case1 「デスゲーム運営委員会」③
「最終ゲームは……『黒幕当てゲーム』です!」
ステージ上で覆面男が両手を広げてそう言うと、どこから現れたのか分からない黒服の男たちが、いつの間にかこの大広間の壁に沿って僕らのことを囲んでいた。
だがそんなことよりも、僕は別のことが気になって混乱してしまっている。
(し、知らない……そのゲームは知らない……。さっきまでの二つのゲームは僕の考えたゲームと同じだったのに……。どういう……どういうことだ……?)
「ルールは簡単。今回招待された皆さんの中に……我々デスゲーム運営委員会の、黒幕がいます」
「……ッ!?」
「その黒幕を、誰よりも先に見つけ出してください。ただし間違った解答をした場合は……ゲームオーバー。まあ例の如く解答者には死んでもらいます。ちゃんちゃん」
「何だって……?」
「な、何を……」
マードックさんと佐藤さんは揃って一瞬僕の方に視線を向けてきた。
でも僕ではない。
僕は関係ないはずだ。
むしろそう。
僕の黒歴史ノートを知る誰かが、きっと奴らの黒幕なんだ。
「制限時間は五分! それまでに考えてください! ではスタート!」
「な!? ちょ、ちょっと待て! いきなりそんな急に……」
「えー、三百。二百九十九。二百九十八」
覆面男は腕時計を見ながら、わざわざ秒単位で時間を数え始めた。
もう迷っている暇はない。
今すぐに黒幕を当てなければならない。
しかし、僕はまだ頭が回らない。
「……君なんじゃないか?
「!?」
「ま、待って! でも……」
佐藤さんは庇ってくれるようだが、マードックさんからしたら僕以外の候補がいないようだ。
「さっき、あの寅嶋とかいう男が言っていた。君がこのデスゲームの内容を考えた当事者だったと。そして君は否定しなかった」
「う……で、でも! 違うんです! た、確かに僕が子どもの頃に考えたゲームが使われてるけど……でも! 僕は知らない! 何も知らないんだッ!」
「……しかし、覆面はこの中に黒幕がいると言った。だとしたら君かそちらの彼女のどちらかしか、私は疑うことが出来ない」
「それは……」
「加えて、君は先のゲームが始まる前に、佐藤さんに対して何か話し掛けていたね? 恐らくゲームを突破するために協力を持ち掛けたに違いない。そんなことが出来るのは、君がこのデスゲームとやらの黒幕だからだ」
「な……」
マードックさんの推測は、今ここで出来る最大限の思考の果てに生まれるものだ。
この場で怪しい存在は僕だけ。
だから僕を疑う。
当然の話だ。でも僕じゃない。
本当に、本当に僕は何も知らないんだ。
「ま、待って下さい!」
「? 佐藤さん……君からしても、疑う相手は彼しかいないんじゃないかな?」
「でも……彼は違うと否定しているから……」
「そんなのは根拠にならないだろう。……もう、時間が無い。誰よりも先に解答しなければならない以上、私はもうここで決め打ちさせてもらうよ」
「だ、駄目だ! 待っ……」
「良いかな?」
そしてマードックさんは、ステージ上の覆面男に対して解答権を行使する。
「黒幕は……今この僕の横にいる、田中実だ」
「────……惜しいッ!」
ボンッ
マードックさんの首輪が、覆面男の声に合わせて爆発してしまった。
当然だ。僕は黒幕ではないのだから。
だがしかし、この結果は──
「……え……」
僕が佐藤さんの方を振り向くと、彼女は怯えた目をしていた。
……怯えた目?
どうしてだ?
何故彼女はそんな目をしている?
マードックさんは違ったんだぞ?
ならばもう、候補は貴方しかいないというのに──
「いやあ残念無念! 惜しかったんですが……ふふ。いやあ残念でした! ま、でも取り敢えずこれでゲーム終了です!」
「え!? な、何で……」
「あれ? 私、言いませんでした? 今回のデスゲームは、どのゲームも死者が出た時点でゲーム終了だって」
「!?」
「ゲームオーバーでクリアとはならずでしたが、まあ良い感じに面白い絵が取れましたんで。ショート動画にしてアップしますから、どうぞお楽しみに!」
「何を……ど、動画……? そんなことの為だけに……彼らは……」
「ええ。まあ視聴者の大半はCGだと思っているようですが……ふふ! リアル感を出すためだけにここまでしているんですから、もっと評価してほしいですよね!」
「…………」
「では、どうぞお帰り下さい」
「……帰らせる気は無いんだろ? 周りを黒服で囲んでおいて……!」
「ふふ。さて、どうでしょう──」
その時。僕は、佐藤さんが怯えていた理由を知った。
「──────がッ!?」
刹那。
ステージ上にいた覆面男を、何者かが背中からナイフで刺した。
「な……何故……?」
その言葉を最後に覆面男が倒れると同時に、僕らの周りにいた黒服たちも倒れていく。
僕と佐藤さんはステージ上から視線を逸らさない。
覆面男を刺したのは──
「お前が特別だからだよ。バーカ」
その人物は凡庸な容姿で、単調な声色で、そして何より、全くオーラを感じない平凡な男性だった。
「……く……狂ってる……ッ」
佐藤さんは、僕の正面にあるステージの方に視線を向けていた。
見知らぬこの男がナイフを持ってステージ上の緞帳の裏から現れたのを見て、そのため彼女は怯えていたのだ。
しかし、僕はこの男のことを知っている。
「あ、アンタは……さっき寅嶋に踏みつけられていた……」
僕はこの屋敷に入る前に、この男の姿を見ていた。間違いない。
この男は、屋敷の前で寅嶋にスマホを盗まれて帰ってしまった、あの男だ。
