第7話 弟の苦悩《櫂理side》

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ついにこの時がきた。


どれ程この日を待っていたことか。


あまりにも待ち遠し過ぎて、昨日は一睡も出来なかったくらい。




「あら、櫂理。目の下にクマが出来てるじゃない。莉子ちゃんとのデートそんなに楽しみにしてたの?」


「愚問だ」


とりあえず、頭をすっきりさせるため洗面台に向かう途中、廊下で出会した母親に顔のことをいじられたので、俺は不機嫌に即答した。



まったく。

今日の莉子の服装を想像していたら眠れるわけないだろ。


普段休みの日はシャツにパンツスタイルか、モコモコの可愛い部屋着だったりするけど、出掛ける日は特別だから、どんな格好でくるか楽しみで仕方がない。


いつものパンツスタイルでもいいけど、やっぱり莉子はスカートが一番似合う気がする。


綿菓子みたいな、ふわふわでいかにも女子って感じの……



「あ、櫂理君おはよう。今起きたの?」



ありとあらゆる服装を想像していたところ、階段の方から莉子の声が聞こえ、即座に振り向いた直後。

目の前に飛び込んできた、真っ白な天使に俺は言葉を失った。



可愛い。

この単語一つじゃ収まりきらないくらいに。

 


色々想像した結果、今日の莉子のスタイルは白色ニットワンピース。


そして、緩めの三つ編みツインテールがあまりにも似合い過ぎて、思わず手が出そうになるのを必死で堪える。


普段はつけないアクセサリーも良いアクセントになっていて、もはや外に連れ出すより、このまま部屋に引き連れて閉じ込めてしまいたい。



「莉子、めちゃくちゃ可愛い。やっぱり出掛けるのやめるか」


すると、気付けば欲望がだだ漏れしていて、俺は本能のまま包み込むように莉子の体を抱き締めると、無意識に心の声を口にしていた。


「何言ってるの?映画楽しみにしてたんでしょ?早く支度して行こう」


そんな俺を宥めるように、莉子は背中を優しくさすってくる。



正直、映画はどうでもいい。

あんなのただの口実でしかないし。


確かに出掛けられることは嬉しいけど、それよりも、こんな可愛い莉子を外に出してしまったら、より一層虫が湧いてきそうで段々不安になってくる。



とにかく、今日は誰一人莉子に近付かせないよう対策を講じなければ。




◇◇◇

 



「……櫂理君。なんか今日の格好いつもと全然違うね」


それから部屋に戻り、着替えてリビングに戻ると、俺の姿を見るやいなや莉子は暫くその場で動かなくなった。


「ああ。莉子とのデートだから気合いを入れてきた」


胸を張ってそう断言すると、俺は黒いジャケットの襟をびしっと正す。



対策を練って辿り着いた結論。

それは、見た目ヤクザ風にして虫共を近付かせないこと。


前髪はアップにして、黒のジャケットとパンツに、黒色シャツのボタンを第二まで開けて金色のネックレスをちらつかせる。


右耳にはシルバーのカフスと、仕上げにサングラスも掛けたかったけど、それは流石に浮きそうなのでここで留めておいた。


これがどれくらいの効果を発揮するのか分からないけど、少なくとも男が気軽に近寄ってくることは……



「凄く格好いいよ!なんか一段と大人っぽくなった感じがする!」


すると、全く予想だにしていなかった莉子の反応に、俺は一瞬目が点になる。


「……え?いや、これはただ……」


誤解だと訂正したかったけど、莉子がめちゃくちゃ褒めてくるのでどうでもよくなった。


ひとまず、目的は違うけど結果オーライということで。



こうして全ての支度を完了させた俺達は靴を履き、玄関の扉を開ける。


そして、扉を閉めてから直ぐに俺は莉子の手を握った。


これはいつものことなので、莉子は抵抗することなく俺の手を握り返してくれる。



とにかく、今日は間違っても姉弟には見られないよう、最大限恋人風を装わなければ。


そう固く決意すると、俺は密かに拳を強く握りしめた。







「ねえ、あの人めっちゃ格好良くない?」


「なんか、怖そうだけど危険な感じが更にヤバい。てか、色気エグいんだけど」


「でも彼女いるよ」


「多分数あるうちの一人じゃない?なんか遊んでそうだし、もしかしたらワンチャンあるかも」





…………おかしい。



人目を逸らす作戦なのに、なぜかいつも以上に視線を感じる気がする。



映画館がある大型ショッピングモールに到着し、入り口を通過した途端、何やら通行人とすれ違う度に振り向かれたり囁かれたりと。

しかも、見てくるやつはみんな女ばかりで、莉子に注目がいかないのはいいことだけど、これはこれでウザ過ぎる。



「櫂理君、やっぱりいつも以上にすごいね……」


すると、莉子のか細い呟き声が聞こえ視線を向けると、何やら怯えた表情で下を向いていた。


「どうした?具合でも悪いのか?」


家を出た時は楽しそうだったのに、いつの間にか青ざめた顔をしていて、俺は心配になりその場で立ち止まる。


「ううん。そうじゃなくて、周りの視線が怖過ぎて前が向けないの」


けど、返ってきた答えは思っていたのと全然違くて。

何のことかと周囲を見渡してみたけど、特に変わった様子はなかった。


「よく分かんないけど、それなら腕に掴まれよ。下ばっかり見てたら危ないぞ」


「え?」


我ながら妙案だと思い、俺は期待を込めた目を莉子に向ける。


「えと…………うん。じゃあ、そうしようかな」


それから暫しの沈黙後、恥じらいながらも素直に頷いてくれて、嬉しさのあまりつい顔の筋肉が緩んでしまった。


思いつきで言ってみたけど、まさか本当に受け入れてくれるとは。


つまり、謀らずとも恋人らしい雰囲気をつくるというわけで。

幸先のいいスタートにテンションが益々上がってくる。

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