第5話 謎の転校生
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「へえー。いいじゃん、弟君とのデート。楽しんできなよ」
「違う。デートじゃなくて、ただのお出掛けだから。そこ、間違えないで」
「別にどっちでもよくない?」
早速この前のことを美南に話したら、なにやら物言いたげな目でこちらを見てくるので、私はわざとらしく咳払いを一つする。
「ていうか、莉子って何でそんなに姉弟関係にこだわるの?義理なんだからそこまで頑なにしなくてもいいじゃん」
すると、今度は的を射た鋭い質問が私の胸をぐさりと突き刺してきて、言葉に詰まってしまう。
「わ、分かんない。前も言ったけど、今までずっと本当の弟として見ていたから変化に追い付いていけないというか……」
「それじゃあ、変化に追い付いたら弟君のこと男としてみれるってこと?それか、そもそもとしてタイプじゃないとか?」
そして、更に触れて欲しくない部分を容赦なく突き刺してきて、私は窮地に追い込まれた。
「そんなことないよ。櫂理君は格好良いし、優しくて可愛いところあるし。……まあ、少し愛が重いところとか、やんちゃなところとか、人を催眠術で操ろうとする悪戯っ子なところとかあるけど」
「いや、待って。催眠術ってなに?」
けど、ここで意地を張っても仕方ないので、正直な気持ちを打ち明けようとしたら、何やら美南に思いっきり突っ込まれた。
その時、丁度朝のHRが始まるチャイムが鳴り出し、私達は慌てて席に着く。
しかし、そんな真面目な生徒は教室の半分にも満たなくて。
殆どの生徒は未だ好き勝手な場所に居座り、気にせずお喋りを続けているか、そもそも登校すらしていない。
うん。
今日も安定して、治安悪いなあ。
そう思いながら先生の到着を待っていると、教室の扉が開いた途端まず入ってきたのは、まったく見覚えのない学ラン姿の男子生徒だった。
……え?
この人誰?
教室間違えたのかな?
襟足が肩まで伸びた艶めく長い金髪と、薄いブルーの瞳。
睫毛は遠目で見ても長いことが分かり、切れ長な目は格好良いというよりも綺麗な印象。
堀が深くて肌も色白で、おそらくハーフなんだと思うけど、こんな目立つような人は今まで見たことがない。
櫂理君も圭君もかなりのイケメンだけど、この人も二人に匹敵するくらい相当なイケメン具合。
私はともかくとして、美南がそんな人を見逃すわけはないと思うけど……この人は一体誰?
「転校してきた
そう思った直後、まさかの先生不在で転校生自ら自己紹介を始め、周囲にどよめきが起こる。
「だ、ダメだよ雨宮君!勝手に行っちゃ!……あ、そういうことだから皆仲良くしてねー」
それから、数秒遅れてようやく頭皮が薄い小柄な担任の先生が登場し、開始たったの十秒で彼の自己紹介は呆気なく終わった。
「それじゃあ、君の席はー……。空いているところ適当に座って」
そして、これまた雑な席決めに、果たしてこの先生は本当に転校生を歓迎する気があるのか疑問に感じた。
それにしても、この人も櫂理君みたいになかなかの個性派だなあ。
中性的な顔をしているからあまり怖いイメージはないけど、極力関わるのはやめた方がいいような……。
…………そう思っていたのに。
「……あ、あの……なんでしょうか?」
何故か雨宮君は私の席の前で立ち止まり、しかもガン見してくる。
え?なんで?
この人と何の面識もないけど??
私、この人に何かした??
