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「宇佐美櫂理いるかぁ!?」
すると、廊下の曲がり角を曲がった途端、突如聞こえて来た男の人の怒鳴り声。
何事かと声のした方を振り返ると、そこには私服姿のこれまた柄の悪い男五人組が金属バットを振り回しながら通路を闊歩している。
見たところ卒業生か、はたまた全く関係ない一般人か。
年齢は五人とも二十前後ぐらいで、タバコを咥えながら道ゆく人に絡んでいた。
「おい。今直ぐ宇佐美を連れて来い。あと、この前うちの島荒らした落とし前つけろって伝えろ」
「わ、分かりました」
そして、近くにいた男子生徒の胸倉を突然掴み上げ、今にも殴りかかりそうな勢いですごむ姿に、私は慌てて彼らの元へと駆け寄った。
「あ、あの!私は宇佐美櫂理の姉です!彼はもう家に帰ったので、ここにはいません!」
本当は今すぐにでも逃げ出したい。
けど、この大人数で攻められたら、流石の櫂理君でも太刀打ち出来ない気がして。
物凄く怖いけど、ここは姉として大事な弟を守らなければと。
使命感に燃えた私は、足を震わせながら柄の悪い人達を睨み付けた。
「へー。お前が噂の……」
「莉子ー!あんた何やってんのよ!?」
それから、男が私に手を伸ばそうとした直後。
背後から美南が勢い良く走って来て、私の腕を思いっきり引っ張った。
「だから、そうやって後先考えずに飛び出すなってあれ程言ったでしょ!あの、すみませんがそういうことなんで、私達はこれで失礼します!」
そして、私を一喝した後、美南は慌てて男達に頭を下げ、この場から立ち去ろうとした時だった。
「きゃっ」
突然もう片方の手を男に掴まれ、力強く引き寄せられる。
「おい、逃げんなよ。それなら、あんたでいいや。身内の粗相はしっかり取ってもらわないとだろ?お姉さん」
どうやら、私の考えはかなり甘かったようで。
男は怪しくほくそ笑むと、下心を含んだ目を向けられ、背筋がぞくりと震えた。
「……うわー。あいつ、よりにもよって宇佐美姉に手を出してるじゃん」
「マジで知らないのかよ。よくここまで乗り込んできたよな」
「本当にご愁傷様ー」
すると、緊迫した状況下。
何やら周囲から笑い声とヒソヒソ話が聞こえだし、男は血相を変えて勢い良く声のした方へと振り向く。
「おい、今笑った奴は誰だ!?俺をバカにした奴はぶっ殺……」
そして、怒号を飛ばして手に持っていたバッドを振りかざした瞬間。
突然脇から現れた櫂理君の飛び蹴りが炸裂し、男は一瞬にして吹っ飛ぶと、そのまま廊下の壁に頭を思いっきり打ちつけ、その場で気を失ってしまった。
「バカをバカ呼ばわりして何が悪いんだ?」
それから、既に意識が途絶えている男の体を力強く踏みつけ、ポケットに手を突っ込みながらニヒルな笑みを浮かべて男を見下ろす櫂理君。
「か、櫂理君!?暴力は……」
ダメ!と言おうとした矢先。
背後から別の男が櫂理君の頭をバッドで殴ろうとしたところ、瞬時に反応した櫂理君はそれを片手で受け止め、あろうことか、そのままバッドごと男を窓ガラスに向かって放り投げる。
窓ガラスの割れる音共に、男の上半身はそのまま外に投げ出され、下半身が窓枠にぶら下がっていた。
「ぎゃあああああ!宇佐美君やめてぇぇ!なけなしの修繕費で直した窓なんだよぉぉ!これ以上は壊さないでぇぇー!!」
すると、窓ガラスの割れる音で勢い良く駆け出してきた
教師は、顔を青ざめて絶叫しながら櫂理君を止めようとするも。勢い付いた彼をどうすることも出来ず。
櫂理君は怖気付いて動けなくなった残党に、尚も殴り掛かろうとする。
「櫂理君!本当にこれ以上はやめ……」
これは姉として、このまま弟を暴れさせるわけにはいかないと。
無理矢理にでも割って入り、彼を止めようした直後。
誰かに後ろから腕を強く引っ張られ、突然視界が真っ暗になった。
「ダメだよ莉子さん。今の状態で飛び込んだら、あいつらと同じ病院送りにされちゃうよ」
そして、少し低めのとても落ち着いた声が私を制し、顔と肩を手で押さえ付けられているせいで身動きが出来ない。
それから、視界を奪われたまま男達の悲鳴と物が壊れる音だけが響いてきて、状況が分からない分どんどん不安が募っていく。
そして、一分も立たない内に視界は解放され、目の前に飛び込んで来たのは、ところかしこに血を流して気を失っている男達と、無傷でその中心に立つ櫂理君の姿。
私は視界を奪った人物を確認するため見上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべている圭君が立っていた。
「暴力はダメだっていつも言ってるのに……」
今回は相手が襲い掛かって来たので、正当防衛と言われればそうなのかもしれないけど、それにしてはやり過ぎる。
つい先程、櫂理君がやられるのではと危惧していたのが、いかに浅はかだったと思い知らされるくらいに。
始めに襲い掛かってきた男は頭から流血してるし、床に転がっている男の腕は若干変な方向に曲がっているしで。
これは校内暴力で処罰されるのかと思いきや。
先生の様子を見る限りだと、負傷した男達よりも、どうやら壊れた窓ガラスと備品の方が大打撃らしい。
「ねえ、莉子さん。この弱肉強食な世界では、そんな道理なんて通用しないよ?」
すると、終始笑みを崩さず、落ち着いた様子で私を諭してくる圭君。
その言葉に反応した櫂理君はこちらの方を振り向くと、倒れた男達を平然と踏み潰して私の元へとゆっくりと歩み寄ってくる。
「ああ、そうだ。莉子に手を出す奴は、誰であろうとこの俺が潰す」
そして、先程の悪魔のような形相から一変して。
物騒な言動とは裏腹に、柔らかい笑顔を浮かべながら、私の頬に優しく手を添えてきたのだった。
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