第2話 昨日と比べると


 朝起きた瞬間に分かった。


「……あ、今日のは頭だな」


 昨日みたいに、触った瞬間に何かが分かる感じじゃない。

 代わりに、思考がやけに滑らかだった。


 単語が浮かぶ。

 計算が早い。

 考えが途中で引っかからない。


「思考速度アップ、って感じか」


 正直、悪くない。

 派手さはないけど、こういうのは当たりだ。



---


「先輩、今日は?」


 昼。

 昨日と同じ学食、同じ席。


 相沢しずくは、もう聞く前提でそこにいた。


「今日はな、

 考えるのが早い」


「早い?」


「処理能力が上がってる感じ。

 説明するより、使った方が分かる」


 俺はスマホを取り出して、適当なニュース記事を開く。


「この記事、要点三つ言うぞ」


「はい」


「一つ目、背景。

 二つ目、問題点。

 三つ目、結論」


 自分で言っておいて、少し驚いた。

 整理が、自然すぎる。


「……すごいですね」


 相沢は、目を丸くした。


「昨日とは、全然違います」


「だろ?」


「昨日は、

 “外から分かる”能力でした」


「外?」


「重さとか、視力とか」


 相沢は、ノートを開く。


「今日は、

 “中で処理する”能力です」


 さらっと言われたその分類が、

 妙にしっくりきた。


「なるほどな」


「昨日と比べると、

 疲れにくくないですか?」


「言われてみれば」


 朝から頭を使ってるのに、

 変な疲労感がない。


「持続時間は?」


「たぶん、一日」


「発動条件は?」


「特に意識してない」


「副作用は?」


「今のところ、なし」


 質問は多い。

 でも、嫌じゃなかった。


 むしろ――

 ちゃんと興味を持ってくれてる感じがして、嬉しい。


「相沢、詳しいな」


「メモしておかないと、

 もったいないので」


「何が?」


「先輩の“日常”です」


 そう言われて、少し照れた。


「大げさだって」


「大げさじゃないですよ」


 相沢は、真面目な顔で言う。


「毎日違う能力を持つ人の生活なんて、

 普通は見られませんから」


「まあ……確かに」


「昨日と今日だけでも、

 方向性が違いすぎます」


 彼女はノートに線を引く。


「でも」


 そこで、一度ペンが止まった。


「共通点もあります」


「共通点?」


「先輩が、

 ちゃんと説明してくれるところです」


「それは……」


「能力が変わっても、

 そこは変わらない」


 その言い方が、

 なぜか少し嬉しかった。


「そりゃあな。

 自慢だし」


「ふふ」


 相沢は、小さく笑った。


「でも、

 昨日より今日の方が――」


 彼女は、言葉を選ぶように間を置く。


「“安定”してます」


「またその言葉か」


「はい。

 昨日は、使う場面を選びました」


「確かに」


「今日は、

 ずっと使えている」


 俺は、言われて初めて気づく。


 能力を“切る”感覚が、ない。


「確かにな……」


「いい傾向だと思います」


「評価、厳しくない?」


「事実ですから」


 相沢はそう言って、

 ノートに小さく丸をつけた。


「今日は、

 “昨日より扱いやすい”」


 それは、ただの感想のはずなのに。


 なぜか、

 少しだけ誇らしかった。


「明日は、どうなるかな」


「楽しみですね」


 相沢は、迷いなくそう言った。


 その言葉が、

 まるで“前提”みたいに聞こえたことに、

 俺はまだ気づいていない。



---


※この回の仕込み


「分類」「評価」という言葉を自然に使用


主人公は“褒められている”としか感じていない


読者は「ちょっと理系っぽい後輩だな」で済ませる




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