【6】


「オレの正体は――」

「そんなことより、ある程度、この学校のことは把握出来たのかな?」

「へ?」


 オレの正体を語る前に、突然別の話を喜田くんが振ってきた。

 そんなこと、などと吐き捨てられ、少しムッとしたが、何故彼がそんな行動に打って出たのか? それはすぐに判明した。


「あら? 二人とも、こんな所で仲良くお喋りですか?」

「!?」


 背後から聞こえてくる女性の声。

 振り向くとそこに、我がクラスの学級委員長――倉持くらもち 水地すいちの姿があった。


「帰ってくるのが遅いので、迷ったのではないかと心配していたのですよ〜。それがこんな所でお喋りしてただなんて……。うふふ、白宮くんが、この学校で独りぼっちになる心配は、もうなさそうで何よりですわ」

「お、おう……その心配はしなくていい。何せオレは、人懐っこさには定評があるから」

「そうなんですね。良かった良かった」


 綺麗な顔立ちなのに、坊主頭っていうのは、やっぱり違和感が強くなるな……。

 ニコニコとした表情のまま、倉持学級委員長は喜田くんの方へと視線を向けた。


「喜田くんも、仲の良い友達ができたようで何より。やっぱり、転校してきて間もない人同士、何か通じ合うものがあるのかしら?」

「え……あ、まぁ……うん、そ、そうだね」少し歯切れ悪く、彼は答える。目を逸らしながら。


「ふぅーん、そっかそっかぁー。じゃあ、一つ聞いても良いかなぁ?」


 倉持学級委員長の表情は、相変わらずのニコニコ顔で変化はない。

 しかし――――


「一体……何の話を、していたのかなぁ?」


 しかし確実に、彼女の口から放たれた、その問いと共に、場の空気が一変したのを感じた。

 笑顔の奥から、とてつもない威圧感が放たれている。

 口は笑っていても、目が全然笑っていない。

 作り笑いだというのが見え見えだ。

 それが逆に、気味の悪さ、恐ろしさを増幅させている。

 さて……ここで返答を間違えたら、状況悪化は目に見えてるな。


「ん? どうしたの? 倉持学級委員長。何か怒ってる?」

「いいえ? 怒ってなどいませんよ? ただただ私は、あなた達二人が、どんな会話をしていたのか、気になったものでして」

「ああ、それなら大した話はしていないよ。ほら、この学校ってあちらこちらの教室がいわく付きって話じゃん? それらすべての怪談を、どうやったら解決出来るのかなぁ〜? って、バカみたいに話していただけだよ」

「…………ふぅ〜ん……。何やら、『オレの正体は……』とか、言っていたように聞こえましたけど……」


 うわぁ……抜け目ねぇなこの学級委員長。

 そこ聞かれてたかぁ……。


「そそ、何を隠そう、オレの正体は、強烈な『怪談マニア』だからね。この学校の七不思議目当てで転校してきたって言っても、遜色がないんだよ。そんな感じの話を、喜田くんとしてたって訳。そしたら彼、急に話を逸らしてさぁ、きっとビビってるんだぜ? 怪談に。な?」


 話を振ってみた。


「え? あ、うんうん! そうそう! ボク、ホラーが苦手だから……。ほら、倉持さんも知ってるでしょ? 学校案内の時、ボクが震え上がっていたこと」

「…………ああ……確かに、そんな感じではありましたね」


 納得してくれた様子。

 ナイスアシストだ、喜田くん。


「うふふ、ごめんなさいね。少し疑ったような質問を投げ掛けてしまったみたいで。何か良からぬことを企んでるのかなぁって、邪推してしまったみたい。そんな訳がないのにね」


 空気が和らいだ。


「二人共、仲良く怪談話をするのは良いですけど、アレらはとても恐ろしい話なのです。物見遊山で触れたら怪我しますよ? その辺、しっかりと注意しておいてくださいね」

「「はぁーい、肝に銘じまーす」」

「分かればよろしい」


 ここで、助け舟とも言える、予鈴が鳴った。

 キーンコーンカーンコーン……と。


「あら? 昼休みももうそろそろおしまいみたいですよ。さ、二人共、次の授業の準備があるでしょう? 一緒に戻りましょう」

「……ああ」


 オレと喜田くんは、揃って立ち上がる。

 抗うこともなく、先程までとてつもない威圧感を放っていた、坊主頭の女子学級委員長――倉持水地の後を追うように、二人並んで歩く。

 ここでオレは、こんなこともあろうかとポケットに忍ばせておいた紙を、彼女にバレないように取り出した。

 そして、その紙――――自分の携帯電話番号(仕事用の)が書かれた紙を、こっそりと、喜田くんへと手渡す。

 目を合わせて頷き合うオレと喜田くん。

 唯一の仲間が、察しのいい子で良かった。

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