case1 「デスゲーム運営委員会」②

「はい! ではこちらのテーブルに用意されたタブレットを一人一つ、お取りください!」


 覆面男に案内されて、僕らは屋敷の中にある大広間にいた。

 そこにはステージがあり、何かを映す予定だと思われるスクリーンも存在している。


 首に爆弾を仕掛けられた僕らは仕方なくこの覆面男に言われるまま、彼の指差すテーブルの上に置いてある五つのタブレットをそれぞれ手に取った。


 これは知っている。

 僕は知っている。

 ここから先の展開は、僕だけが知っていた。


「そちらのタブレットにはそれぞれ、今回招待された皆さんのうち、お一人分の『過去』が記されております。よって皆さんがご覧になることが出来るのは、ランダムでお一人分の『過去』のみ。そして、その『過去』の情報を元にして……この中から、追放する一人を選ぶのです!」

「追放……だと?」

「ええ。まあデスゲームですのでお分かりでしょうが、要するに…………

「……ッ!」

「それでは十分後! 投票で追放する者を決めますので! さあさあゲーム開始です!」


 すると、覆面男は突然クルッと回って線のように細くなり、そのまま姿を消してしまった。

暗転した隙に爆弾付きの首輪を付けられたことといい、明らかに人間業ではない。


「……人外か」

「そこら中にカメラが……」

「クソッ! 出られねぇ!」

「ど、どうすれば……」


 みんなまだ動揺している最中らしい。

 ただ、僕だけはまだ比較的冷静さを保てている。

 何故なら──



(……どういうことなんだ……。何から何まで…………ッ!)



