第8話 大魔王の居城:裏門

「ここが、魔王、いえ大魔王の居城ですか――」

「そうッスね、リリアさん」


 あれから街道とは名ばかりの獣道に近い細道を歩くこと数日。


 当初の宣言通り『お役に立ちますから』を体現し現れる魔物や妖魔の類をいともあっさり、残虐なメイス術で撃退し続けたリリアに、武力では絶対敵わないと悟った俺はいつしか舎弟言葉でリリアに接するようになっていた。


「やだぁ、わたしがいくら神の信徒だからって貴族のリオン様が敬語使う事ないじゃないですかぁ~」

「あ、はい。そッスね……」


 怖いんだよ!

 目の前の大魔王城の漆黒がすぎる外観とリリアのどちらが怖いかと聞かれたら圧倒的に後者と答えるくらいには‼


 ――もうこの子が勇者で良いんじゃないかな。


 鈍器が時に鋭利な刃物のように、また別のある時は鋭い槍のように挙動を変える千変万化の打撃術は戦闘技術を超えて既に意味不明の域に達している。


 ま、まぁリリア様のいう事だし? 普通に話すくらいはしようかな?


 ――絶っっっっっっ対に怒らせないようにしなければ。


 そう固く心に誓う。


「では、参りましょうか」

「待ってください、いや待て待て」


 なんで普通にちょっと隣の家行ってくるわ見たいなノリで大魔王のいる城に入ろうとするんだよ……そもそもここが裏口だとは言え施錠くらいしてるだろうよ。


「開きましたよ」


 太さの異なる、細長い金属がいくつもじゃらじゃらと着いたピッキングツールをしゃらしゃらと振り回しながら、嬉しそうにリリアが開錠の報告をしてくる。

 俺は狂戦士と盗賊のハイブリッドを仲間に入れたのだろうか?


「ええっとですね、実は――」


 俺の表情に出た疑問符を察して突然何かを語りだすリリア。

 視線を斜め下の地面に向け、妙に恥ずかしそうな彼女を見ているととても残虐な戦闘狂には見えない。

「私、孤児だったのは話しましたよね。実はあの村で暮らし始めた当時は周囲に馴染めなくてですね、夜な夜な教会を抜け出しては裏通りに顔を出してたんですよ」


 物騒な告白が始まった⁉


「ほ、ほう……」

 そうなんですかと返さなかった俺をほめて欲しい。


「で、ですね。そこで優しくしてくれたお兄さん達に教わったんです。こんな所で役に立つとは思ってもみませんでした」

 そのお兄さんとやらは絶対盗賊で、どこかの家に忍び込もうとでもしてたんじゃないだろうか……。


「な、なるほどな。よくわかったよ。しかしリリア、怖くないのか?」


 ここは大魔王城の裏門、邪悪な気配を敏感に察知するリリアが反応しないわけがない――つまりはまた狂戦士モードが発動するのではないかと懸念しているのだけど。


「え、いえ。邪悪な気配は全く感じません。実家のような安心感を覚えます」


 育ての実家たる教会ではなんかエロ司祭に狙われてるみたいなこと言ってなかったっけ、この子。


 それとも引き取られるより前の記憶があるのだろうか?

 どちらにしろ、リリアの意見には賛成だった。


 俺もどれだけ凶悪な魔物が何十匹、いや何百匹待ち構えているのだろうと考えていたのだが、実際この場に来てみると、小さな魔物の気配すら感じない。

 まてよ、逆に超強い魔物は自らの気配を完全に消せるというし、そんなのがごろごろいるという事は――。


「っておい待てって」


 ほっとくとどんどん先に進もうとするリリアを引き留める。


「どうしました?」

「いや、ここ仮にも大魔王がいるんだぞ? もっとこう緊張するとか――」

「ないですね。先ほど申した通り、安心感しかありません」

「そ、そうか――そりゃ結構」



 え、俺の感覚がおかしいの?

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