第2話 ギルドの凄腕 ― 2

「お義父さん、ちょっといい?」


 エイブが辞めてから数日後、義娘が部屋に入ってきた。


 彼女、エレノア=ホールは義娘であり、儂の秘書でもある。

 金髪碧眼のギルドの看板娘とはエレノアの事じゃ。

 ギルドが大きくなって、エレノアが受付嬢から儂の秘書になった時、ものすごいブーイングを受けたりした。

 仕方ないじゃろう、本人希望なんじゃから。

 目立つことを嫌う性格をしている子じゃ。

 長い髪で少し尖っている耳を隠しているのも、出かけるときフードを被っているのも、人の視線が気になるからだとか。


「なんじゃい、ノア?」


「エイブくんの元パーティー・『ホットなドッグズ』から伝言」


「ほぅ?」


 エレノアはメモ帳を出して、読み上げた。


「こほん、『マスターお願いAランククエストをくださいお願いお願いお願いお願いお願いお願いいいいいいいいい』、だって」


 棒読みの上、最後の『い』を一つ一つ区切って読み上げたのはエレノアの可愛いところじゃと思う。


「ふむ。『ホットなドッグズ』の残ってるメンバーは誰じゃっけ?」


「魔法使いのエライザちゃんと重騎士のブリックくん」


 なんとなく顔が浮かんだが、一応机の引き出しから二人のプロフィールを探した。

 Cランク以上のメンバーは簡単なプロフィールを作ってもらっておる。

 エレノアはそれを見て追加情報をくれた。


「エライザちゃんはエライザ=フレアワークス。後、『ブリック』はあだ名で,彼の本名は確かベンジャルミン=ドミンゴ=バルファザール=オールドキャッスルとかだったはず」


「おっ、あったあった、ありがとう。こんな長い名前よく覚えられるのぅ」


「受付嬢達がいつもブリックくんの名前を弄っているから、自然と記憶に残ったの」


「酷い話じゃ」


「ちゃんと本人の前で弄ってるから大丈夫じゃない?」



 二人のプロフィールをザックリと読んで見た。

 二人は能力が高い。

 エライザは回復魔法と攻撃魔法を両方使える。

 ブリックは体格が大きい伝統的なタンク役。

 しかし、パーティーのリーダー役はやはりエイブだったようじゃ。

 そもそもAランクパーティーにしては『ホットなドッグズ』は人数が少なかった。基本4人から5人でクエストに挑むのが一般的じゃ。

 それを達成できたのもエイブが優秀だった照明じゃろう。

 エイブ無しの二人にAランククエストを任せられん。


「ちなみにこの二人付き合ってるわ」


 エレノアの言葉を聞いて、もう一度プロフィールを読んだ。

 元々は二人だけのパーティーにエイブが加入して、そこからパーティーとしての成績が伸びた。


 ……エイブは気まずくなかったのかのぅ?……


「カップルがパーティーメンバー募集出して人が集まると思うかい?」


「最近はそう気にしない人もいるけど、今までソロだった人が加入するにはやっぱりハードル高いと思う」


「じゃあこの二人が別のパーティーに入る事になるのかのぅ?」


「タンクとヒーラーを欲しがるパーティーは少なくはないけど、両方欲しいパーティーは今いないわ。二人セットで同じパーティーに入れる可能性は低いんじゃないかしら」


「なら当分、二人をAランククエストに送り出す事はないじゃろう」


「でもどうしてもAランククエストに行きたいって、もっっっっっっのすごく騒いでいるの」


「なんでそうAランクにこだわるんじゃ?」


「お金が無いんだって」


 クエストはランクが高い分、報酬が多かったりする。

 その分難易度も高いからこそ、誰を送り出すかは儂が決めている。


「先日クエストを完了したばっかりじゃないか。エイブが腕を失くしてでもやり遂げたクエストじゃぞ? かなりの金額だったはずじゃが?」


「バクチで全部溶かしたんだって」


「バカめ」


 三人で分けても半年は贅沢に過ごせる金額じゃったぞ。それを一週間経つ前に使い切るなんとそうとう酷い話じゃ。

 儂は二人のプロフィールに《ギャンブル癖あり》と書き足した。


「クエストはやらん。二人に『舐めるな』と伝えておいてくれ」


 プロフィールを引き出しのファイルに仕舞った。

 まったく、時間を無駄にされた気分じゃ。

 エレノアは何かを言いたそうに儂を見つめた。


「他に何かあるのかい?」

「あの子たち、エイブくんのためにクエストを受けたいんだって」

「どういう事じゃ?」

「王都の大聖堂で頼める儀式の話をしていたわ」


 大金と交換に、どんな傷も治せると言われている儀式。

 Aランクのクエストが半年遊んで暮らせる金額じゃったら、大聖堂の儀式は確か必要な材料とか等々でその10倍かかる。

 失った腕も完璧に再生できる儀式じゃ。


「報酬を賭け事で数倍にして、その額を払おうと思ったわけじゃな」


「お義父さんなら何かしてあげられないかな……?」


「二人を今Aランククエストに送り出すと怪我人が増えるだけじゃからのぅ。成功したとて、クエスト一件の報酬じゃ儀式は頼めん。またバクチで泣くのがオチじゃ」


 サイコロを振って、棒に振る。

 フッと笑いが出てしもうた。


「腕一本なら、大聖堂の儀式なんかよりも安い方法があるはずじゃ」


「あっ、そっか。エリクサーだよね」


 万能薬・エリクサー。

 これも、どんな傷も病気も飲めば治るとされているポーション。

 大聖堂の儀式より安い。

 そもそもあの儀式は元は強い呪いのお祓いのための儀式じゃ。後はポーションを飲めない状態の人が受ける事もあるが、失くした腕をまた生やすならエリクサーもできる。


「エリクサー合成用の素材集め、ちょうどAランクのクエストだね」

 定期的に依頼が頼まれるため、エレノアも内容に想像がついた。


「エイブのためなら、二人は報酬無しでもやるじゃろ」


 この場合、ギルドが依頼者になる。

 ギルドも大きくなったが、Aランククエストの報酬を自腹から出すのは厳しい。

 無理ではない、でも避けたいのぅ。


「二人に依頼の詳細を伝えるね」


「いや待つんじゃ。結局二人だけは不安じゃ」


 結論は前と同じじゃ:エイブ無しの『ホットなドッグズ』にAランクは任せられん。

 流石にパーティーメンバーが増えると、そいつらの分の報酬は出さないと理不尽じゃな。

 ギルドの予算的になるべく人数を抑えたい。


 腕の立つ、ただで働いてくれる人はおらんかのぅ……


「……サーシャを呼んでくれ」

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