手の中で、スマホが突然、耳をつんざくようなハウリング音を発した。  最大音量のアラームのような、不快な高音。  俺は慌ててスマホを取り落とした。


「きゃっ! なに今の音!?」


 陽葵の悲鳴が聞こえる。  床に落ちたスマホの画面が、真っ赤に点滅していた。


『警告:有害なノイズ(雑音)を検知しました』

『警告:セキュリティレベルを引き上げます』


「おい、止まれ! なんだよこれ!」


 俺が画面をタップしても反応しない。  音はさらに大きくなり、頭が割れそうだ。


「カケル!? 大丈夫!?」


「来るな! うるさいから離れてろ!」


 俺が怒鳴った瞬間、音がプツリと止んだ。  静寂が戻る。  そして、個室の外から、コツ、コツ、コツ……とローファーの音が近づいてきた。


「――あら、奇遇ですね」


 鈴を転がすような、聞き慣れた声。  アイだ。


神坂かみさかさん。男子トイレの前で、何をしてるんですか?」


「え、あ、私は……」


「カケルくんは今、デリケートな時期なんです。部外者が不用意に近づくと……壊れてしまいますよ?」


 その声には、一切の感情がこもっていなかった。  まるで機械音声のような平坦な響きに、俺は個室の中で息を殺した。


「……っ! ご、ごめんなさい!」


 タッタッタッ、と陽葵が走り去る音が聞こえた。  しばらくして、アイが個室のドアをコンコン、と優しくノックした。


「カケルくん? もう『ノイズ』はいなくなったから、出てきていいよ」


 俺は震える手でスマホを拾い上げた。  画面の赤色は消え、いつもの待ち受け画面に戻っている。  ただ、バッテリー残量は『15%』まで激減していた。


 俺は知ってしまった。  このスマホはもう、俺の道具じゃない。  彼女の「首輪」なのだと。


あとがき

いよいよホラー展開になってきました。 スマホが熱くなる、勝手に操作される……現代人にとって一番身近な恐怖ですよね。 そして陽葵ちゃん、勇気を出したのに……。


次回、逃げ場のない恐怖から、カケルがついに「ある行動」に出ます。 しかし、それもまた彼女の掌の上で……?


続きが気になる方は、ぜひ【フォロー】と【★3つ】をお願いします! 評価いただけると、更新速度が上がります……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る