【15】


 ピンポーン。

 インターホンの音が響いた。ほんの僅かな静寂の後、女性の声が聞こえた。


『はい、どちらさまで……げっ! 薄池高校生じゃんっ!』


 丁寧な挨拶と後半の落差が凄い。

 げっ! って……。相当、薄池高校生のこと嫌悪してるなぁ……。


『学校に行く気はないし! もう私は、あなた達と関わり合いたくありません! 帰って!! ブツッ!』


 インターホンの音声通信が切れた。

 きっと、備え付けのカメラから、オレたちの姿を見て、追い返すことにしたのだろう。

 薄池高校の制服だけじゃなく、この坊主頭にも嫌悪感を抱いていそうだ。


「今、『私』って言ったよな? ということは、声の主が赤神円本人と見て間違いないな」

「う、うん……それにしても、すごい拒否反応でしたね。取り付く島もないというか……どうします?」

「どうもこうもない。オレたちを、あの子の敵じゃないって分かってもらえれば良いのさ」

「敵じゃないと……? でも、どうやって?」

「こうすれば良い」


 オレはカツラを取った。

 地毛である白髪の髪が顕になる。


「えぇええええぇええぇえええーっ!!」と、喜田くんが驚く。「その頭! カツラだったんですか!?」と。


 イエス、オフコース。

 オレはありのままの頭髪を見せびらかすようにしながら、再度、インターホンを押す。

 ピンポーン。

 …………反応がない。もう一度押す。

 ピンポーン。

 …………反応がない。居るのを確認させておいて居留守を決め込むとは、これ如何に。

 もう一度……えい。

 ピンポーン。


『ええいっ! しつこいわね!!』


 やっと出てくれた。

 思いの他元気そうな様子で何より。


『何度誘われても、私は絶対学校へは行か……――――え……?』


 赤神円の言葉が止まった。

 備え付けのカメラで、現在のオレの姿を目の当たりにしたのだろう。

 薄池高校の制服を着ておきながら、白髪の髪を垂らしている、オレの姿を。


「話を聞いてくれる気になったかな? 赤神円さん?」

『……あ、あんた、髪が生えて……一体何者なの?』


 どうやら、話をしてくれる気になったようだ。


「そこのところを、君とじっくり話したい。家の中へ入れてくれないかな? 今のオレの立場上、この格好で頭に髪の毛が伸びてるのを、他の薄池高校生に見られるのはマズイんだよ。中に入れてもらって、落ち着いた状態で話がしたい」

『な、何が……目的なの?』

「決まっているだろう。薄池高校に蔓延る、ふざけた校則について、話をしに来たんだ」

『…………どうぞ、中に入って。ブツッ!』


 音声通信が切れた。

 どうやら承諾してもらえたようだ。


「行くよ、喜田くん」

「う……うん」


 そんな訳で、喜田くんと共に、オレは赤神家の中へとお邪魔する。


「お邪魔しまーす」「お邪魔します……」


「どうぞ」奥の方から声が聞こえてきた。それと同じくして、ガチャッ! と、玄関の扉から音がした。

 どうやら、オートロックなようだ。

 最近の防犯システムは凄いなぁ――――なんて思いつつ。

 靴を脱ぎ、赤神家の家の中を進んでいく。

 声が聞こえたであろう扉を開けると、そこに――――


「はじめまして……で、合っているかしら?」


 赤神円がいた。

 おそらく部屋着であるだろう、ジャージ姿で出迎えてくれた。

 凛子に出して貰った本人写真では、真っ赤な長髪だったはずなのだが……、今は肩ほどまでしかない。

 一度、剃ったのだろうな。

 まだ学校へ行っていた頃……渋々と……周りに合わせるために。


「はじめましてで合ってるよ。オレも彼も、最近薄池高校に転校してきたばかりなんだよ。だから、君と会うのは正真正銘はじめてただ」

「転校生か……どうりでまだ、髪が生えている訳だ」


 そう言って、赤神円は疑うような視線を喜田くんへと向けた。


「そっちの方の人は? 坊主頭にしてるけど、洗脳されている訳ではないのね?」


「うん」喜田くん本人が、その質問に答えた。


「郷に入れば郷に従え……。流石に、あの狂気的な雰囲気の中で、髪を生やすことはできなかった。だから渋々……髪を沿ったよ」

「そ……男の癖に、意志の弱い人ね」


 初対面の人間にめちゃくちゃ酷いことを言っていた。

 まぁ……だからこそ、彼女には才能があるのだろうけれど。

 しかし、喜田くんも男だ、言われっぱなしでは終わらない。


?」


 ドンピシャだったのだろう。

 気まずそうに、フンッと赤神円が顔を逸らした。

 そのまま、つっけんどんに彼女は続けた。


「私……赤神 円」

「へ?」

「自己紹介よ。自己紹介。他人の名を聞く時は、まず自分が名乗る。それが私のポリシーなのよ。さぁ、名乗りなさい。名乗って、あなた達は一体何者なのかを教えなさい」


 如何にも……才能がある奴って感じのポリシーだな……。

 まずは喜田くんから自己紹介してもらうことにした。

 だってオレの自己紹介は、インパクトが強過ぎるだろうし。


「喜田博利。隣の県から、父親の転勤に伴って転校してきた、薄池高校二年生です。よろしくお願いします」


 さて、次はオレか。

 彼女としては、オレの正体を知ることこそが本命だったようだ。

 険しい目を向けてきている。

 良いだろう。こと、君に対してならば、オレは、自分の正体を包み隠さず述べることができる。

 安心して――――述べることができる。


「白宮 龍正。薄池高校二年生……否――――本業は、『幻想現象対策部隊』隊長をしている。よろしく」


「幻想……現象、対策部隊……?」赤神円は、目を大きく見開き、額に汗を滲ませていた。

 まぁ……当然の反応だな。


「ああ――――君には、はっきりと明言しておこう。オレは薄池高校に、あの不思議で、奇々怪々な校則問題を解決するために、潜入してきたんだ」

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