第6話 世界で最も汚い近接戦闘

 俺は今、いったい何を見せられている……?


 『メイスで突きを繰り出したら臓器を貫通していた』


 どこの誰がそんな話を信じると思う? いや信じないね。

 俺が今目の前で起こった事をただの一行で説明されたのなら、『夢を見たのでないなら医者に行け、疲れてるんだ』と慈愛の笑顔を浮かべてアドバイスをしているに違いない。


 その後も意味不明な技名を叫ぶたびに一匹、また一匹とメイスを叩き込まれ絶命していくゴブリン共。

 その状況たるや、血しぶきが飛び交うのは当たり前。


 頭を殴られたら脳漿が飛び散るのはまだいい方で、サイドから全力の一打を喰らった個体なんかはパカンと頭が上と下に別れて灰褐色の脳みそが良く振ったビールの栓を抜いた時のように勢いよくプシャツと飛び出るし、右腕に振り下ろされれば右腕が、左脚を狙われれば左脚が、まるで鋭利な刃物で攻撃された時のように胴体から切り離される。


 しかし彼女の武器はあくまでもメイス、鈍器なのだ。

 刃物で切断された鮮やかで滑らかな断面ではなく、骨は砕け、肉はちぎれ飛ぶ荒業である。


 一言で言うなら『世界で最も汚い近接戦闘』とでも表現すべきだろうか。


「おええええええええ」


 戦いに身を投じた事は何度もあるし、これまでは特に何とも思わなかったのだが、初めて見る狂戦士(司祭)の戦い、いや一方的な乱闘の跡があまりにもグロ過ぎ注意。


 一度視線をそこに向けてしまったが最後、自分の脳が何を見ているかを把握したとたんに胃が自発的に昼飯に食べた郷土料理を全て道端に生える雑草の肥やしにしてしまった。


 それほどの惨状を現在進行形で作り出している当の本人はと言えば――こん棒や手斧と言ったメイスと同じくらいのリーチを持つ武器を手にしたゴブリン共を全てほぼ一撃のもと葬り去っていた。


 残るは剣や槍、少々メイスで相手をするにはいかに相手が小さな妖魔と言えど、苦戦しかねない武器を手にしている。

さすがに動きを止め様子を伺っているリリアを見、一瞬で半数の仲間を失ったゴブリン共は恐怖を覚えるどころかむしろにちゃにちゃと気味の悪い笑みを浮かべ始める。


――クックッククク。こいつらは我ら四天王の中でも最弱の存在。最弱を叩きのめした程度で良い気になるなよ人の女悪魔クソビッチが。


いや実際四匹どころか五倍ほどの数がいるというのは置いておいて、だいたいそんな事でも考えているのだろう。


あーだめだ、加勢に向かいたいがまだ胃がムカムカして仕方ない。

自分で戦う時は返り血を浴びようが肉片がへばりつこうが気にならないのに。


 距離を取って制止しているリリアを囲うように、残った十匹のゴブリン共はようやく長剣を持った前衛と槍の中衛に別れて半円状に陣形を組んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る