第10話 不穏な影《櫂理side》

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「薬が出回ってる?」


圭から呼び出しをくらい、いつもの部屋に行くと、何やら神妙な面持ちで持ちかけられた話に俺は首を傾げた。


「どうやら売人が潜んでるみたいで、学校側は密かに警察と動いてるらしいよ」 


「……ふーん。なるほどな」


確かに荒れに荒れた学校だから、薬物使用者が一人二人いても可笑しくない気はするが。


「ここで出回ってるっていうのは厄介だな……」


つまり、万が一にでも莉子が薬物を使用している現場に遭遇してしまったら、いくら背後に俺がいたとしても危険な目に遭う可能性は大いにある。


それだけは何としてでも避けたい。


「それで、出所の情報は掴めてるのか?莉子との時間を邪魔した対価は払ってもらうぞ」


俺は未だ鎮まらない怒りを露わにしながら、所定のソファーに腰を下ろした。


「案外簡単に見つかったよ。この前催眠術師のおっさん奪いに暴力団の奴ら殴りに行っただろ?どうやら、あいつらが所属する事務所でバラまいているらしい。それで、色々なところから情報を集めてみたらすぐ分かったよ」


そこまで話すと、圭はポケットからある一枚の写真を取り出し、俺の前に差し出す。


毎度思うけど、こいつの情報網は相変わらず警察以上だなと。

感心しながら、出された写真に目を向けると、そこには同じ制服を来た至って平凡な男が写っていた。


強いて特徴を挙げるとしたら、キツネみたいに目が細いくらい。


「三年五組の坂上亮太。そいつがここの売人だよ。だから、これをどう扱うかはお前に任せる」


すると、まるで試すような圭の言い方がバカらしく思え、俺は鼻で笑った。


「任せるも何も徹底に潰す。それだけだ」


莉子を危険な目に晒す奴らに対する制裁は、それしかない。


「まあ、そう言うと思ったよ」


そんな俺の返答に圭は小さく笑うと、向かいの一人掛けソファーに腰を下ろし、こいつをどうするか作戦を立てようとした時だった。



「櫂理君いる!?」


突然部屋の扉が勢いよく開き、振り返るとそこには息を切らした莉子の友人と、そいつに腕を引っ張られている優星がいた。


「なんだよ。今大事な話してんだけど?」


これが莉子だったら、全てを投げ捨てて全力で迎え入れたのに。

期待外れな結果に、俺はあからさまに嫌な顔を向ける。


「莉子が行方不明なの!授業始まっても全然戻ってこないし、携帯鳴らしても全然出ないし、櫂理君知らない!?」


すると、取り乱した様子で駆け寄ってきた女の話に嫌な予感がして、ソファーから立ち上がった。


「莉子の姿が見えなくなったのはいつからだ?」


「前の授業が終わってから。落とし物を先生に届けるって言ったきり帰ってこないの」


そして、女が言ったあるフレーズが引っ掛かり、眉を顰める。


「落とし物って?」


それは圭も同じだったようで、俺よりも先にそこを追求してきた。


「なんか折り畳まれた封筒。中身は分からないけど、変な膨らみがあったから手紙とかではなさそう」


どうやら、嫌な予感は的中したかもしれない。


そう確信した俺は圭に目配せすると、こちらの意図を汲んだようで、圭は無言で頷く。


「とりあえず、まずは職員室から莉子の軌跡を辿るぞ」


すると、これまで無言で突っ立っていた優星の一言により方針が決まり、早速莉子の捜索活動を開始をするため、俺達は部屋を出た。




◇◇◇




「言っとくけど、莉子と二人っきりになってたの、まだ許してねーからな」


「そもそも、シスコン男に許して欲しいなんて微塵も思ってないから安心しろ」


「ねえ、あんた達もう少し緊張感持てないの?」



職員室までの道中。

優星の顔を見ると再び忌々しい記憶が蘇ってきて、俺は堪らず食ってかかったら、隣を歩く女にすかさずツッコまれた。



「それで、先生達も動いてはくれているけど、あまり期待しない方がいいかも」


「はなから期待なんかしてねーよ」


そして、莉子がいなくなってからの経緯を教えてくれたけど、俺は話半分で聞き流す。


そもそも、授業中に生徒が居なくなるなんて日常茶飯事なので、奴らはそこまで重要視しない。


これが長引けば本格的な捜索に入るのだろうけど、それでは遅過ぎる。


だから、一刻でも早く莉子を見つけ出すためには、自分達で動くしかない。