 追放ゲーム。

 その名前も内容も、完全に僕が中学の頃に考えたゲームと一致している。

 何故僕の考案したゲームが使われているのか、いくら考えてもその理由が分からなかった。


 しかしゲームが始まってしまった以上、首輪もあるので従わざるを得ない。

 僕はタブレットの画面に指で触れた。

 すると、ホーム画面などが開くのではなく、いきなり長ったらしい文章が映し出される。


「!? これは……!」


 そこに記されていたのは、この場にいる野蛮な大柄の男──とらじまひとに関する情報だった。

 傷害から傷害致死、窃盗、万引き、強姦未遂に至るまで、とにかく無数の犯罪歴が事細かに説明されている。


 実際、窃盗に関してはつい先ほども行われていたようなので、疑う気にもならない。

 僕はどういうことかと本人に問いただそうとしたが──


「どういうことだてめぇ!」


 僕が向かうよりも先に、寅嶋の方が僕の胸倉を掴んできた。


「な、何が……」

「お前なんだろ!? このデスゲームを考えたのは……ッ!」

「ッ!?」


 もしかすると、寅嶋のタブレットには僕の情報が記されていたのかもしれない。

 この運営は僕の黒歴史ノートに書かれているデスゲームをどうしてか知っている。 

 だからきっと、どこかで僕の中学時代の情報を掴んだに違いない。


「そ、それはそう……かもだけど! 僕は関係無い!」

「あぁ!? お前がデスゲーム運営委員会の創設者なんだろ!?」

「だ、だから、僕にも分からなくて……」


 そこで、とうさんが寅嶋の腕を掴んで制止してきた。


「あぁん?」

「……みのるくんは関係無いって言ってる」

「何だとォ……?」

「み、実くん……?」


 名前呼びは置いといて、彼女は何故か僕のことを庇ってくれた。

 そしてここで目が合うと、彼女は焦って目を逸らす。

 年も近そうだから、贔屓してくれたのかもしれない。

 あるいは寅嶋が気に入らないか。


「佐藤りん。二十一歳」


 突如、糸目の男性──マードックさんが自分のタブレットを見つめながら呟いた。


「!」

「彼女は小学五年生の頃まで……おねしょしていた」

「!??!!? ちょ、ちょちょ、ちょっと! 何でそれを……」


 真っ赤になりながら佐藤さんはマードックさんに突っかかる。事実らしい。


「その反応。本当のようだね」

「いや違……」

「……なら運営が用意したこの情報は、信憑性があると見ていい。そちらの寅嶋君……だったかな? 彼の見た情報も」

「……ッ」

「ちょっとッ!」


 ここで眼鏡の女性──すずかぜさんも、マードックさんに突っかかって来る。


「何か?」

「……貴方、昔人を死なせたことがあるって……」

「! ……ああ。事実だよ。私は情報を動かして人を操り、何人もの人間を不幸にしてきた過去がある。今は……業界からは足を洗ってるけどね」

「……あの、涼風さん」


 そこで、佐藤さんもタブレットの画面を見せながら声を出した。


「な、何よ」

「涼風さんもその……人身売買に……関わっていたって……」

「!? な、何でそれを……。ち、違うのよ! アレは上に命令されたからで……」


 どうやらみんなが見ているのは全て本当の情報らしい。

 だとすれば、僕の得た情報もそうであるはずだ。


「……アンタの情報もあるよ。寅嶋」

「ッ!?」

「暴力事件や恐喝事件、前科だってある。それにさっきだって……人のことを足蹴にしていた」

「あぁ!? だったら何だってんだ!?」


 何だも何もない。この男は気付いていないらしい。

 この『追放ゲーム』というのは、考えた自分で言うのも何だが、れっきとしただ。


 投票で追放する一人を決める。

 それだけだと人狼ゲームのようでもあるが、このゲームには誰を追放するべきか考察する必要が無い。


 死なせることになるとしても、まだマシな相手を消去法で選ぶだけのゲーム。

 それがこのゲームのクソゲーたる所以。


 判断材料になるのはこの『過去』の情報だけ。

 だったらもう、ただの印象で決まってしまうようなものだ。


「な、何だ……? 何でこっちを見やがる……」


 全員が寅嶋の方に視線をぶつけていた。

 当たり前だ。この中で一番悪印象を与えていたのはこの男なのだから。

 だったらもう、結果は明白なんだ。


     $$$


「な、何で俺に投票するんだ!?」


 寅嶋はまるで予想外であるかのような顔をしていた。

 投票は与えられたタブレットで行い、今はスクリーンに結果が表示されている。

 そして、追放者として選ばれたのは寅嶋だったのだ。


「はい! 追放されるのはぁぁ……寅嶋牙人! 寅嶋牙人に決まりました!」

「ふ、ふざけんなッ! やり直し……やり直しだッ!」

「では。さようなら」



 ボンッ



 あっという間だった。

 覆面男がパチンと指を鳴らすと、途端に寅嶋の首輪が爆発した。


 激しい音と眩しい閃光、そして黒い煙幕と共に寅嶋はその場に倒れ込む。

 同時にグシャッという音が聞こえたが、目を背けた僕には何の音だか分からなかった。


 いや、分からなくてもこの鼻を刺すような臭いで分かる。

 とにかくそう。あの男は、


「何で……何でこんなことを……」

「本当に……」

「……」


 僕らは、ここで初めて『死』を実感した。

 首輪の爆弾も、心のどこかで嘘だと思いたかったのかもしれない。

 しかし、嘘ではなかったことが証明されたのだ。


     $$$


「続いてのゲームは、『地雷ゲーム』です!」

「~~ッ!」


 それも知っている。

 間違いなく僕が中学時代に考案したゲームだ。


「こちらのスクリーンをご覧ください。……はい。マス目が二十四個ありますね? まず初めに、皆さんにはこの二十四マスの中にそれぞれ一つずつ、地雷を仕掛ける場所を指定して頂きます。準備はそれだけでオーケー。あとは一ターンごとに、同時に四人で異なるマスを一つ選ぶ行為を続けるだけ。マスを選択後、地雷の仕掛けられたマスが選択されたかどうかを毎回判別します。地雷の仕掛けられたマスを選んだ者は……まあお分かりでしょうが、死んでもらいます」

「な……」

「皆さんの方で相談して、それぞれ選ぶマスが被らないようにしてくださいね?」

「ふむ……」

「フフ……簡単なルールでしょう? お手軽に、絶対誰かが死んでくれますものね!? ああ言い忘れてましたが、今回のデスゲームはどのゲームも死者が出た時点で終了ですので! 第一ゲームと同じで一人しか死なない場合もありますから! 精々生き残れるように頑張ってください!」


 やはり、このゲームのルールも僕が考えたものがそのまま使われている。

 自分で言うのも何だが、ゲームとして面白味も何も無い。

 だって、こんなのはただの運ゲーだ。

 中学時代の僕は、クソゲーしか思い付かなかったんだ。


「……佐藤さん」

「な、何?」


 クソゲー過ぎて、あらかじめ知っている僕にすらイニシアチブが少ない。

 でも誰よりも早く動くことは出来る。

 だから僕は、ほんの少しでも勝率を上げられる手段を取ることにした。


「手を組みたいんだ」

「手を組む……?」

「うん。このゲームは運ゲーだ。二十四マスの中から四つ……いや、自分の物を除いた三つの地雷を避けるだけのゲームだ。でもだからこそ、手を組むことに価値はある」

「あらかじめお互いの地雷の場所を教え合えば、少しだけだけど地雷を引く確率を下げることが出来る……」

「うん」

「……でも実くん。貴方は……信じられるの? 私のことを」

「さっき、君は僕のことを庇ってくれた。どうせ死ぬなら……自分を庇ってくれた子のことを信じて死ぬよ」

「……! 分かった。それなら、私も貴方を信じる。でも……あの二人は……」


 佐藤さんは優しい性格の様だ。

 すずかぜさんとマードックさんのことを心配しているらしい。


 けど、このゲームは四人の中から死者が出るまで続けるゲームだ。

 だから、全員で協力することは出来ない。


「……組めるのは三人まで。でもこの四人しかいない空間で、三人で口裏を合わせるのは無理だよ」

「……そう……だね。……狂ってる……」


 僕と佐藤さんが組んだところで、僕ら二人の生存が確定したわけではない。

 あの二人の死が確定したわけでもない。

 だから佐藤さんが罪悪感を抱く必要は無い。

 抱くべきは……!


「それでは始めましょう! 地雷ゲーム……スタートです!」


     $$$


「な、何で……何で私が……」


 第二ゲームは想定通りのクソゲーだった。

 なんとたったの一ターンで決着がついてしまったのだ。

 ステージの方にあるスクリーンには二十四マスの枠が映し出されていたが、今は僕が地雷を置いたマスを涼風さんが選んでしまったことで画面が点滅し、警報音が鳴っている。


「おお! 早くも地雷を引いたようですね! では……涼風エリナさん」

「! や、やだ! 止めて!」

「さようなら」



 ボンッ



 覆面男が指を鳴らすと、躊躇なく涼風さんの首輪も爆破されてしまった。

 僕らはもう目を背けることしか出来なかった。

 どうして自分たちがこのような目に遭わなければならないのか。

 それすら考える気が起きなくなっていたのだ。


     $$$


「では、最終ゲームに移ります」

「え……!?」


 頭脳戦も心理戦も何も無い。

 ここまで僕らは、ただ狼狽えながら無差別に殺されているだけだ。


 だがもう最終ゲーム? 

 これで終わり? 

 いや……本当にそうなのか?


「最終ゲームは……『黒幕当てゲーム』です!」

「……は!?」

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