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__半年前。




「なあ。父さん、母さん。俺、莉子と結婚したいんだけど」



休日の昼間、特にやることがなくて一家団欒でテレビを観ていたところ、なんの前触れもなく放たれた櫂理君の爆弾発言によって、危うく飲んでいたココアを吹き出しそうになった。


「あー……うん。いいんじゃない?」


そして、何よりも驚いたことは、両親の反応があまりにもあっさりし過ぎていて、この人達の頭のネジは何処かへ吹っ飛んでしまったのではという不安に駆られた。


「いや、ちょっと待って!櫂理君突然何を言ってるの!?そして、お父さんもお母さんも何でそんなあっさりと状況を受け入れてるの!?」


「え?だって姉弟って言っても義理だし。別に法律上は問題ないから、好きにすればいいんじゃない?」


捲し立てるように突っ込んでみたら、今度は至極当然のような顔付きで聞き返されてしまい、私は一瞬呆気に取られる。


「今は恋愛が多様化している時代だしな。それに、どこぞの馬の骨よりかは櫂理の方が安心だし。ただし、二人が高校卒業するまでは、莉子に手を出さないっていう条件が守れたらだぞ」


「ああ、分かった」


それから、追い打ちをかけるようにお父さんが念押しすると、櫂理君は素直に頷き、このぶっ飛んだ会話はあっけなく終了してしまったのだ。




__そして、現在に至る。



「やっぱり、うちの家族可笑しいよね!?普通、義理といえども、もう少し反論したりしないの?てか、何で櫂理君はあんなに堂々と出来るの?」


「えー……。それ今更そんなこと言ってもどうしようもなくない?てか、莉子の両親の理解力凄すぎだわー」


昨日告白されたこともあり、櫂理君の監視の目が更に強くなったせいで我慢の限界を迎えた私。


そして、その不満を美南にぶつけたら至極まともな返答をされてしまい、言葉に詰まる。


「てか、あの超絶イケメンに愛されてるんだからいいじゃん。それに、偏差値70以上もあるのに、わざわざ莉子を追いかけてこのヤンキー校に入学してきたんでしょ?お陰であたしらは目の保養が出来て毎日ハッピーだから結果オーライじゃん」 


「いや。なんか後半話の趣旨がズレてますけど?」


せっかく人が真剣に相談しているというのに。

まともに取り合おうとしない美南の態度に、若干苛立ち始める。


「ていうか、莉子は櫂理君のことどう思ってるの?あれだけ好きだって言われてるんだから少しはグラつかない?」


すると、急に的を射る質問が飛んできて、油断していた私はぎくりと肩が震えた。


「そ、それは意識しないこともないけど……。これまでずっと可愛い弟として見ていたから、急に男としてなんて見れないよ……」


そして、しどろもどろになりながら心境を打ち明けると、段々と恥ずかしくなってきて、美南から視線を逸らしてしまった。



始めは、仲の良い姉弟関係だったのに。



お母さんが七歳の時に亡くなって、その三年後にお父さんが再婚した時、櫂理君は当時九歳だった。


その頃から少し捻くれていたけど、人懐っこい性格だから直ぐに打ち解けられ、気付けばいつも私の後ろをくっついていた。


昔から美少年だった彼は、性格も含め全部が可愛くて、私も櫂理君のことを本当の弟のように大事にしていたけど……。


それが理由だからなのか。


気付けば段々と櫂理君とのスキンシップが増え、一緒に居る時は何故かいつも距離が近い。


その時は、かなりのお姉ちゃんっ子になっちゃったなって。


そんな安易な考えをしていたけど……。



それが一気に覆されたのが、半年前の櫂理君の結婚したい発言。


本当に、寝耳に水だった。


まさか、櫂理君にそんな目で見られていたなんて、あの時は夢にも思っていなかったから。


それから、櫂理君の遠慮がなくなった。


家族の前でも堂々とスキンシップをするようになったり、受験の時も勧められていた学校を全部蹴って、この学校に入学してきた。


櫂理君なら、もっとレベルの高い学校を目指せたのに。


頭の悪い私が入れる近場の県立校と言ったら、このヤンキー校しかなかったのでやむを得ないけど、櫂理君は違う。


進学校に行けば、もっと可能性が広がったはずなのに、私のボディーガードになると行ってここまで付いて来てくれた。


お陰で、今は安心安全な毎日を過ごせるようになったのは良いけど……。






「あ、宇佐美姉だ」


「姉さん、お疲れ様です!」


「荷物重そうっすね。手伝いますよ」



「……あ。えと、結構です」



ボディーガードどころか、何故か私はこの学校内の極妻的な存在となってしまい、廊下を歩くと、すれ違う不良グループ達に次々と頭を下げられる。


「いやあー、やっぱり莉子の隣に立つと気分いいわー。皆あたしの下僕って感じ?」


「私は恥ずかしくて死にそうなんだけど」


先生に頼まれた荷物を手に持ち、なるべく周囲と目を合わせないよう身を縮こませながら歩く私とは裏腹に。

意気揚々とした面持ちで、廊下の真ん中を堂々と歩く美南の度胸には相変わらず恐れ入る。



この学校は昔男子校だったということもあり、男女比率は7:3で女子が圧倒的に少ない。

そして、未だ女子がなかなか集まらない要因は、この学校は不良の溜まり場だから。


更に言えば、この地区の不良が全てここに集結しているのではないかと言うくらい、校内はかなり荒れている。



器物損壊、脅迫、暴力行為は日常茶飯事。

卒業生が乱入してくることもしばしば。

風紀も乱れに乱れ、見てはいけない場面に出会したことも何度かあった。


先生達は勿論お手上げ状態で、警察の人が来ることも珍しくない。


そんな怖い人達が溢れかえる中、美南は数少ないまともな生徒のうちの一人で、一年生からクラスが同じ親友。


ほんのり茶髪のストレートで、ピアスもしているから始めは少し怖かったけど、話してみたら中身はとても真面目で勤勉で、そのギャップに萌えた。


その上度胸もあって、絡まれそうになった時は守ってくれたりもして、頼れる私のヒーローでもある。



でも、それは去年までの話で。


櫂理君が入学してからは彼の圧倒的な力と権力により校内に統制が出来て、今では私に絡む人は誰もいなくなった。


それが良いことなのか悪いことなのか、姉の立場としては何だかとても複雑な気持ちになる。

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