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「「櫂理さん、圭さん、おはようございます!」」



久しぶりに三人で登校することになり、校門をくぐった途端、門の両脇に立っていた彼らの取り巻きらしき人達が一斉に大声で挨拶をしてきて、思わず軽い悲鳴を上げてしまった。


中には櫂理君よりも上級生の人がいるのに、年齢の差は関係ないと言わんばかりに、皆首を九十度に曲げている。



「お、おはようございます……」


二人は全く相手をする気がなさそうなので、とりあえず私だけでもとビクビクしながら挨拶を返す。


とにかく、周りが怖過ぎる。


みんな髪色がカラフルで、刈り上げてたり、パーマをかけてたり、サングラスをかけてたり、顔中ピアスだらけだったり。


ここは学校のはずなのに、まるでヤクザの集会に来たみたいで、私はさり気なく櫂理君の方に避難した。


「櫂理さん、圭さん荷物お持ちします。……あっ、何ならお姉さんのも……」


「てめぇ莉子に近付いたら殺すぞ」


すると、金髪男子がご親切に私の鞄まで運ぼうと手を伸ばした瞬間、すかさず櫂理君のドスの効いた声が飛んできて、金髪男子は慌てて手を引っ込めた。



こうしてまた、私は要注意人物として注目を浴びてしまう。


この前の告白の時もそうだったけど、私に近寄る人は悉く櫂理君にやられてしまうので、今では私に話しかけてくる男子は殆どいない。


お陰で変に言い寄られなくなったのは有難いけど、腫れ物扱いをされるのは、あまり気分がいいものではない。





「えーそうかな?あたしはお姫様扱いされてるみたいで気分良いけど」


それから、櫂理君達と別れ、早速美南に今朝のことを話してみたら全く同調してくれず、相談相手を間違えたと後になって後悔する。


「だって、話しかけただけで怖がられるんだよ。こっちは若干傷付くんだけど」


「それだけ弟君の愛が重いってことでしょ。この前の騒ぎであの二人の地位が更に上がったから、余計じゃない?ていうか、その弟君が莉子に敵わないなら、この学校では莉子が一番最強ってことになるんじゃないの?」



こっちは真面目に相談しているというのに。

どうやら、自分で言った事がツボにハマったようで、美南は口元を手で抑えながら人を小馬鹿にするように笑い始めた。


まったく、他人事だからって好き勝手に言って。

私は本気で悩んでいるのに。


そう文句を言いたかったけど、更に揶揄われそうな気がして、これ以上何も言わずジト目で美南を軽く睨み付けた。




「…………あ。お弁当、間違えて櫂理君の持ってきちゃった」


とりあえず、早くお昼にしようと。

お弁当箱を取り出すためにカバンを開いた途端、大きな青いお弁当袋が視界に入り、慌ててそれを取り出した。


「そのお弁当莉子のより二倍くらい大きいじゃん。よく間違えたね?」


そう美南に指摘され改めて持つと、確かに重量感が半端ない。


どうりで、今日はカバンが重いと思った……。



「ちょっと櫂理君の所行ってくる!お昼先に食べてて」


とにもかくにも早くこれを届けなければと、私は急いで席を立ち、三階にある一年生の教室へと駆け足で向かった。



櫂理君の教室は階段を登ったすぐ脇にあり、恐る恐る中を除いてみると、彼の姿がどこにも見当たらなかった。


圭君もいないということは、もしかしたらにいるのだろうか。


そう思って、櫂理君に電話をしてみたら案の定。

彼は今旧校舎の空き部屋にいるそうで、私は電話を切った途端深い溜息が漏れた。


出来る事ならあそこには近付きたくない。

でも、無視するわけにもいかないので、私は震える心臓を抑え、来た道を引き返した。



旧校舎に入ると、廊下中にタバコの匂いが充満している。


壁には余すことなくカラースプレーで落書きがされたり、そこら中に壊れた備品が転がっていたりと、まるでスラム街のような光景。


だから、ここは教師もあまり立ち入らない。……というか、立ち入ろうとしない無法地帯な場所。


そして、この最上階が櫂理君達の別室であり、この学校のトップに君臨する人達が集う特別な場所でもある。


辺りを見渡せば、新校舎より不良達の密度が濃いけど、櫂理君のおかげで誰も私に近付こうとはしない。


その点は良かったと思うけど、やっぱり姉としては少し複雑な気持ちになる。




廊下に座る不良達の間を通り、四階のつきあたりにある別室に辿り着くと、私は緊張を和らげるために小さく深呼吸をする。


中には櫂理君と圭君がいるから、そこまで怖がる必要はないのに、やっぱり足が震えてしまう。


それから、二、三回扉をノックすると中から大柄なスキンヘッドの男が出てきて、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。


「……あ、あの。櫂理君いますか?」


学ランを着ているのに、まるでヤクザにしか見えない風貌に声が震える。


一刻も早くここから逃げ出したいけど、櫂理君にお弁当を届けるまではダメだと。


そう自分に何度も言い聞かせ、私は若干涙目になりながら強面の男を見上げた。



「あ、姉さん。どうぞ中入ってください」


すると、一変してスキンヘッドの男は笑顔で私を迎え入れてくれて、少しだけ拍子抜けしてしまう。


そして、恐る恐る奥へ進むと、窓際のソファーで寝そべりながらスマホをいじっている櫂理君の姿を発見した。


その隣には一人用ソファーで本を読んでる圭君の姿。


それから、数人の不良達が周りでお喋りをしているけど、何やら皆風格がありすぎる。


先程のスキンヘッド男もそうだけど、刺青が体中に入っている人や、派手な上着を着ていたり、金色ネックレスをつけていたりと、とても高校生には見えない。


けど、ここは廊下と違ってタバコの匂いが一切しないのは、櫂理君達が喫煙者ではないからだろうか。


そして、彼らが座るソファーは黒色牛革で、脇には小さな丸テーブルがあったり、赤い絨毯がひいてあったりと、一目見てここがトップの席である事が分かる。




「莉子」


すると、私の存在に気付いた櫂理君は、ソファーの端に座り直すと、空いてる席を手で軽く叩き、こっちに座れと合図をしてきた。


本当はお弁当を渡したらさっさと帰るつもりだったけど、目で強く訴えられたので、私は諦めて彼の隣に座る。


「はい、櫂理君のお弁当。ごめんね、間違えて持ってきちゃって」


「ありがと」


そして、手に持っていたお弁当を手渡すと、櫂理君は笑顔でそれを受け取った。



「…………で」


「なに?」


「私のお弁当は?」


「ないけど?」


「…………え?」



てっきり、櫂理君は私の分を持ってきたのかと思いきや。


至極当然のような顔で言われ、私は一瞬呆気にとられた。


「テーブルに莉子の分しかなかったから、何も持ってこなかった」


「……あー。そっかぁ……」


結局は全部自分が悪いということで。

私は諦めて今日のお昼は購買で済ませようと、ソファーから立ち上がる。 


「俺の二人で食べればいいじゃん。他にパンとか色々あるし」


すると、櫂理君は私の腕を軽く引っ張り、目を光らせながら、期待を込めた眼差しをこちらに向けてきた。


その表情がこれまた母性本能をくすぐり、返事に困る。



「それじゃあ、ここ以外の場所だったら……」


やっぱり、私には櫂理君の甘えを拒む事は出来ず。

だからといって強面の人達に囲まれながらお弁当を食べる勇気はないので、恐る恐る条件を出してみたら、櫂理君は私の腕を引いたまま即座に部屋を出ていった。

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