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◇◇◇




「はい、莉子。あーんして」


「……う、うん。いただきます」



あれから櫂理君に連れてこられた場所は、中庭の広場。


普段は不良達が陣取っているけど、櫂理君がいれば誰も近寄って来ない。


それだからなのか、櫂理君の甘えが止まらず、私は先程から彼にお弁当を食べさせられ続けている。


「ねえ櫂理君。お弁当自分で食べるから、お箸返して」


それもこれも櫂理君がもう一本のお箸をゴミ箱に投げ捨てた為、主導権は全て彼のものとなってしまった。


「それじゃあ、今度は莉子が俺に食べさせる番」


それをいいことに。

櫂理君はその権力を意図のままに操り、これまたキラキラとした穢れなき少年のような目を向けてくるもんだから、姉としては当然それを拒む事は出来ない。



この子、絶対私の扱い方分かってる!



そう気付いてはいても、手は勝手に動き出し、私は彼の掌の上で転がされる。



「櫂理君、美味しい?」


「うん。でも俺は莉子が作ったお弁当が食べたい」


「それじゃあ、今度作ってあげるね」



でも、それでいい。


やっぱり、何であろうと私の弟は可愛いから。


例え、人を締め殺そうとしても。

五人相手の大人を秒殺したとしても。

このヤンキー校史上最恐であったとしても。


昔と何も変わらない、あどけない笑顔を見せられたら、愛しさしか湧いてこない。



「ねえ、莉子。ちょっと寝たいから膝枕して」


それからお昼を食べ終わり、そろそろ美南の所へ戻ろうとしたところ。

またもや櫂理君の甘えん坊が爆発し、尚且つ猫撫で声で言われてしまっては、もはや太刀打ちなんて出来るはずがない。


「もう、十分だけだよ」


だから、一応条件はつけてみたものの。

結局はまた櫂理君のペースに巻き込まれてしまうんだろうなと、若干諦めつつある。



私の膝の上で満足そうに目を瞑る櫂理君。

サラサラの細い黒髪が膝に当たって少しくすぐったいけど、この髪質は触り心地が良くて、つい手が伸びてしまう。



こうしてまた、私は勝手気ままな弟を甘やかし続ける。


このままじゃダメだって分かっているのに、なかなか止められないのは、私も相当彼に対する愛が重いということなのか。



それは、弟として?

それとも、男として?



ふとそんな疑問が浮かんできて、櫂理君の頭を撫でていた手の動きがピタリと止まる。



……やっぱり、ずっとこのままでいいはずがない。



いつかは櫂理君の気持ちに応えないと、私達はこのまま前に進む事が出来ない気がする。



この曖昧な関係を、いつの日か終わらせないと。



そう心に決めるも、櫂理君の天使のような寝顔を見ていると、その決意は呆気なく崩れ落ちてしまう。



今はまだ、この穏やかで心地良いひと時を手放したくなくて。


そんな私の我儘と櫂理君の我儘がリンクして、結局は何一つ変わらないまま、今日もまた平和(?)な一日が過ぎようとしていた。

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