それから、職員室の前に辿り着き、莉子の担任を呼びつけて落とし物について確認をしたら、既に受領済みだと言う。


ただ、中身に関してはやはり頑なに教えてくれなかった。


けど、それが俺達の憶測を確たるものに変えてくれたので、それ以上は追及せず、俺達は大人しく職員室を後にする。



「莉子さんがここまで来たということは、おそらく教室に戻るまでの間に拐われた可能性が高いね」


「でも、教室に続く通路は人気が多いから、何かあったら直ぐに櫂理君の耳に入るんじゃない?」


「……となると、考えられるのはこっちか」


検討した結果、俺は教室とは反対側の通路を指差す。


この先は空き教室が多いから、不良達の溜まり場となっていて、普段はあまり人気がない。


故に狙うならその辺が濃厚な気がして、確認のためにポケットからスマホを取り出すと、莉子に電話を掛けながら薄暗い通路を歩き出す。



「……やっぱり出ないよね?」


「まあ、そうだろうな」



暫く電話を鳴らしてみるも一向に反応はなく、既に数分が経とうとしているけど、目的は莉子の安否確認ではない。


もし、突発的に襲われたとしたなら、連絡手段を途絶える為、その辺にスマホが転がっている可能性も考えられるので、念の為にと耳をそばだてる。


大体は暫く鳴らすと留守番電話サービスに繋がることが多いけど、莉子のスマホには設定されておらず、いつも文句を言っていた。


でも、まさかここでそれが役に立つとは思いもよらず。

俺は物音一つ聞き逃さないよう慎重に歩を進めていくと、僅かながらにスマホの着信音が聞こえてきた。




「あった!」


音源を辿り、とある物置部屋となっている扉を開いた途端、床に転がっていた莉子のスマホを見つけ、俺は即座にそれを拾い上げる。


当然ながら中はもぬけの殻で、争ったような形跡は特になかった。


「スマホを見つけたのはいいけど、その後の手掛かりは特にないだろ。それとも、ここからしらみ潰しに聞いて回るのか?」


喜ぶ俺とは裏腹に、全く手応えを感じていない優星は怪訝な表情でそう尋ねてくると、俺は投げられた質問に対して鼻で笑う。


「誰がそんなことするかよ。襲われた大体の時間と場所が分かれば、それで十分だ」


そして、小さく微笑むと、スマホをポケットに仕舞い、ある場所へと向かうことにした。




◇◇◇




「おい、じじい!今すぐ防犯カメラ見せろ!」


校舎の一階まで降り、昇降口とは反対方向にある奥まった部屋の前で立ち止まると、勢いよく扉を開き、部屋の主を呼ぶ。


「あ、櫂理君いらっしゃい。なんか今日は大所帯だね。みかん食べるかい?」


すると、突然入ってきたにも関わらず、腰が九十度に曲がった今にも倒れそうな白髪爺さんは俺の姿を見るや否や、笑顔で机に並べられているみかんを差し出してきた。


「今はそれどころじゃねーよ!いいから、そこどけ」


けど、俺は見向きもせず爺さんを無理矢理どかすと、パソコンの前に座り操作を始める。


「え?ここって生徒が立ち入っていいの?てか、随分お爺さんと親しいんだね?」


「まあ常連だし」


「あー……どうりで莉子の告白現場によく現れるわけだわー」


何やら遠い目でこちらを眺めている女には構わず、俺は拐われた場所付近のカメラをいくつか指定し、検索画面を開いて大体の時刻を入力する。


そして、早送りをしながら画面を睨んでいると、スマホが落ちていた部屋近くのカメラに、気絶している莉子を運んでいる三人の男達の姿が映っていた。


その先頭に立って男達を誘導しているのは、バイヤーである坂上という男だ。


俺は沸き立つ怒りをなんとか堪えながら、暫く男達の動向を追っていると、校舎前の路上を映しているカメラに黒色のSUVが現れ、そこから二十半ばぐらいの男二人が降りてきた。


それから、運ばれた莉子は車に乗せられ、坂上も同乗すると、そのまま何処かへと走り去っていった。



これで一連の流れは把握出来たけど、莉子を連れ去った奴等が誰なのか分からない。

おそらく、圭が言っていた暴力団の連中である可能性がかなり高いけど、確証がない。


そうなると、あと残る方法はただ一つ。



「まずは莉子を襲った男二人を炙り出すぞ」


そう断言すると、俺はモニターに映る男二人の顔を写真に撮った後、メッセージアプリを開き、とあるグループトークに送信した。

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