「ああそうだよ。つーか分かんないもんかね? この馬鹿も言ってたろ? 招待された皆さんの中に黒幕はいる……ってよ!」
「……ッ!?」
「それに疑問に思わなかったのか? あの第一ゲーム。俺のスマホを奪って屋敷に入っただけの寅嶋の情報を、運営があらかじめ握っていたことをさ」
「……あ……」
そう。
つまり全ては彼の仕込みだったのだ。
彼はわざと寅嶋にスマホを盗ませて、自身の代わりに屋敷に入るように誘導していたのだ。
「まずは自己紹介しよう。俺の名は…………タナカ・ミノルだ」
彼はステージ上で倒れた覆面男を踏みつけながら、慇懃無礼な態度で一礼した。
「……え? い……いや、実くんはこっちじゃ……」
「馬鹿か? こんな名前、あり触れてるだろ。さっきの糸目も……『今僕の横にいる』なんて文言を入れてなきゃ、俺が正解にしてやれって言ってやれたんだがなぁ」
「狂ってる……。そんなの分かるわけ……」
「この馬鹿は、一応ヒントを出してたみたいだぜ? そら、そこのテーブルの下」
「!?」
佐藤さんが最初にタブレットが置かれていたテーブルの下を見ると、そこにはもう一つのタブレットが置いてあった。
つまり第一ゲームの際、タブレットは六つ用意されていたのだ。
覆面男は『テーブルに用意されたタブレット』としか言わなかったが、テーブルの上か下かは明言していなかった。
寅嶋もこの男も、元々正式なデスゲームの招待客だったのだ。
第二ゲームがあっさり終わったのも、この男の分が加わって、地雷が仕掛けられたマスの選ばれる確率が上がっていたからなのかもしれない。
もちろんこの男が真面目にゲームに参加していたとしたら、の話だが。
「……クク。そのタブレットにはお前の情報が入ってるはずだぜ? 田中実君」
「え……」
「運が良いのか悪いのか、俺の情報を見たのは真っ先にお前らからシカトを食らうことなった寅嶋だった。デスゲーム運営委員会の創設者はタナカ・ミノルだ……って、そう書いてあったはずだぜ?」
「……ッ! な、何なんだ……何なんだお前はッ! 何が目的なんだ! それにどうして……どうして僕の……」
「中学の頃に書いたノートの内容を知っているのか……だって?」
「……ッ」
「ハハ! 内緒だ内緒! 自分の頭で考えろよ! お前は特別なんだから!」
「僕が……特別……?」
「あーそれと、何が目的だっつったな? そんなの決まってんだろ? 助けに来てやったんだ」
「「え……?」」
彼は溜息を吐いて頭を搔く。不気味なほど緊張感が無い。
この男と一緒にいると、まるで教室でクラスメイトと適当な雑談をしているような気分になる。
彼の一挙手一投足、その全てが、どう足掻いてもありきたりだった。
「俺の創設したデスゲーム運営委員会。まあさっきの三人は脛に傷のある元犯罪者たからまだマシだけど、最近は何も悪いことしてない奴の命まで簡単に奪うようになってきてさぁ。迷惑してたんだ。ほら、俺って優しいからさ」
「は……はぁ……?」
「だから今回俺が協力してやるっつって嘘吐いて、そっちの黒服どもには毒盛って、この馬鹿もたった今寝かしてやったんだ。安心しろ、死んじゃいない。クク……アハハハハ! 俺より特別なくせにこんな簡単に不意打ちでやられるなんてなぁ! これだからオンリーワンな奴は駄目なんだ!」
「…………」
僕と佐藤さんは何も言えなくなっていた。
この男がどういう経緯で僕の黒歴史ノートの内容を知ったのかは分からないが、少なくともそれを元にデスゲーム運営委員会などというのを創ったのは彼自身のはずだ。
元凶はこの男なんだ。
なのにどっちつかずなことをして、僕には彼の思考が全く理解できなかった。
「……何の為に……」
「はん?」
「何の為に、お前はコイツらを動かしていたんだ?」
「おいおい。勘違いするなよ? 俺はただ組織を創ってやっただけだ。それ以外に何もしてない」
「じゃあ何の為に創ったんだッ!?」
「? 傍から見る分には、面白いだろ?」
どうやらこの男は、僕の理解の範疇を超えた人種だったらしい。
もう僕は目を細めることしか出来なかった。
そこで彼がパチンと指を鳴らすと、僕と佐藤さんの首輪はあっさりと外れる。
「まあ無事で良かったじゃん。気を付けて帰れよ」
「……」
「ハハハ! 不服そうな顔すんなって! お前は特別だってのにさぁ!」
「……僕は、特別なんかじゃない」
「? じゃあ何だ? 俺と同じ凡人か?」
「お前と一緒にするな。僕はお前とは違う…………凡人だ」
僕がそう言うと、彼は不快そうに眉をひそめて舌打ちをした。
$$$
それから僕と佐藤さんは無事に屋敷を出ることが出来た。
今日の出来事は、残念ながらニュースにすらなっていない。
デスゲーム運営委員会という組織の存在はもとより、タナカ・ミノルという男のことも何も分からないまま、全てが闇の中に消えてしまった。
恐らくあの男が情報を操作しているのだろう。
僕と佐藤さんの話を信じてくれる人は一人もいない。
まるで、まどろみの悪夢のような時間だった。
あの男が僕のことを知っているかのように話していたことも気になるが、もう知る由はない。
──そしてこれから先、僕が彼と再会することは二度となかった──
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創設屋 タナカ・ミノル 田無 竜 @numaou0195
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