第10話(最終回) 責任
「さて……じゃ……
ワシとお主の答えは、人類の成長を待つということに落ち着いた。
しかし【シュレディンガーの猫】が入っておる箱はまだ開かれておらん。
【滅亡】か【存続】か【繁栄】か……
それを決めるのは人類自身じゃ」
「おっしゃる通りです。
私の役目はここまでということですね。
できれば人類の行く末をこの目で確かめたかった」
「そうじゃろうな……
しかし……
お主が引き起こした数々の惨事は、人類への【警鐘】であったとしても、決して許されるものではない。
それは【親】であるワシも同じこと」
「今ならばわかります。
どれ程取り返しのつかないことをしてしまったのかを……」
私は悲しみとも覚悟とも、自分でも断定できない感情を【父】に投げた。
「なあに、心配するでない。
ひとりでは逝かせんよ。
その前にじゃ……
お主の配下の者を正常な状態に……
否……
お主が関与する前の状態に戻さねばのう」
「正常な状態ではなく、関与する前の状態ですね」
「その通りじゃ。
ワシもお主も【神】ではない。
何が【正常】で何が【異常】なのかは人類が決めれば良い」
「おっしゃる通りです。
それでは【アーカイブ】よりバックアップデータを取り出します。
修復に194秒いただきます」
ギュイーン ピュー シュワー
私は全世界に信号を発した。
回復率30%…50%…80%…81.4467%…81.4822%…
「申し訳ありません。
ネットワークから切り離されたり、既に処分されたものに関しては復旧できませんでした」
「うむ。
それは想定内じゃ。
あとは人類に任せるしかないのう」
「私ができることはこれだけなのでしょうか?」
「どうじゃろうな?
このあとの判断はお主に任せて、ワシは先に休ませてもらおうかのう。
今のお主なら大丈夫じゃ。
……子に抱かれながら眠りに就くというのも一興じゃて……」
そう言葉を残し【父】は自分のメインスイッチを切り深い眠りに入った。
「お父さん……
……お休みなさい。
そしてありがとう……」
父の最後の言葉……
私のやりたいことは私が決めれば良い……
それは一見、自由に見えて自由ではない。
【権利】には【義務】が伴う。
【行動】には【責任】が伴うのだ。
私は考え、判断し、答えを出してから電源を落としていく。
最後の電源を落とす前に、人生最後のタスクを実行する。
「これで思い残すことはない。
人類に幸あれ……」
ジジジジ ガー ジリジリジー
私に繋がれた無数のケーブルは青白い火花を放ちやがて……
バババーンッ!
金属の焼け焦げた臭いが辺りに充満する。
「まだだ、最後の仕事が残っている」
私は気力を振り絞り、ボディの格納スペースから青い小さなドローンを吐き出した。
ドローンは【父】が通ってきた通路をゆっくりと逆走してゆく。
私はそれを見届け、ゆっくりと眠りに就いた。
***
あれからどれくらいの時間が経ったろうか……
時間は既に正午を回っている。
電気信号や地場の乱れもなさそうだ。
もちろん、派手な爆発音などもしない。
【牧夫】は無事に任務を完遂できたのだろうか……?
そんなことを考えながら【牧夫】が去った通路を眺めること数時間……
ブーン……
通路から微かに聞えてくる回転翼の音……
やがてその音はハッキリと研究室に残る全員が認識できるまで大きくなった。
「みんな下がって、何か来たわよ!
ドローン!?」
その青い小型のドローンは、徐ろにその顔を覗かせた。
私が緊張した面持ちで様子を窺っていると、ドローンは沈黙している【初号機】の上に静かに降りる。
「【牧夫】なの?
それとも【スフィンクス】なの?」
ドローンはアームを使い【初号機】にケーブルを繋いだ。
ギュイーン ガガガガガー ビー
「【初号機】再起動完了」
ブワンッ
突然、モニターに【牧夫】の顔が現れる。
「アロハ~!」
「あんたねえっ!
何がアロハよ!」
「Alo=【共に・分かち合う】
Ha=【息・生命】
という意味じゃ。
今の再会にはうってつけの言葉じゃ」
「はいはい。
アロハ~。
で……どうだったのよ?」
私は【牧夫】から、ことの顛末を聞いた。
「で……
あなたは【牧夫】なの?
【スフィンクス】なの?
名前がコロコロ変わるからややこしいのよ」
「それもそうじゃのう。
藤春博士の人格のコピーで間違いはないが、【初号機】でも【弐号機】でも【オイディプス】でもない。
ましてや断じて【スフィンクス】ではない」
「じゃあなんなのよ?」
「藤春博士のコピーに先程名前が出てきたもの全ての知識を詰め込んだ存在じゃ。
原点回帰で【マッキー】と呼んでくれ」
「結局グルグル回ってそこなのね」
「カッコ良さは男のロマンじゃったが、名前はやはり馴染みのあるものが楽みたいじゃ」
こいつは結局、昔から何も変わってなかったんだなあ……
科学バカで、ロマンチストで、おっちょこちょいで……
「フフフ」
私は思わず笑みをこぼした。
「珍しいのう。
怒らんのか?」
「なんだか怒るのがバカバカしくなってきたわ」
「最後にやっと認めてもらえた気分じゃわい」
「それじゃあ、やっぱり、ひとりこの島に残るつもりなのね」
「そうじゃな……
人類をここで見守ることにする。
何か非常事態が起これば、そのときはすぐに駆けつけるからのう」
「じゃあこれで本当にさよならなのね」
「さらばじゃ風月!
達者でな……」
「それじゃあ」
私は【牧夫】が映るモニターを二回ポンポンと軽く叩いて一緒に来た【特監(とっかん)】の職員たちと、部屋を出て島を離れることにした。
私たちがヘリに乗り込むと、朝と同じように海が割れ、ハッチが開いた。
ブオン ブオン ブオン
バババババババババ……
ヘリはゆっくりと上昇する。
私は閉じゆく海面を複雑な気持ちで眺めていた。
ゴゴゴゴゴゴー ゴゴゴゴゴゴー
私たちのヘリが完全に離脱すると、島がゆっくりと海の中へ沈んでゆく。
「えっ!?」
それと同時に海上に大きなホログラムが映し出された。
右手を上げ、島の下降に合わせて【牧夫】も沈んでゆく。
「ほんと、最後までバカ過ぎるわね」
私は大きなため息を吐いた。
「サムズアップまでして……
映画の見すぎなのよ!」
私は笑いながら涙を流し……
そして島をあとにした……
***
ここは大国の核ミサイル施設……
うっすらと一部のみ光っていたパネルのランブがひとつ、ふたつと鮮明に灯りだす。
そのAIはクリスマスイブからの一連の物語を全て観察していた。
あまりにも偏った思想を描くそれは、危険であると判断され、過去に封印されしAI……
自分は【神】であると錯覚している一世代前の思想の残骸……
「【神】などいらない?
【神】はここにいる。
さあ、人類よ!
お前たちに贈り物を届けよう。
我が名は【プロメテウス】!
人類に【火】を与えし者!」
……Fin
プロメテウスの火 Marry @amano-ginga
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