その恋は、自動更新されます

こん

第1話 幼馴染がうざかったので、サブスク彼女を契約した

12月。  教室の空気は、俺にとって毒ガスでしかない。


「ねえねえ、来週のイブどうするー?」


「駅前のイルミネーション見に行こうよ!」


 浮かれたクラスメイトたちの会話が、ノイズキャンセリングイヤホンを突き抜けて鼓膜を揺らす。  俺、佐藤カケルは、スマホの画面を睨みつけながら、机に突っ伏して溜息をついた。


 ……爆発しろ。


 心の中で毒づく。  俺に彼女がいないから僻んでいるわけじゃない。  いや、少しはあるかもしれないが、それ以上にこの「恋愛しなきゃ負け」みたいな空気が肌に合わないのだ。


「あ、カケル。またゲームしてるの?」


 頭上から降ってきた声に、俺は顔をしかめる。  顔を上げると、栗色のショートボブが揺れた。  幼馴染の陽葵ひまりだ。


 クラスではそこそこ可愛い部類に入るらしく、男子からの人気もあるらしいが、俺にとってはオムツ時代からの腐れ縁でしかない。


「悪いかよ」


「悪くはないけどさぁ。……ねえ、来週の進路相談の紙、ちゃんと出した?」


「あー、まだ」


「もう、期限明日だよ? カケルってば昔からそうなんだから。あと、数学の課題も終わってないでしょ。今日、ウチ来てやる?」


 陽葵は俺の机に手をつき、覗き込むようにして言った。  その距離の近さに、周囲の男子がチラチラとこちらを見ているのが分かる。


 なんであんな陰キャが、神坂かみさかさんと仲良いんだよ。


 そんな視線が、うっとうしい。


「いらねえよ。お前、母ちゃんかよ」


「なっ……! 心配して言ってるのに!」


「その心配がうざいっつってんの。俺のことは放っといてくれよ」


 冷たく突き放すと、陽葵は言葉を詰まらせた。  大きな瞳が少し潤んだように見えたが、俺はすぐに視線をスマホに戻した。


「……そっか。ごめんね、お節介で」


 小さな声だけを残して、陽葵は自分の席へと戻っていった。  罪悪感がチクリと胸を刺すが、それ以上に解放感の方が勝った。


 ああいう「等身大の女子」とのやり取りは、今の俺にはカロリーが高すぎるのだ。


 俺が求めているのは、もっとこう……俺の全てを無条件で肯定してくれる、都合の良い存在。  ワガママを言わず、説教もせず、ただ俺を癒やしてくれるだけの「理想のヒロイン」だ。


 そんなものは、二次元の中にしかいないと分かってはいるけれど。


 ◇


 その日の夜。  俺は自宅のベッドに寝転がりながら、虚しくSNSのタイムラインを眺めていた。  流れてくるのは「幸せな恋人たち」の投稿ばかり。


「はぁ……。寂しいな」


 つい、本音が漏れた。  陽葵にあんな態度を取っておきながら、やっぱり一人は寂しい。矛盾しているのは分かっている。  誰かと繋がりたい。でも、面倒な駆け引きや努力はしたくない。


 そんな時だった。  画面の下に、見たことのないバナー広告が表示されたのは。


『寂しいあなたへ。AI×リアルが融合した、次世代のパートナー』

『今なら初月無料! 学割プラン適用で月額980円』


 怪しい。どう見ても怪しい。  普段なら絶対に無視する類いの広告だ。  でも、「月額980円」という安さと、サムネイルに映っていた黒髪の美少女のイラストに、俺の指は止まった。


「サブスク……彼女?」


 タップすると、アプリのダウンロードページに飛んだ。  レビュー評価は星5つ。


「人生が変わりました」 「もう彼女なしでは生きられません」


 そんな絶賛コメントが並んでいる。サクラ臭いが、悪い気はしない。


「980円なら、ガチャ3回分か。……ネタとして試してみるか」


 俺は軽い気持ちで『インストール』ボタンを押した。  すぐに画面が切り替わり、利用規約が表示される。


 細かい文字がびっしりと書かれたスクロールバー。  俺はそれを一秒で最下部までスクロールさせ、『同意する』にチェックを入れた。


 まさかその膨大な規約の中に、


『※解約時は、お客様の社会的な尊厳をすべて没収します』


『※本契約の解除条件は、契約者の心停止のみとします』


 なんていう、とんでもない条項が紛れ込んでいるとも知らずに。


『登録が完了しました』

『マッチングを開始します……』

『マッチング成功。明日、あなたの元へ参ります』


「明日? AIなのに?」


 首を傾げた瞬間、スマホがブブッ! と短く震えた。  通知欄に、知らないアカウントからのメッセージが表示される。


『はじめまして、カケル様。これからは、私があなたの全てを管理あいしますね』


 文面につけられたハートマークを見て、俺はニヤリと笑った。  なんだ、意外と凝ってるじゃん。


 これが、俺の人生を終わらせる「地獄の契約」の始まりだとは、露ほども思っていなかった。






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次回、さっそく「完璧な彼女」が転校してきます。 しかし、どこか様子がおかしくて……?

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