創設屋 タナカ・ミノル
田無 竜
case1 「デスゲーム運営委員会」
始まりは、確かに僕の過ちからだったのかもしれない。
しかし違う。僕じゃない。
僕はこんなことを望んでいたわけじゃない。
だってあれはただの僕の妄想で──
「……それではこれよりッ! 皆さんにはデスゲームに参加してもらいますッ!」
だから僕じゃない。
僕は関係ない。
関係ないんだ……ッ!
$$$
時間を三十分ほど遡る。
この日僕は、とある大きな屋敷に訪れていた。
「あれは……」
屋敷の前で、一人の大柄な男が一人の中背の男を踏みつけている。公然とした暴力だ。
僕は関わるのが怖くなってしまい、途端に目を逸らして壁の後ろに隠れてしまった。
「か、返せよぉ……」
「知るかよ馬鹿が! ハハハ! これで美味いもん食わせてもらうぜッ!」
四つん這いになって項垂れる中背の男を置いて、大柄の男は僕の目的地でもある屋敷の中に入っていく。
中背の男の方はすぐに諦めて、項垂れながらこの場から去っていってしまった。
僕は隠れたままそれを見届けて、やがて屋敷に入ることにする。
そうなればあの大柄の男と出会うことになるが、仕方ない。
恐怖で隠れてしまったことに今更罪悪感を抱いてしまっている。
そうだ。だから次にあの大柄の男に会ったら、せめて何をやっていたのか問い詰めることにしよう。
「!」
巨大な扉を開けると、豪華なシャンデリアと両階段が目立つエントランスに足を踏み入れることになる。
そこには僕と先の大柄の男以外に、三人の男女が立っていた。
一人は三十代くらいと思われる眼鏡を掛けた女性。
一人は同じく三十代くらいであろう糸のように細い目の男性。
そしてもう一人は僕と同じくらいの年だと思われるポニーテールの女性だ。
「これで五人?」
「ふむ……」
「……」
「あん!? 何こっち見てんだおぉ!?」
大柄の男に視線を向けているのが気付かれた。
僕は彼に対して先の件に関して尋ねることにする。
「……DMは貰ったんですか?」
「あぁ!?」
「ダイレクトメールですよ。僕以外の皆さんも、この屋敷の主である
「あぁん?」
「見せてくださいよ。DM」
「何で見せる必要があんだよッ!」
「だ、だって……。……さっき、人のスマホを奪い取ってたじゃないですか」
「!?」
確証はない。
ただ、この大柄の男は先ほど中背の男を踏みつけている最中、その手にスマホを握っていた。
僕も屋敷に入る前にDMを見せるのかと思いスマホは手に持っていたので、彼自身のスマホという可能性はある。
しかしここで疑念は確信に変わった。
僕の言葉を聞いて、明らかにこの大柄の男は動揺を見せている。
「……その話、本当?」
ポニーテールの人が話に入ってきた。
鋭い瞳に変わっていて、僕以上に強く大柄の男を睨みつけている。
「見てたんだ。本当だよ」
「な!? み、見てたのか……」
スマホを奪ったところは見ていないが、カマ掛けに引っ掛かってくれたようだ。
ますますポニーテールの彼女の目が尖っていく。
「犯罪よ」
「知るかッ! あとで返せばいいだろッ!?」
「そんなにフルコースが食べたかったのか……」
「狂ってる」
「うるせぇッ! クソがッ!」
大柄の男は僕らに対しては暴力を振るわず、距離を取るだけで済ませた。
流石にこの場では暴れられないのだろう。
まあ支配人である園城寺さんが現れたら、彼にも同じことを伝えることにしよう。
そこで帰るように言われてから暴れ出したら……その時は、警察を呼ぶしかないか。
「んんぅぅよぉうこそッ!」
その時。
謎の覆面を被ったスーツの男が階段の上に現れた。
真っ黒なその覆面には〇と×の印が白文字で描かれている。
園城寺さんではない。
少なくとも、SNS上で見た彼の外見とは明らかに体格が異なっている。
「何だ……?」
「だ、誰……?」
僕らが呆気に取られていると、その覆面の男は出し抜けに腹を抱えて笑い始めた。
「アハハハハハハハハハハハハ! 滑稽ッ! 実に滑稽ッ! いやはやいやはやいやははは!」
「……? な、何を……」
すると覆面男は、突然笑うのを止めた。
更にそのまま姿勢を正し、一気に静まり返る。
「……えー、まず一人目、
「!」
眼鏡の女性が反応した。
恐らく彼女の名前らしい。
「二人目、イアン・マードック」