「なあ。あんた宇佐美櫂理の姉か?」
「は、はい!」
短時間で頭を超フル回転させながら過去の記憶を掘り起こしていると、突然櫂理君の名前が飛び出してきて、思わず首を縦に振る。
すると、ただでさえ悪い目付きが更に悪くなり、雨宮君から鋭い殺気を感じた。
その時、不意に雨宮君の手が伸びてきて二の腕を掴まれると、そのまま強く引っ張られ、私は軽い悲鳴をあげる。
「い、いきなりなんですか!?わ、私何かしました?」
まるで今にも殴りかかりそうな彼の表情に、恐怖で声が震えてしまう。
「ちょ、ちょっと雨宮君!?何してるの!?女の子に乱暴はよくな…………ぐはっ!」
その様子を一部終始見ていた先生は慌てて私達の元へ駆け寄ってくれたのは良かったけど、瞬時に雨宮君の蹴りが先生の脇腹に入り、呆気なく転がっていった。
「あんたじゃなくて、弟に用があるんだよ。いいから、今すぐ宇佐美櫂理の所に連れてけ」
教室が騒然とする中、雨宮君は冷静な様子でそう命令すると、私の返事を待たずして、無理矢理教室を出ようとする。
「こら、待ちなさい!さっきから見てればあんた一体何なの!?イケメンは何でも許されると思ったら大間違いよ!」
その直後、今度は美南が勇みよく私達の間に割って入ってくれて、相変わらず頼もしい親友に一瞬心を奪われた。
「思ってんのあんただけだろ。付いて来たければ勝手に来ればいい」
けど、美南の威勢をものともしない雨宮君は、彼女の横を素通りすると、私を引き連れたまま教室を後にした。
「あの、櫂理君が何かしちゃいましたか?それなら、私が謝ります。ていうか、もうすぐ授業始まりますけど?」
先程から一言も喋らない雨宮君に痺れを切らした私は、ダメ元で話しかけてみたけど、一向に反応がなく、やっぱり空振りに終わってしまった。
「てかさー、雨宮君ってもしかして弟君追いかけてこの学校に転校してきたの?だとしたら、相当ラブじゃん」
「お前、これ以上ふざけた事言ったら殺すぞ」
すると、隣で茶化してきた美南に対しては即座に反応を示し、雨宮君は射抜くような目で睨んできた。
こんな凶器みたいな転校生を弄れる美南の度胸には、相変わらず恐れ入る。
「ここに来たのは単なる親の都合だ。…………けど、そのお陰でようやくあいつを見つけた」
最後にポツリと呟いた雨宮君の目は怒りに満ち溢れていて。ここまで恨みを買う程とは、一体二人の間に何が起きたのか気になって仕方がない。
果たして、このまま櫂理君のところに案内していいのか不安でしかないけど、案内してもしなくてもあまり状況は変わらない気がする。
だとしたら、ここは姉としてその場に居合わせた方がいいのではと。
変な使命感に燃えている最中、いつの間にやら一年生の教室がある三階へと到着していた。
あと数分で授業が始まるので、手短に済ませようと私は急いで櫂理君の教室へと案内する。
そして、閉まっていた扉をおそるおそる開いた直後。
「あ、雨宮君!?」
あろうことか、突然雨宮君が勢い良く教室の扉を開き、その大きな音に全生徒の視線がこちらに集中する。
「宇佐美櫂理はどこだ!?」
それから、割れんばかりの大きな声で櫂理君の名前を叫んだ途端、教室内でどよめきが起きた。
「ちょ、ちょっと雨宮君。流石に他クラスで暴れるのは……」
このままだと殴り込む勢いなので、私は慌てて彼を止めようと腕を掴んだ矢先。
「てめえ、莉子の何なんだよ?」
雨宮君が叫んだ時は何も反応がなかったのに、いつの間にやら目の前には怒りを露わにした櫂理君が立っていた。
その瞬間、雨宮君は私の手を払い、櫂理君の胸ぐらを掴み上げ、顔面目掛けて拳を振り下ろす。
しかし、すんでのところで櫂理君はそれを掌で受け止め、雨宮君を睨み付けた。
「あんた誰?俺に何の用?」
それから、静かな口調で尋ねると、雨宮君は不敵な笑みを浮かべる。
「それは後で話す。とりあえず今は殴らせろ」
「あっそ。分かった」
………え?
いいの??
普通順序が逆では?と突っ込みたくなったけど、二人の間では平常運転らしいく、ヤンキーの世界はよく分からない。
それに、櫂理君の反応を見た限りだと面識がなさそうだし、一体どういうことなんだろう。
「こらあ!お前ら喧嘩なら外でやれ!これ以上物壊したら弁償してもらうからなぁ!!」
その時、物音を聞き付けて勢い良く飛び込んできた先生は、二人の喧嘩を止めてくれるのかと思いきや。
怒りの矛先が全くの見当違いで、私は拍子抜けしてしまう。
「はいはい。じゃあ中庭行くかー」
「ああ。そうだな」
そして、今さっきまで一触即発状態だったのに、瞬時に大人しくなり、まるでこれから遊びに行くようなノリで会話をする二人。
「というか、櫂理君、雨宮君待って!もそもそも喧嘩は……」
「莉子さん」
展開についていけず暫く呆気にとられていたところ、はたと我に返った私は慌てて二人を止めようと駆け出した直後。
突然圭君に腕を掴まれ、体が後ろへと傾いた。
「タイマンは正攻法だから邪魔しちゃダメだよ」
そして、やんわりと微笑みながら圭君は私を制してきた。
そう言われても、大切な家族が殴られるところを黙って見ているのはいかがなものか。
けど、櫂理君が負けるとは思えないので、どちらかといえば雨宮君を心配した方がいいような……。
「そうだよ莉子。殴って済むなら好きなだけ殴り合えばいいじゃん。二人とも加減はよく分かっているはずだから大丈夫」
すると、隣に居た美南にも腕を掴まれてしまい、二人に抑えられた私は何も行動が出来ない。
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