第2話 転校生の美少女が、僕の彼女だと言い張る件について

翌朝。  目を覚ました俺は、まずスマホを確認した。


 昨夜の「明日行きます」というメッセージ。  あれから特に返信はなく、家の中に美少女がいる気配もない。


「……だよな。やっぱ詐欺か」


 俺は鼻で笑い、制服に着替えた。  冷静に考えれば分かることだ。月額九八〇円で、リアルな彼女が手に入るわけがない。  きっと、ここから高額な壺を売りつけられたり、個人情報を抜かれたりするのだろう。


 アプリを消そうかとも思ったが、アンインストール方法が分からなかったので、とりあえず放置することにした。


 まさか、その「放置」が命取りになるとは知らずに。


 ◇


 学校に着くと、教室が妙にざわついていた。


「おい、聞いたか?」

「ああ、マジらしいぞ」


 男子たちが興奮気味に囁き合っている。  俺が席に着くと、隣の席の陽葵ひまりが話しかけてきた。


「おはよう、カケル。なんか今日、転校生が来るんだって」


「へえ。この時期にかよ」


「うん。しかも、すごい美人らしいよ? 職員室で見た男子が騒いでて……」


 陽葵の話を適当に聞き流しながら、俺はあくびを噛み殺した。  どうせ俺には関係ない話だ。  そう思っていた、その時だった。


 ガララッ――。


 教室のドアが開き、担任の教師が入ってくる。  そして、その後ろから一人の女子生徒が姿を現した瞬間、教室中の空気が凍りついた。


 息を呑むような、圧倒的な美貌。  腰まで届く艶やかな黒髪。雪のように白い肌。  整いすぎた顔立ちは、まるで精巧に作られたフランス人形のようだ。


「……うわ、すげえ」 「アイドルかよ……」


 男子たちの理性が崩壊する音が聞こえる。  俺もまた、口を半開きにして彼女に見惚れていた。


 ――昨日の広告の子だ。  いや、イラストよりも数倍可愛い。


 彼女は黒板の前に立つと、チョークを手に取り、流れるような文字で名前を書いた。


結城ゆうきアイ』


 そして、クラス全体を見渡すように振り返り、鈴を転がすような声で言った。


「はじめまして。結城アイです。父の仕事の都合で転校してきましたが……本当の目的は、別にあります」


 意味深な言葉に、クラス中がどよめく。  結城アイは微笑んだまま、教室の座席をゆっくりと見回した。  まるで、ターゲットを検索する機械のように。


 そして、俺と目が合った。


「――見つけました」


 彼女は迷わず歩き出す。  一直線に。俺の席に向かって。


 カツ、カツ、カツ。


 静まり返った教室に、ローファーの音だけが響く。  心臓が早鐘を打つ。え、俺? なんで?  混乱する俺の目の前で、彼女は足を止めた。


 そして、天使のような笑顔を向けたのだ。


「お迎えに上がりました、カケル様」


「……は?」


「昨日、契約していただきましたよね? 今日から私が、あなたのパートナーです」


 彼女はそう言うと、俺の手を両手で包み込み、頬を染めて上目遣いになった。


「好きです、カケルくん。……ずっと、会いたかった」


 その瞬間。  教室が爆発したかのような騒ぎになった。


「えええええええ!?」

「佐藤!? お前、あの子と知り合いなのか!?」

「嘘だろ!? いつの間に!」


 羨望、嫉妬、驚愕。  あらゆる視線が俺に突き刺さる。  今まで空気同然だった俺が、一瞬にしてクラスの主役(ヒーロー)になったのだ。


「あ、いや、これは……」


 弁解しようとした俺の視界の端で、陽葵が目を見開いて固まっているのが見えた。  その顔は青ざめ、手からシャーペンが滑り落ちている。


「カケル……? どういう、こと?」


 陽葵の震える声は、クラスの喧騒にかき消された。


 俺は――。  正直に言えば、有頂天だった。  あの陽葵が動揺している。クラスの連中が俺を羨ましがっている。  そして何より、目の前には超絶美少女がいる。


「……本当だよ」


 俺は陽葵に見せつけるように、結城アイの手を握り返した。


「こいつ、俺の彼女なんだ」


 結城アイは嬉しそうに目を細め、俺の耳元でそっと囁いた。


「ありがとうございます。――『恋人認証』を確認しました。これより、プラン適用を開始します」


 その言葉が妙に事務的だったことに、舞い上がっていた俺は気づかなかった。


 ポケットの中のスマホが、ブブッ! と震える。  画面には、こんな通知が表示されていたはずだ。


『※周囲へのマウント(優越感の誇示)を確認しました。承認欲求ゲージが上昇。サービスの継続率が向上しました』


あとがき

カケル君、完全に調子に乗っていますね……。 陽葵ちゃんの反応が切ないですが、ここからが本当の地獄の始まりです。


「続きが気になる!」という方は、ぜひ【フォロー】と【★3つ】をお願いします! 次回、あまりにも完璧すぎる「彼女」の献身に、カケルは骨抜きにされていきます。

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