第1話 今日の能力、なに?


 正直に言っていいなら――

 俺は、人生がちょっとだけ楽しくなってきていた。


「先輩、今日は何ですか?」


 学食の窓際。

 トレーを置いた瞬間に、相沢しずくはそう聞いてきた。


 この質問、今日で四日連続だ。


「聞く前に言うけどな、今日のは当たりだぞ」


「本当ですか?」


 相沢は、ぱっと表情を明るくする。

 こういうところが、この後輩は素直でいい。


「今日はな……

 触ったものの重さが分かる」


「……地味ですね」


「おい」


 即ツッコミを入れると、相沢はくすっと笑った。


「でも、それって便利じゃないですか。

 中身を見なくても分かるってことですよね」


「そう。

 カバンとか、箱とか」


 俺はそう言って、自分のリュックを軽く持ち上げる。


「今これ、教科書二冊とノート一冊で、

 だいたい三・四キロ」


「へえ……」


 相沢は感心したように、じっとリュックを見る。


「じゃあ、これ」


 彼女は、自分のスマホを差し出してきた。


「持ってみてください」


「いいのか?」


「はい」


 受け取った瞬間、感覚がはっきりした。


「……百八十グラムくらい」


「正解です」


「マジで?」


「ケース込みで百八十三です」


 俺は思わず笑った。


「すげえだろ」


「すごいです」


 相沢は素直に頷いて、ノートを開く。


「昨日は、視力が良くなる能力でしたよね」


「おう。

 視力五・〇までいった」


「一昨日は、集中力が異常に上がる能力」


「そうそう。

 あれはレポート捗った」


 相沢は、ペンを走らせながら言う。


「本当に、毎日違うんですね」


「そうなんだよ。

 しかも、朝起きたら自然に分かる」


 説明するたびに、少しだけ誇らしい。

 だって、これ全部本当だ。


「正直さ……」


 俺は、声を落として続ける。


「誰にも言ってないんだ。

 相沢以外」


「そうなんですか?」


「ああ。

 信じてもらえなさそうだし」


 それに――

 こうしてちゃんと聞いてくれる相手がいると、

 わざわざ他に言う必要もない。


「じゃあ、私は特別ですね」


 相沢は、そう言って微笑んだ。


「毎日、聞かせてください。

 先輩の能力」


「もちろん」


 即答した。


 聞いてもらえるのは、嬉しい。

 理解してもらえるのは、もっと嬉しい。


「明日は何でしょうね」


「さあな。

 飛べるかもしれないし、

 透明になるかもしれない」


「楽しみです」


「だろ?」


 俺は、少し胸を張った。


 こんな毎日が続くなら、

 悪くない。


 いや――

 かなり、いい。


「じゃあ、また明日」


「はい。

 明日も、教えてくださいね」


 相沢はそう言って、ノートを閉じた。


 その表紙には、

 小さく日付が書いてあった。


 気にするほどのことじゃない。

 ただのメモだ。


 俺は、そう思っていた。



---


※作者メモ


完全ラブコメ


不穏ワードなし


「メモ」「日付」をさらっと配置


主人公は幸福感の中にいる




---


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