「……」
糸目の男性が顎に手を当てる。
こちらは彼の名前らしい。
「三人目、
「あぁ!?」
大柄の男の名前のようだ。
そして残るのは、僕とポニーテールの彼女。
「四人目、
自分の名前を呼ばれると、どうしてか舌で全身を舐められるような不快感を抱かされた。
そうだ。
僕の名前は田中実。
適当にタイムラインに流れてきた懸賞に応募しただけの一般人だ。
だから巻き込まれただけ。
僕は、巻き込まれただけなんだ──
「……それではこれよりッ! 皆さんにはデスゲームに参加してもらいますッ!」
一瞬。
覆面男が何を言っているのか分からなかった。
僕だけじゃない。
他の四人も同様だったはずだ。
しかしこの覆面男は、僕らに頭を動かす時間を与えてくれない。
「安心してください。皆さんがここで死亡したとしても、死亡理由は運営によって改竄できますので」
「ふ、ふざけてるの……? 狂ってる……」
「我々デスゲーム運営委員会は、時折このようにして人々にエンターテインメントをお届けしているのです。……そう! 皆さんはいわゆるタレント! タレントなのです! どうですか? 嬉しくないですか?」
「……デスゲーム……運営委員会だって……?」
「楽しんでください。どうせゲームに負けたとしても……死ぬだけですから」
ほぼ全員が動けずにいる中、いの一番に覆面男の方に駆け出したのは大柄の男──寅嶋だった。
「ざっけんなァ! 意味分かんねぇこと言いやがって……ぶっ飛ばしてやるァァ!」
パチン
照明が、消えた。
天井から吊るされたシャンデリアが、ただの豪華な飾り物に成り下がってしまった。
しかし明かりはすぐにまた点灯する。
明るくなると僕はすぐに自分自身の首元に違和感を抱いた。
「これは……!?」
それは首輪だ。
鉄製の首輪。
一瞬の暗転の間に付けたのか?
方法は分からないが、僕らは全員謎の鉄製の首輪を付けられていた。
「あんだこりゃあ!?」
「プレゼントです。いわゆるその……爆弾? みたいな?」
「爆弾ッ!?」
僕は驚いて首輪に触れようとした。
ただ、そこでポニーテールの彼女──佐藤さんに止められる。
「だ、駄目! 不用意に弄るのは……」
「~~ッ!」
「良いご判断です。えー、先程も言いましたが、これから皆さんにはデスゲームをやって頂きます。勝手に帰ったり私に何か危害を加えるようなら、遠隔で運営がそちらの爆弾を起爆させますので。ご注意ください」
「……どうしてこんなことを……?」
糸目の男性──マードックさんが冷や汗をかきながら尋ねた。
「それも言ったじゃないですか。エンタメですよエンタメ。それ以上でも以下でもありません」
「ふざけないでッ! 園城寺……園城寺はどうしたの!?」
「彼は関係ありませんよ。ただの成金のおじさんですからね。我々デスゲーム運営委員会は彼のSNSをハッキングして、手ごろな五名の人物をこちらに来るように誘導しただけなのです」
「そんな……」
眼鏡の女性──涼風さんはその場に膝から崩れ落ちてしまった。
きっと頭が良いのだろう。
僕と違って既にこの状況を理解できているのだ。
僕はと言えばまだまだ頭が真っ白なままだ。
しかし、次の覆面男の言葉で、僕のまっさらな頭の中は疑問符で埋め尽くされることになる。
「……ま! 質問はその辺にして……早速第一ゲームの説明に移りましょう! 最初のゲームは……『追放ゲーム』ッ!」
僕の脳裏に、中学時代のあるノートが思い浮かび出される。
それはほんのお遊びで、ただの妄想を書き並べただけのもので、それだけのものだったはずなのに……。
(……『追放ゲーム』……だって……? ……何だよそれ……。『デスゲーム運営委員会』といい、まるで……まるでこれじゃ……)
ああそうだ。
確かにそうだ。
僕はそのゲーム名を、組織名を、知っている。
(……いや、偶然だ。偶然に決まってる。僕が中学時代に考えたデスゲームと同じ名前だけど……偶然に決まってる! 確かにその『デスゲーム運営委員会』という名前も、黒歴史ノートに書いた組織と同じ名称だけど……偶然だ! でないと……そうでないと……この現状はまるで……)
(僕が創ったみたいじゃないか……ッ!)
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