第7話 リーチが短い武器が不利なら、それ以上のリーチを持つ武器を持てばいいじゃない

「ふっ……」

 懐から短い紐、じゃないな鎖かあれは、をおもむろに取り出すリリア。


 何をする気だ?

 メイスと鎖を括り付けている?

 

 槍で言う石突に当たる場所に設けられた小さなリングに、鎖の両端についたフックを引っかけているのか。


 じゃら、と音が鳴る。


 自らの胸の前、水平に突き出した両手にはそれぞれメイスが握られており、左右両方のメイスは先ほどの鎖でつながれている。


「はぁぁぁ――ホアタァ‼」


 右手一本で双槌(と呼ぶべきか?)を持ったリリアは奇妙な絶叫と共に、一瞬前まで左手で握っていた方のメイスを、前に出た長剣持ちのゴブリンのうちの一匹に向けて打ち付けた。


 メキィ……。


 ――リーチが短い武器が不利なら、同じくらいかそれ以上のリーチを持つ武器を持てばいいじゃない。


 そんな彼女の声がここまで駄々洩れに聞こえてきそうなくらいの満面な笑みを浮かべたリリアの目線の先には頬にメイスの先端がめり込んだゴブリンの悲痛な顔がある。


「オラオラオラオラオラァッ‼」


 そろそろそういう掛け声はやめて頂きたい。

 どこからとは言わないが絶対怒られるから。


 左、右、左、右。


 双槌を器用に操ってテンポよくワン・ツーを決め続けているうち、またしても不可解な現象が起こる。

 絶賛顔面サンドバッグ中のゴブリンが一発打たれるごと、少しずつではあるが着実に体が宙に浮いていくのだ。

 いやいやいや、どういう原理だよそれは……。

 仲間の顔が段々とひしゃげ、血や唾を幾度も垂れ流す様は、逆に言えば他のゴブリン達には絶好の反撃チャンスのはずだが、口をぽかんと開けて宙に浮く仲間を俺と同じように『あり得ない……』という表情で見つめている。


 見つめている辺り、仲間意識とか同族意識が低く他人ごとなのかもしれない。


「滅殺! 魔光弾‼」


 物理なのに魔を使っているし、その上光りもしなければ弾けもしないが、勢いよく跳びあがっての鋭い上段蹴りは的確に柔らかい腹を撃ち抜く。


 ――さすがに蹴りで腹を突き破るとかはないのか。


 が、しかし威力は相当なようでそのまま自分たちが隠れていた木の一つへ激突しようやく止まったかと思えば、その首は本来絶対に曲がらない方向へと折れてしまっている。

 ううむ、いかに妖魔、邪悪な存在とは言えかわいそうになってきたぞ。


 憐憫すら覚える狂戦士リリアの戦闘スタイルに、残るゴブリン達はすっかり戦意を喪失、一斉に後ろを向いて全力で前進を始めた。


「逃がすかッ!」


 ばさっ、と両手でマントをはためかせるリリア。


 ……………………………は?


「喰らえ! メイス・アロー‼」

 ※注意:鈍器は矢ではありません。


 マントの下に隠された無数のメイスを取っては投げ、取っては投げを繰り返し全体を足止めした後……いやこれ以上の事は多くは語るまい。


 とにかく逃げる相手も残らず地面にたたき伏せた彼女は、血や脳漿や他にも何かのゴブリン汁、肉片、骨片すらこびりついたメイスを空振りし、マントを翻してやはり返り血だらけの笑顔をこちらに向ける。


「さ、参りましょう、リオン様」



 屈託なく、邪悪を滅した達成感満開のその笑みは――怖かった。

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