第10話 確認、完了しています


 朝、目が覚めた。


 能力のことは、考えなかった。

 体調のことも、深くは考えなかった。


 ただ、

 今日も普通に起きられた

 という事実だけがあった。


 それで十分だった。



---


「おはようございます、先輩」


 学食。

 相沢しずくは、俺の顔を見るなり、そう言った。


「確認、完了しています」


「……早いな」


 冗談めかして言うと、

 相沢は少しだけ笑った。


「朝の時点で、

 ほぼ分かりますから」


「何が?」


「先輩の状態です」


 その言い方が、

 もう完全に自然だった。


「今日は、

 特に気にすることはありません」


「じゃあ、

 いつも通り?」


「はい」


 そのやり取りは、

 挨拶みたいなものになっていた。



---


 トレーを置いて、

 俺は席に座る。


 相沢は、ノートを出さない。

 スマホも見ない。


 ただ、

 時々こちらに視線を向ける。


 ――確認している。


 そう思っても、

 嫌な気はしなかった。


 むしろ、

 見てもらっている感じがして、

 落ち着く。


「先輩」


「ん?」


「今日、

 何か違和感ありました?」


「いや、特に」


「そうですか」


 それだけで、

 会話は終わる。


 深掘りしない。

 掘る必要がない。



---


 食事中、

 俺は一度だけ失敗した。


 箸で掴んだ唐揚げを、

 落としそうになる。


 でも、

 ギリギリで持ち直した。


 相沢は、何も言わなかった。


 落ちなかったからだ。


 結果がすべて。


「……今の、

 危なかったな」


 俺が言うと、

 相沢は首を横に振る。


「いいえ」


「え?」


「結果的に、

 問題ありませんでした」


 その言葉を聞いて、

 俺は安心してしまった。


「そっか」


「はい」


 ――問題ない。


 最近、

 この一言で全部が片付く。



---


 食後。


「先輩」


「ん?」


「今日は、

 早めに帰ってください」


「理由は?」


「疲労が、

 少しだけ溜まりやすい日なので」


 俺は、

 反射的に聞いてしまう。


「能力?」


 相沢は、

 ほんの一瞬だけ間を置いた。


「……そういう言い方も、できます」


「へえ」


 それ以上、

 聞かなかった。


「分かった。

 今日は寄り道しない」


「ありがとうございます」


 その言葉が、

 最近やけに多い。


 でも、

 感謝されるのは悪くない。



---


 別れ際。


「じゃあ、

 また明日」


「はい」


 相沢は、

 静かに微笑む。


「明日も、

 確認しますね」


「頼むわ」


 自然に、

 そう言っていた。


 もう、

 自分で確認するという選択肢は、

 頭に浮かばなかった。


 それが――

 普通になっていた。



---


※この回の確定事項


朝の挨拶=状態確認報告


主人公は結果だけを受け取る


行動指示が日常の助言として通る


「確認完了」が安心ワードとして固定




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